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 これは逆もまた真なりで、親と上役を総称して「前例」にすると、半人前は前例の踏襲しかしないという日本の役人の適格な描写になる。暗記や情報処理という最も低い知性を最重視した教育の最適合者だから、前例の踏襲しかしない半人前で当然なんだけどさ。

 それはさて置き、そんな半人前達とは真逆の三人には、「親や上役の顔色を窺っているうちは半人前」が深く刺さったらしい。小松さんと翼さんが挙手し、「俺達二人と護の三人で話し合って良いですか?」と訊いてきたので、俺は大賛成した。物おじせず挙手して自分の意見を堂々と述べ、他者と協力することでより良い成果を出そうと試みるなんて、ポジティブの極みだからである。その試みは見事成功したのだろう、三人の結論を代表して発表した若林さんは、実に晴れ晴れとした顔をしていた。


「自分の行動が機械によって逐次観察され、心の成長度を計る材料になっていると知っても、委縮しない人は少数なのが現実です。大多数の人は委縮し、評価低下を恐れるあまり、高評価される言動のみをするようになるでしょう。それは恐怖に支配された消極的な人生、つまりネガティブな人生なため、アトランティス政府は時期尚早と判断した。心の成長度は機械による客観的な計測が可能で、厳密かつ正確な計測結果を政府が所持していることは、かくなる理由により機密とされた。翔さん、こういう事ですか?」


 あくまで個人的意見ですが全面同意します。そう応じたら三人はガッツポーズし、ハイタッチを交わしていた。本来ならそれは手放しで嬉しいことなのに、翼さんの喜びようが少々度を越しているように感じられることへ、俺は微かな懸念を抱かずにはいられなかった。「優秀過ぎる翼さんには、こんなふうに喜びを分かち合える対等な同学年の友人が、ひょっとしていないのかな?」と。

 それは後で冴子ちゃんに尋ねるとして、俺は俺のみに可能なことをした。そうつまり、


「以上をもちまして、仲間内の秘密および国家機密の全てを説明し終えたことを、お知らせします」


 と明言したんだね。いやはや、当初の想像の十倍近く時間がかかったというのが、本音だなあ。

 そんな俺を「いいぞいいぞ~」「ヒュ~ヒュ~」「「「お疲れ様~~」」」と三人は囃し立て、それに照れつつ「ど~もど~も」と応えるというお約束のやり取りを経て、この会合はクライマックスを迎えた。小松さんが議長として、クライマックスの問いかけを皆にする。


「ぜひ意見を聴かせてください。今ここで決まったことを、連盟を割ることを辞さない人達へ、『連盟を割らないための案』として伝えることを、いつしたら良いと思いますか?」

「はい、それについて重要情報があります」


 挙手した俺に三人の注目が集まる。若林さんは予想しているようだけど、母さんの組織の秘密が関わるためアイコンタクト等は避け、重要情報を発表した。


「政府発行の契約書を皆さんが精読している時間を用いて、秘匿訓練教導班の班長になってくれそうな人へメールを出しました。返信がすぐ届き、3D電話で今晩話し合うことになりました。現時点で名前を公表していいとの言葉をもらっているので、甘えさせてもらいます。その人の名は、青海渚おうみなぎささん。連盟の古参の一人ですから、青海さんの人柄をお二人はよく知っていると思います。小松さん、青海さんが秘匿訓練教導班の班長でも、構いませんか?」


 正直言うと、これは事実に反する。契約書に、母さんの伝言が添えられていたのだ。母さん曰く、『連盟に不満を持つ母親達の情報を護に渡していたのは、同胞団黄組の孫弟子の青海渚さん。渚には私が連絡したわ。今夜の7時半以降なら3D電話で話し合えるって』との事だったのである。母さん、マジありがとうございます!

 母さんへの感謝は後で伝えるとして、青海渚の名に小松さんが喜色を浮かべた。


「青海さんの人柄は、よく知っています。班長を承諾してくれるなら、感謝の気持ちしかありません。俺がそう言っていたと、今晩の会合で青海さんに伝えておいてください」


 そう言って腰を折った小松さんへ、了解ですと答えて俺も腰を折る。俺の上体が元に戻るのを待ち、小松さんは再度皆へ問いかけた。


「青海さんが班長就任を了承した、と仮定します。『連盟を割らないための案』を伝える日時に、意見のある人はいますか?」


 それから暫く活発な意見交換が成された。焦点となったのは、俺の就寝時間。午後9時に寝たいと希望を述べたところ、それを叶えるための方法を三人は熱心に話し合ってくれたのだ。その皆の姿が、涙もろい俺の涙腺を決壊寸前に追い詰めたのは言うまのでもない。それに気づいていない振りをあえてして、小松さんが方法を発表した。


「今日ここで決定したことを他者へ解りやすく伝えるための、プレゼンの原稿を今から作ります。今夜の青海さんとの話し合いに、翔さんもそれをぜひ使ってください」


 今日ここで決定したことを青海さんが素早く理解すれば、話し合いの時間を短縮できる。好意的な印象を抱いてもらえるならなお良く、ならばそれを行き当たりばったりで試みるより、プレゼンの原稿を事前に準備しようではないか。との趣旨により、議論はこの結論に至ったのだ。決壊寸前で留まっていた誰かさんの涙腺が決壊してしまったのはさて置き、俺達四人は一致団結してプレゼンの原稿作りに邁進した。

 原稿作りは思いのほか難航し、午後2時半の時点で完成まで残り三割といったところだった。それを受け「腹が減っては戦ができぬ」「そして今は、そろそろおやつの時間である」「さあみんな、学食に繰り出そうではないか!」「「「異議な~し!!」」」となるのが、食べ盛りの若者というもの。学食へ向かった俺達は食事と大差ない量のおやつを平らげ、そしてその後、大きなお腹を抱えて談話室の琉球畳の上に寝転がった。食事中から活発だった会話が、心地よい風に促され更に活発化してゆく。しかし風と琉球畳が快適すぎたのだろう知らぬ間に寝てしまい、気づくと午後4時過ぎになっていた。こりゃマズイとプレゼンの原稿作りを再開したところ、栄養補給と昼寝のお陰か四人の脳は冴えまくり、たった10分ちょい後の4時半に完成させることが出来た。かくして後顧の憂いの無くなった俺達は「お待ちかねのドラゴン戦だ!」とばかりに、張り切ってグラウンドにやって来た。のだけど、


「ほえ~!」「はえ~!」「ひえ~!」「「「スゲ――ッ!」」


 野郎三人は翼さんの超絶技巧に、ただただ感嘆するばかりだった。冗談ではなく頑張って言葉を捻り出さない限り、「ほえ~」や「はえ~」に類する感嘆しか口から出てこなかったのだ。ただ例外も一つだけあり、それは「「「名は体を表すって本当だったんだな」」」だった。翼に風を受けてモンスターを次々倒していく、天使。天風翼さんの戦闘を見て俺達が感じたのは、それに尽きたのである。

投稿が遅れて申し訳ございません<(_ _)>


諸理由により、昨日の後書きの後半部分を削除しました。

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