表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
292/682

37

 石畳が七区分に分かれているのは、両側に玉砂利を敷き詰めた広場の部分だけ。その先に変化はなく、均一な石畳が続いているだけだった。この広場と三ツ鳥居でカバラの十光を表しているとして、やはり間違いないみたいだ。ひょっとすると玉砂利の下も、七区分に分かれていたりして。などと右へ左へ顔を向けつつ歩いているうち広場が終わり、玉砂利が目に映らなくなった。次に来たら翼さんに許可をもらい、玉砂利をほんの少し横に移して地面を確認してみよう。密かにそう決意し顔を上げた俺は、立ち止まった。判然としない何かが心に引っかかり、俺の足を止めさせたのである。

 その何かを突き止めるべく、目に映る景色を注視する。真っすぐ伸びる石畳の両側に、幹回り10メートルの杉が植えられている。次いで目の焦点を様々な場所へ移動させたところ、杉に焦点を合わせたとき心が波打つことに気づいた。ただそれは特定の杉のみに起こるのではなく、左右が対になるよう綺麗に真っすぐ植えられた計24本の杉のすべてに共通して起こる現象だった。母さんの組織で習った知識の中に、24に関するものがあったか記憶を探ってゆく。まっ先に思い出したのは、24時間。24時間は午前と午後で12時間ずつに分かれ、つまり12の対であるからそれは、脳神経十二対の・・・・


「ッッッ!!!」


 衝撃が体を駆け抜け呼吸が止まった。それを改める時間も惜しいとばかりに、杉の本数を大急ぎで数え直していく。左右に12本ずつの、計24本で間違いない。無意識に輝力圧縮64倍を発動し、きびすを返した。七区分の石畳と三ツ鳥居が目に映る。背後に12、手前に7、その奥に3。この3、7、12の並び順を、俺は知っている。ひ孫弟子候補としてオリュンポス山に連れていかれ、山腹に建てられた建物の屋上に降り立ったさい見上げた、風になびく旗。その旗に描かれていた中央に点、それを中心に正三角形、それを中心に正七角形、それを中心に正十二角形という始めて目にした模様を、俺が忘れるなどあり得ない。あの模様を基にこの仮陸宮を造ったとするなら、1もどこかにあるはず。いやどこかではなく、三ツ鳥居の奥に1があるはずなのだ。俺は視力20にものを言わせ、三ツ鳥居の奥を凝視。しかし見つけられず、視線を少しずつ上へ移していく。だが注目すべき物は一向になく、とうとう視線が山の稜線を捉えた。と同時に、閃いた。


「山自体が、1か」


 無意識にそう口ずさんだ。そんな俺を、翼さんが静かに見つめている。64圧のままだが、才能の塊の翼さんなら十全に聴きとれたはずだ。俺は圧縮を解き、翼さんに顔を向ける。不可解な呟きをしたにも拘わらず、信頼のみを湛えたその瞳に語り掛けた。


「時が来たら説明するよ」

「はい。首を長くして待っていますね」


 俺達は微笑み合い無言で踵を返す。

 そして二人並んで、仮陸宮を後にした。


 当初の予定ではこのあと図書館を訪れ、映画を二本見ることになっていた。けど今の俺に、それは無理そうだった。『あの旗の模様を基に仮陸宮は造られた』 それを知ったからだろう、ポジティブな想いが滾々と湧き出てきて、自分一人の娯楽のために時間を使うことが不可能になっていたのである。その詳細は伏せねばならねど、自分一人の娯楽のために時間を使うことが不可能になったことなら、伏せる必要はない。よってそう伝えたところ、翼さんは顔をパッと輝かせた。


「では、いかがしましょうか?」「翠玉市を午後6時に出発するバスに乗りたい。午後5時までなら、屋外訓練場にいられるよ」「では午前に続き、午後も子供達にご教授願えますか?」「もちろんだ。最も有意義な時間の使い方だと思う」「一族を代表し、感謝します」


 そうと決まったなら善は急げだ、と俺達は戦闘服に素早く着替えて訓練場へ向かった。訓練場には午前を100人ほど上回る、300人近い子供達がいた。午後は図書館に行くと伝えていたのに午前の子供達全員と、新たに加わった子供達の計300人近くが、訓練場で熱心に無音軽業の練習をしていたんだね。その光景に、俺は思わず手を合わせた。続いて空を仰ぎ、創造主に誓った。

 午後5時までの時間を、この子たちの成長のために使います。

 頑張れ応援するぞと、夏の空に似合う熱い声援を返してもらえた気がした。


 午後の授業は、午前に増して上手くいった。その理由は一にも二にも、この子たちの素晴らしさにある。この一族の子供にとって、年長の子が年少の子の世話をするのは、至極普通のことらしいのだ。午前もいた年長の子たちが、午後に初めて来た年少の子たちの面倒を、非常によく見てくれた。それが無かったら、俺は教えることと面倒を見ることの両方をしなければならなかったはず。いや300人近くもいるのだから、面倒を見るだけで終わるのが普通なのだろう。けれどもこの授業は違った。教える時間をしっかり確保した授業になり、そしてそれは一にも二にも、この子たちのお陰だったのである。子供達に見つからぬよう建物の陰に隠れて授業を見学していた長老達にこの子たちがいかに素晴らしいかを伝えたところ、福神様のように皆さん微笑んでいた。「儂らも来世に向け、訓練に打ち込むぞ!」「「「「オオ――ッ!」」」」と盛り上がっていたのは、年齢を考えるとほどほどにしてもらいたいけどね。

 そうこうするうち、授業終了の時間になった。そう告げたところ年少の子たちが泣き、すると気丈に振る舞っていた年長の子たちも泣き出し、正直言うと途方に暮れてしまった。泣く子をあやした経験なら前世で無数にあったが、これほどの人数は初めて。泣いてすがって来る数十人の幼児達を振りほどく訳にもいかず困り果てていたところ、長老衆が助けてくれた。


「ほらほら、泣くでない」「泣いていると、お礼を言えぬぞ」「これほど良くしてくれた人に『この子たちはお礼も言えぬ子』と失望されることを、そなたらは望むのかな?」「そうなったらこの人は、そなたらに次は会ってくれぬかもしれぬぞ」「それを、望むのかな?」「嫌なら泣き止みなさい」「天風一族の子として、しっかりお礼を言うのじゃぞ」

選挙を話題にするのはこれが最後なので正直に言うと、選挙は外科手術ではありません。選挙は、ただの免疫機能にすぎないんですよ。


人の体には、日々数千個の癌細胞が生まれています。その癌細胞をやっつける白血球がいるから、人は癌になるのを免れている。この「沢山の白血球が癌細胞をやっつけ消していく」のが、選挙。癌細胞化した議員を選挙で落選させる社会機能は、国を健康に保つ免疫機能に過ぎないんですね。


では、外科手術は何なのか? 国における外科手術は本来、革命を指します。


しかし、考察力と決断力と行動力に乏しい人々にとって革命は巨大な困難を伴うため、ただの選挙が外科手術化しているということ。


そして日本は、それにすら失敗しました。


日本を持ち上げまくる嘘八百スピリチュアリストや詐欺宇宙人に、どうか惑わされませんように。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ