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 晩御飯は結局、二回に分けて摂ることになった。運動をしている成長期の腹ペコ男子にとって20分ちょっとは、十分な晩御飯の時間に到底ならなかったんだね。

 ただ一回目と二回目の間は、15分も空かなかった。青海さんとの交渉が、10分かからず終わったからである。晩御飯を途中で止めて食堂上の個室自習室へ行き、約束の19時半に始まった3D電話で初対面の挨拶を互いに終えるや、これ以上待てないとばかりに青海さんは早口で言った。「星母様は翔君を、格別に気にかけているのね」と。


「剣と魔法部の部室で行われた翔君達の話し合いを、圧縮して見せてくれた星母様に、頭を下げられて頼まれたの。『どうか息子達の力になってあげてください』ってね」


 青海さんによると、今回のように複数の人達についてお願いする場合、「この子たち」という表現を母さんは今まで必ず使ってきたらしい。しかし今回は母さんが俺を強くイメージしていたため、無意識に「息子達」を選んだという印象を青海さんは受けたとのことだった。母さんが次元の彼方で羞恥とションボリを目まぐるしく入れ替えている気がして焦るも、ここでアタフタするようではいざという時、大切な人達を守れないに違いない。俺は落ち着いて母さんに感謝を告げ、青海さんとの対話を続けた。

 もっとも青海さんは部室で行われた俺達の話し合いをすべて知っており、かつ協力する気満々だったから、対話より口裏合わせが適切だと思う。俺が青海さんを知っていた、つじつま合わせを二人でしたんだね。幸い組織の一員の青海さんは鈴姉さんと小鳥姉さんのかなり親しい友人だったため、話はすぐまとまった。ただ「二人が翔君を可愛い可愛いってやたら自慢するのよ。私にも可愛がらせてね」には、トホホってなったけどさ。

 連盟を割ることも辞さない急進派の情報も、とても役に立った。また古参会員の青海さんはあちらでも幹部らしく、「銀騎士隊の設立メンバーに私が含まれていた方がバランス的にも断然いい」との意見には胸を撫でおろした。この意見は100%正しく、仮に青海さんがいなかったら教導班の班長を、一から教育せねばならなかったはず。その苦労を思うと、背中に寒気を覚えずにはいられなかった。

 また青海さんは朝倉さんとも面識があるらしく、白騎士隊への協力も申し出てくれた。俺が額を机にこすり付けたのは言うまでもない。だがその直後、


「ちょっと翔君、星母様に聞いたよ。晩御飯を中断しているそうね、なぜ私に相談してくれないのかな」


 と叱られてしまった。へいこら謝罪しつつ「こりゃ鈴姉さんや小鳥姉さん級に頭の上がらない年上女性ができたみたいだな」と、密かに溜息をついた俺だった。

 青海さんに命じられ、その後すぐ晩御飯を再開した。15分かからず再開できたのは、ありがたいの一言に尽きる。中途半端にお預けをくらった食欲が、不満を叫びまくっていたんだね。晩御飯再開後の十数分をどうしても思い出せないほど、ただひたすら食事を胃に詰め込む時間が暫し続いた。

 午後八時近くになりようやく一息ついたころ、朝倉さんのメールが届いた。それを開くなり瞠目した。『白騎士隊の組織案を作ってみました。ご意見をお聞かせください』と、書かれていたのである。美雪に頼み、メールに目隠しの蜃気楼壁を展開してもらってから、組織案へ視線を走らせた。


「白騎士隊隊長、空翔。呼吸教導班班長、霧島小鳥。秘匿訓練教導班班長、深森鈴音。戦闘教導班班長、霧島達也。宇宙法則教導班班長、深森雄哉。主席隊長補佐、朝倉新之助。次席隊長補佐、青海渚」


 俺は食事を中断し、テーブルに肘をつき頭を抱えた。そんな俺を案じる美雪の視線に気づき、詫びて食事を再開する。その代わり咀嚼時間を利用し、美雪とのチャットに励んだ。その結果、組織案に名のある六人の大人へ感謝のメールをそれぞれ送ることと、改定案のメールを朝倉さんと青海さんの二人に送ることが決まった。咀嚼時間を利用し、その二つをただちに実行する。ちなみに美雪の意見を参考に変更したのは、朝倉さんと青海さんの役職。朝倉さんは教導班統括班長に、青海さんは主席隊長補佐に、なってくれないかなって思ったんだね。朝倉さんには副隊長の案もあったけど、白騎士隊に副班長がいたら銀騎士隊にもいないとバランスが悪い。これは銀騎士隊の統括班長にも同じことが言えるので、このような改定案を送ってみたのだ。結果は、両者とも快諾。かくして銀騎士隊と白騎士隊が、正式に発足したのだった。

 その後、若林さんと小松さんと翼さんにもメールし、二つの隊の発足を喜び合った。また小松さんと青海さんのメールには、連盟を割ることも辞さない人達への接触を今夜から始めると書かれていた。協力を惜しまないことを、俺もメールで伝えた。

 ここまでは比較的順調に進んだけど、思いもよらぬ爆弾が控えていた。食事を終え入浴を済ませた、午後八時半。大浴場から101号室へ向かう道すがら送られてきた翼さんのメールに、その爆弾はあった。それは、


『映画を視聴できる翠玉市の図書館はどこも予約で一杯でした。うちで観ましょう』


 との、一文だったのである。 

 白状するとそのメールを開いた後の1分間、俺は身動きできなかった。少しでも動こうものならバランスを崩し、廊下に蹲ること必定だったからだ。幸運にも夏休み中で生徒が圧倒的に少ないうえに、お風呂の混む時間が終わっていたため廊下に誰もいなかったが、普段なら一体どうなっていたか。どこかのアホ猿が超感覚を働かせて「翔が女の子のメールに戸惑ってるぞ!」と触れ回り、女の子の自宅に招待されたことが全員に知れ渡ってしまったはずだ。そうならなかったから幸運なんだ間違いないんだ、と自分に言い聞かせることで危険な1分間を強引にやり過ごした俺は101号室の前を素通りし、個室自習室へ向かった。そして、


「美雪ごめんなさい、油断が過ぎました。檻に入り内側から鍵をかけるなんて、どうかしないでください」


 俺は自習室の床に正座し、美雪に土下座したのだった。

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