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 もちろん良いと答えると共に、配慮足らずだったことを翼さんに詫びた。翼さんは「配慮足らずではありません」と偽りない笑顔を浮かべたのち、要望に移る。せめてもの誠意として姿勢を正して聴いていた俺は、翼さんの優しさに視界が霞みかけた。翼さんは俺に、こう謝罪したのである。昼食時か夕食時に功さんが俺のもとを訪れ息子夫婦について訊くでしょうが、どうか寛大に接してあげてください、と。


「翼さん、約束します。息子夫婦を想う功さんの心を、俺は決してないがしろにしません」

「重ね重ね、ありがとうございます」


 祖父のために、翼さんは額が地面に付くほど深く腰を折った。蒼君も慌ててそれに続いたが、その慌てぶりに、総御当主なんて夢物語でしかないとつくづく思った俺だった。

 さて残っているのは、謝罪のみとなった。といっても翼さんは功さんの件でも分かるとおり情に厚い人だから、きっと「そんなの気にしなくていいよ」と笑って済ませられる程度のことなのだろう。との推測は、やはり当たっていた。


「翔さん。当初の予定では午前に映画を一本、午後に映画を一本見る予定でしたが、私どもの我がままのせいで、午後に二本まとめて見るしかなくなってしまいました。深く、お詫びいたします」

「翼さん」「はい」「自ら考え、自ら決断し、自ら行動しなければ、人は成長しない。この地に来てから、それに基づいて俺は行動してきた。長老衆との面会、仮陸宮への参拝、峰走り、そしてここでの講義。すべて俺自身が考え、決断したことだ。我がままなんて、これっぽっちも思っていないからね。よってそれよりも、二本の映画を見る希望を忘れないでいてくれた事の方が嬉しい。翼さん、ありがとう」

 

 感謝するのは我が一族の方こそですと翼さんは述べ、まこと女性らしい柔らかな笑みを浮かべた。この女の子と出会い、今日で7日目。この7日間以上に、人が自らの意思で変わっていく実例を目の当たりにしたことはない。俺は心の中で空を仰ぎ、感謝を述べた。


「自らを変える力を人に授けてくださり、感謝します」


 返事は無かった。その代わり、前世の弟や妹たちが成長していく様子をニコニコ眺めている自分が、脳裏に次々蘇ってゆく。

 ああなるほど、そういうことか。

 俺は創造主と同じ表情で立ち上がる。そして、


「さあ、寝殿に行こう」


 これから数十年に渡り顔をほころばせてくれるはずの後輩達へ、俺は元気よくそう呼びかけたのだった。


 寝殿で蒼君は長老衆に、次期当主を保留することを告げられた。「保留」という言葉が寝殿に響いた際、蒼君は体をピクと痙攣させた。そして下知が終わった今、蒼君は額を床に付けて体を小刻みに震わせている。そんな蒼君の姿勢を無理に正させることを、功さんはしなかった。とはいえ姿勢を正すまで待つつもりも無いらしく、次期当主つまり嫡子の身分を剥奪する「廃嫡」ではなく保留という措置になった理由を、功さんは説明した。

 それによると核機を知る者は、核機に関する違反者を政府に報告する義務があるらしい。核機という語彙を用いた文を軽々しく諳んじた蒼君を違反者とみなし、長老衆は事の経緯を添えて政府に報告した。罰として廃嫡を命じられたら寛大な措置と感謝せねばならぬと長老衆は覚悟していたが、命じられたのはあり得ないほど軽い保留だった。言うまでもなく長老衆は最大の感謝を政府に示すも、過度に寛大な措置を享受するだけでは、天風一族のおさとして示しがつかない。然るに理由を問うたところ、再度予想に反し理由を詳しく明かしてもらえたという。俺がそれを簡潔に説明するなら、「母さんの意向だった」になる。だが母さん、つまり星母様という語彙の使用を制限されている長老衆に、そんな簡潔な表現は不可能。功さんはおそらくかなり苦労して、蒼君にこう説明した。


「蒼が違反をした現場にいたのは、核機が常識でしかないお方と、核機に拝謁した者の二人のみだった。そのお陰で『機密漏洩に該当せず』と、判断してもらえたのだ。蒼、今回のあり得ぬほどの減刑に、そなたは一切関わっていない。ゆめゆめ、慢心するでないぞ」

「はい!」


 そう応えた蒼君は正座のまま体の向きを変え、斜め後ろに座っていた俺に腰を折った。ここまでは想定内だったけど、これ以降は想定外だった。長老衆が、蒼君に続いたのである。


「ご子息様のお陰で、我らも拝謁の僥倖を賜りました。ご尊顔を拝し奉ったのは、天風家の歴史において初めてのこと。一族を代表し、最上の感謝を捧げます」


 ヤバい。ご子息様なんかじゃないけど否定したら母さんに今度会ったとき嘘泣きされて面倒だし、かと言って認めるのも違う気がするし、さてどうすれば良いのか?

 と悩んだことを、そのままぶちまける事にした。


「えっとですね、ご子息様などではありませんが否定したら今度会ったとき嘘泣きされて面倒ですし、かと言って認めるのも違う気がするので、息子として遇されるのはこの場限りにしてもらえるとありがたいです」

「そう希望されるなら我らは叶えるのみですが、翔さんは度々お会いしているのですか?」「月にほんの三回だけですよ」「つ、月に三回も!」「我らは800余年で今日が初めてだったのに!」「さすがご子息様じゃ!」「「「「はは~~~」」」」


 はは~~と言うのは笑ったのではなく五人揃って平伏したのだがそれは置いて、三回のうち二回は授業をしてくれるから大感謝でも残り一回は毎月ケーキをねだられ、財政を圧迫しているんですよね、ハハハ・・・・

 けどまあ、それこそさて置き。


「蒼君、保留解除の日が一日も早く訪れることを、俺も願っているよ」

「ありがとうございます。ご期待に応えられるよう、精一杯努力します」


 蒼君とそう言葉を交わし、俺と翼さんは寝殿を後にした。昼食を早く摂らないと映画を二本見る時間がなくなるし、何より俺、お腹がメチャクチャ空いているからさ。


 その後、翼さんに案内され北のたいに向かった。正午を過ぎた12時半だったからか昼食は粗方用意されていて、後はご飯が炊けるのを待つのみとなっていた。ご飯が炊けるのを待つのみと聞き、驚喜しないなどあり得ない。俺は息せき切って尋ねた。


「たっ、炊き立てご飯を食べさせてもらえるの!」「はい、どうぞご賞味ください。私の父の前世は、日本の新潟県で数百年間暮らしていた一族の長男だったと、爺が話していました」「な、なんですと!?」「仮陸宮と寝殿を結ぶ道の両側が、水田になっていましたよね。あの水田には、父が食料省と共同開発したお米が植えられています。『間違いなく日本の米だ』と、父は泣きながらご飯を食べていたそうです」「ヒャッハ―――ッッ!!」

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