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「だが一番憎いのは、ふがいない俺自身だ。なあアンタ、俺はどうすればいいのだろう」

「少し待て、挑戦してみる」


 蒼君は今後も関わってゆくに値する男、と判断した俺が咄嗟に閃いたのは、「挑戦してみる」だった。今の俺に、真のアカシックレコードを読む力はない。だから、挑戦してみたのである。不可能を可能にする、挑戦を。

 挑戦に勝つべく、俺が思い出したのは二つ。一つは、ティペレトの光。もう一つは、準四次元界で創造主に語り掛けられたこと。俺が今まで見た最も波長の高い光は、ティペレトの光。最も波長の高い意思は創造主に語り掛けられたとき感じた、創造主の意思。よってこの二つをありありと思い出し、そして二つと極限まで同調できれば、素粒子一個ぶんほどの通路を第一界と繋げられるかもしれない。真のアカシックレコードがあるのはほぼ間違いなく、第一界だからさ。

 かくして俺は自分という意識を可能な限り放棄し、思い出した二つへ飛び立っていった。自分を持っていると「両者」が生じ、そして両者には絶望的な開きがある。よって自分を極限まで放棄し、二つへ向かってただただ飛ぶだけの存在に俺はなったんだね。

 するとなぜだろう、非常に巧くいっている気がしきりとした。ひょっとすると、飛ぶことをイメージしたのが良かったのかもしれない。ほら俺にとって空を飛ぶことは、心底楽しめる趣味の一つだからさ。

 俺は飛ぶ、高みを目指してただ飛ぶ。すると次第に「俺」という感覚も薄れていき、薄れ過ぎたら目的も忘れてしまうのではないかと少々不安になった。だが薄れるのは「俺」であって、本体ではない。本体が覚えてさえいれば、本体がそれを成し遂げてくれるに違いないのである。よって薄れゆくままにし不安も手放して、飛翔の楽しさをただただ楽しんでいたところ、


「・・・・・」


 表現するのが極度に難しい場所に俺は突如いた。かなり無理して譬えるなら、「数百数千の交響曲が同時に演奏されているのに煩くないどころか、どの一つを取っても他の全てと完璧に調和し、荘厳さと美しさにおいて無比な音楽になっている」のような感じかな。それら数百数千の交響曲は似ているがやはり一つ一つ異なり、しかし異なっていても根本的には同じで、つまりどういう事かというと、


「あの交響曲は地球のオカルト界でいうところの、世界線か」


 という訳だったのである。物質は究極的に波長であり、意識も波長であり、物理法則と宇宙法則と因果の連なりも波長なのだから、主題を等しくする波長はクラシック好きの俺に交響曲という印象を抱かせた。俺がいるのはそんな場所で、ならば世界線は何かと言うと、


「なるほどこれが、蒼君限定のアカシックレコードか」


 という事だったんだね。一瞬一瞬の選択によって世界線は分かれ、しかし分かれるも根本的には同じだから、蒼君の過去と未来および可能性の全てをこうして一つに纏められる。俺はそのひと纏めの波長を俯瞰して・・・・


「いや、時間と共に可能性の分岐も増えるから、全体の俯瞰はできないな」


 今の俺如きに知覚できるのは、次の戦争の数年前までらしい。確か母さんが言ってたな、現在の成長度を超えるものは見ようにも見えないって。こりゃホント、俺には無理だわ。などとケラケラ笑って余裕の生まれた心で、戦争数年前までの蒼君を俯瞰する。すると、俺に「どうすればいい?」と尋ねた蒼君は0.01%レベルの超希少な蒼君だったらしく、そしてその先にだけ、天風五家の当主になる世界線があった。その蒼君は幸せな日々を過ごしており、自分で自分を育ててきたことをとても誇りにしていた。「良かったな、蒼」 俺は無意識にそう呟いていた。その途端その場所から、俺は急速に離されて行った。呟くことによって生じた波長とあの場所の波長が、似ても似つかなかったんだね。うっかりミスではあるけど、調査完了していたから良しとしよう。俺はあの場所に手を合わせ、元の次元に戻って行った。

 瞼を開ける。

 なんと粗雑で自由のない牢獄のような次元に帰って来てしまったことか、との失意を意識の隅に押しやり、周囲へ目をやる。

 膝立ちになっていたはずの蒼君は正座し、こうべを深く垂れている。俺の隣に立っていた翼さんも半歩後ずさった場所で正座し、だが蒼君と違い背筋を伸ばして俺を見つめていた。その双眸から、涙が二筋流れている。しかし悲しみの涙でないのは一目でわかり、俺はハンカチを渡して翼さんの頭を撫でてから、蒼君に向き直った。


「蒼君が、天風五家の当主になる未来があったよ」

「核機の件の罰として、次期当主を降ろされる覚悟を俺はしていました」

「そうだったね、後で寝殿に向かおう。長老衆が詳細を教えてくれるよ」

「ありがとうございます」


 額を地に着ける蒼君の前に、俺も正座した。蒼君が上体を起こすのを待ち、質問の答に繋がる会話を始める。


「蒼君は今までの自分を、どう振り返るかい」「自分を過剰評価していたにも程がある、思い出しただけで死にたくなる激痛クソガキです」「自ら考え、自ら決断し、自ら行動しないと、人は成長しない。それを厳守するなら、蒼君に助言してはならないのだろう。しかし過去の自分を潔く振り返った若者へ、手を差し伸べるのも年長者の務め。然るに問う。過去の悪果は今の善果で中和可能と知ったら、どんな善果に励むかな?」「すぐには思い付かないようです、1分くださいませんか?」「うん、いいよ」


 蒼君は瞑目し、熟考を始めた。だが20秒で顔に苦悩が差し、40秒でそれは脂汗に代わり、そして1分後、彼は慟哭していた。彼は、気づいたのである。意図的に施した善行が、自分には一つも無いことを。

 しかし地球と異なり、彼の擁護は可能。この星には、不幸や不正がほとんど無いのだ。地球のように右を向いても左を向いても不幸と不正だらけなら善を行う機会に事欠かないが、この星は真逆なんだね。一人でできる善行ももちろんあるけど、それは蒼君が自ら発見すべきこと。俺にしてあげられるのは「意図的に施した善行が自分には一つも無い」と気づかせることと、もう一つしかない。そのもう一つへ、俺は踏み出した。


「ならしばらく、自分で自分を罰してみないかい?」「善行を見つけるまで何もしないという道が、俺にありません。自分で自分を罰しつつ、善行を探していきます」「よかった、それについてなら相談に乗れるよ。蒼君はどんな罰を、候補にしているかな」

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