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話を元に戻そう。
頭頂少し後ろがこのように凹んでいるのは第三の目の名残ですと説明したところ、「第三の目はここじゃないですか?」と二人は眉間の上を指さした。鈴姉さんに教えてもらった知識の中から、ここで明かせることを厳選して答えていく。
「松果体を介して体内に流入した力が通る道は、複数あります。その中で最も感じ取りやすいのが、この図の1と2を結ぶ通路です。2の視床下部は、私達が日ごろ普通に意識している『普通意識』の中心点を担っています。よって人が松果体の力を外界へ向けて使うさい、1から2へ流れた力が額のこの部分を通過するため、この部分に特別な何かがあると人々は考えるようになりました。その考えを、古代叡智を中途半端に齧った人が『そここそは第三の目』と後押したせいで、その場所が第三の目として間違って世に広まっているんですね」
マジっすか系の言葉が頻繁に飛び交うも、若林さんと小松さんは俺の説明を根っから信じてくれているみたいだ。母さんと組織を伏せるしかない俺としては、ありがたいの一言に尽きる。俺は胸中二人に手を合わせて、先を続けた。
「1と2を結ぶ通路は松果体の力を運ぶ通路ですから、綺麗に掃除して流れを良くしておくに越したことはありません。工芸スキルを習得したいなら、掃除は特に重要ですね。なぜなら可変流線型を創造する力は、この通路を伝って外界へ運ばれるからです」
物質を創造するなら通路を二つ追加し、三つの力線を交差させねばらないが、輝力壁は眉間のみで足りるから今は伏せるとしよう。それはさて置き、
「「「オオ―――ッッ!!」」」
との感嘆に続き、三人の拍手が部室に響いた。ど~もど~もとペコペコする俺に、今度は笑いが溢れる。ポジティブに満たされた空間へ、ポジティブ勢力が大切に保管してきた知識を俺は放った。
「輝力は、松果体を介して体内に流入する力です。では一体なにが、輝力を松果体へ供給しているのでしょうか? 詳細は伏せますが三次元物質を超える存在のその何かは、松果体とピッタリ重なった場所にあるのではありません。厳密には三次元にいませんが大まかな場所としては、その何かはこの近辺にいると考えていいですね」
空中に投影した脳内図の、1と3を結ぶ線の中間あたりを俺は指さした。小松さんが目を見開きサッと挙手する。「すみません、無意識に挙手してしまいました」「ぜんぜん構いませんよ、何なりとどうぞ」とのやり取りを経て、予想どおりの問いを小松さんはした。
「宇宙エネルギーを取り込むチャクラとされる第七チャクラのサハスラーラは、頭頂にあると言われていますよね。前世で俺は、その頭頂を大泉門と教えられましたが、何となく違う気がするんですけど頂眼址は大泉門なのですか? あと1と2の通路の延長上を第三の目と誤解したのと同種の誤解を、サハスラーラにもしていたりしますか?」
ああなるほど小松さんはママ先生と同じ、組織に所属せずともこの星を卒業するタイプなのだな。との閃きを表情に出さぬよう、俺はかなりの苦労を強いられてしまった。
「勘のとおり、頂眼址は大泉門ではありません。大泉門は出生時に、頭蓋骨をずらして細長くした名残ですからね」
若林さんが「大泉門?」と首を捻っている。ヤバイ、そういえば鈴姉さんの講義で頂眼址を扱ったとき、若林さんはまだメンバーじゃなかったんだ! と今更気づいた薄情者の俺に大丈夫ですよと微笑み、若林さんは小松さんに顔を向けた。
「仁、大泉門ってなに?」「えっとだな、人は頭部が大きくなりすぎて、産道を通るのが非常に難しくなってしまったのは知ってるか?」「かろうじて記憶にある程度なら、知ってる」「それで十分だ。で胎児は産道を通過するさい、頭蓋骨の結合を自ら解いて細長くし、ついでに肩も脱臼させて、母親になるべく負担がかからないようにするんだよ」「スゲーな胎児!」「うん凄い。そんでその細長くなった頭蓋骨の先端は、誕生後に骨の再生が最も遅れる部分でな。新生児のその部分は骨がまだ無くてポヨポヨしてて、頭蓋骨が形成され結合し蓋をされるまで時間がかかる。その蓋によって、ポヨポヨが窪みとして残る人もいれば残らない人もいるが、窪みの有無に関係なくそのポヨポヨしていた箇所を、大泉門と呼んでいるんだよ」「理解した。仁、サンキュー」
コツンと拳を合わせる二人に親友の絆を感じ、胸がほっこり温かくなった。翼さんもほのぼのした表情をしているから、きっと同じなのだろう。かくして俺もほのぼのしていたら、やっと思い出した。小松さんの質問は、もう一つあったんだった!
「すみません、もう一つの質問に答えるのを忘れていました。お詫びなのか蛇足なのか定かでありませんが、とある自然現象に絡めてお答えしますね」
蛇足にならぬよう祈りつつ、砂漠に残る大河の跡について話した。砂漠が大陸規模で拡大すると、大河といえど水が干上がってしまう。しかし干上がっても、大河の跡の中心付近を掘れば、地下水を大抵掘り当てられる。地上を流れる水は消えても、地下では水がまだ流れ続けている。大河とは、そういうものなのだそうだ。
幸いこの話は好評を博し、蛇足にならなかったらしい。一安心し、本命に移った。
「かつて人は頭頂の少し後ろに、赤外線も知覚可能な三番目の目を持っていました。その消失から膨大な年月が経ちましたが、両者を結んでいた痕跡はさっき話した地下水のように、まだ残っています。それを利用すれば2と3を繋ぐ通路を、人は比較的容易く活性化させられます。それに乗じて、輝力の供給元との繋がりも活性化させる。第七チャクラのサハスラーラに関する知識の大本は、これですね」
さっき以上の感嘆と拍手が部室を満たした。ならば俺もさっき以上にペコペコせねばと意気込んだところ、爆笑が響き渡ってくれた。俺はほくほく顔になり、仲間内の秘密の本命を話してゆく。
「炎狼と戦っていた人達の、物質肉体の身体能力と戦闘技術はとても高く、個人的には不足を感じませんでした。不足を挙げるなら輝力関連、特に輝力操作と輝力量の二つになるでしょう。輝力工芸スキルの習得訓練はこの二つを同時に向上させますから、断然お勧めです。さあでは、習得訓練を紹介しますね」




