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 三人の会話はその後、前世の職業の話題へ移っていった。若林さんが刀鍛冶だったことへは薙刀関連で、小松さんが民宿も営む漁師だったことへは旅行と和食関連で興味を覚えたのだろう、翼さんは三人の会話を偽りなく楽しんでいた。漁師さんが切り盛りする民宿はどこも魚料理がべらぼうに旨かったことを思い出し、俺は涎を垂らして三人の話を聴いていた。

 前世の俺は家族持ちの同僚の代わりに、危険な外国への出張をしばしば買って出ていた。そのお礼として国内の観光名所への出張を回してもらえることが多く、会社の金で旅行気分を満喫したものだ。それはさて置き、民宿経営を介し室礼しつらいを学んだ小松さんが、翼さんの前世について小首を傾げた。


「あれ? 日本に留学経験のあるアイスランド出身のフラワーアレンジメント作家に、記憶を揺さぶられるような?」

「刀はたいてい床の間に飾られる関係で、俺も和の室礼に触れることが多くてさ。日本の華道を学んだヨーロッパの有名フラワーアレンジメント作家の話を、耳にしたことが俺もあるような?」


 小松さんに続き若林さんも、前世を思い出すべく首を傾げている。それゆえ気づいていない翼さんの影のある表情に、俺は気づくことが出来た。といっても単に、三人の会話に加わっていなかったお陰なんだけどね。


「若林さん、小松さん。会話が盛り上がっているとはいえ、夏の炎天下に女の子を長時間立たせるのはどうかと思います。場所を変えませんか?」


 夏も冬も関係なく屋外で戦闘訓練を長時間するこの星には、莫大な需要があるのだろう。この星の日焼け対策商品の効果は、地球の数万年先を行っていた。したがって紫外線による肌への害は皆無と言って良いのだけど、地球の話で盛り上がっていたことに影響され、若林さんと小松さんは自分達の配慮不足を平謝りに謝った。それは地球とこの星を混同したが故の勘違いでも、いわゆる渡りに船だったのだと思う。翼さんは「大丈夫ですよ」と否定しつつも否定の根拠は口にせず、その代わり「暑いので日陰が恋しいのは事実です」と微笑んだ。妖精姫と崇める超絶美少女の微笑みに、十代後半の男子二人が奮い立たぬ訳がない。若林さんと小松さんは「「むさ苦しい所ですがどうぞ部室へ」」と声を揃え、妖精姫を部室棟の一角へ案内したのだった。

 職業訓練校という語彙にこの星で初めて触れたときは、前世の日本の工業高校や農業高校を思い浮かべたものだ。しかし職業訓練校のキャンパスをこうして実際に歩いてみると、視覚的には日本の総合大学となんら変わらなかった。街路樹や花壇が豊富に設けられた広大な敷地に、外観に統一性のない低層棟がまばらに建ち、若者達が時間に追われずノンビリ歩いている。そんな、かれこれ40年以上昔に毎日見ていた光景が、今俺の周囲に広がっていたのだ。と言ってもアトランティス星の人々の過半数は前世を覚えているから、そこは日本の大学と大きく異なるなあ。などとぼんやり考えつつ、前を歩く若林さんと小松さんの後を俺は付いていった。

 天然石なのかコンクリートなのか定かでない四階建ての建物の四階に、剣と魔法部の部室はあった。職業訓練校の男女比は1対1でも部員は男子が多いと思われるので少し心配していたが、そこはさすがアトランティス星。掃除と整理整頓の行き届いた健全な空間に、俺達は通された。若林さんの所属する部なのだから、当然なんだろうけどさ。

 とりあえずこちらへと促され、大きなテーブルを囲む椅子に座る。腰から伝わってくるパイプ椅子の安っぽい感触に、懐かしさがこみ上げてくる。使い古され色あせた調度品ばかりが部屋に置かれているのも、青春時代を思い出し胸を揺さぶった。そういえば俺が急に死んで大学の友人達に迷惑かけちゃったな、悪いことしたなあ、と感慨に浸っていた俺の耳に、若林さんの声が届いた。


「翔さん、懐かしいでしょう」


 懐かしくて感慨に浸ってしまいました、との返答に若林さんと小松さんがニコニコ頷いている。お二人によると、部室に漂うこのレトロな雰囲気は、創部者が元日本人男性の場合のみに見られる特殊な例としてそこそこ有名らしい。ならば、と悪戯小僧の笑みを浮かべた元日本人男性の俺ら三人は、小松さんが用意してくれたレモンスカッシュ系の清涼飲料水を、往年のテレビCMのごとく「「「プハ~~」」」と揃って一気飲みした。正直、このときはヤバかった。大学時代の飲み会のノリに、突入しそうになったのである。いやホント、翼さんがいてくれて助かったなあ。

 その反動なのだろう、それから暫し、真面目な話をする時間になった。創部5年目の剣と魔法部の部員数は、現在296人。3年目から他の職業訓練校にも同部ができ始め、4年目に成人の愛好会が設立されたのを機に、「剣と魔法連盟」を設立した。連盟の会員数は、現在約3千人。学生と成人の比率は、1対2。男女比は女性が予想以上に多く、4対3。ただし35歳以上の男女比は1対1らしく「アトランティス星の母は強し」「という事なのでしょう」と、お二人はしきりと首肯していた。

 小松さんが創設したこのスポーツは、『異世界転生』をその名としている。ただしこれは「大丈夫かな?」との危惧が当たり議論の的になっていて、名称を絶賛募集中らしい。名称はさて置きスポーツとしての満足度は高く、5点満点の4.6点を叩き出している。減点理由として最も多いのは「来世の戦士試験に役立つ要素が欲しい」であり、そしてまさしくそれに、


「「力を貸してください!!」」


 と、お二人は完璧にシンクロしてビシッと頭を下げた。俺に否などあろうはず無く、めいっぱい誠実に承諾の意を伝えた。翼さんも最大限の協力を約束してくれて、安堵の空気が部室に満ちる。ただ小松さんは翼さんの天風の苗字に心当たりがないらしく、


「天風さんも戦士を目指しているんですか?」


 などと、トンチンカンも甚だしい問いかけをした。若林さんがテーブルに激突するゴンッ、という音が部室に響く。だが次の瞬間、若林さんは弾けるように起き上がり、隣に座る小松さんの後頭部を豪快にひっぱたいた。


「ゴラア、仁のド阿呆!!」「な、なんだよまもる、唐突に」「天風翼さんは名家筆頭として名高い天風五家の、更に本家の人! 同学年1位どころか、勇者パーティー入り確実と言われている人だぞ!」「ヒエエッ、失礼しました~~!!」


 お二人は再度完璧にシンクロし、テーブルに額をこすりつけた。それを受け翼さんは大慌てになり、その様子が少々意外で対応にコンマ5秒遅れてしまった俺を、俺はどう罰すればいいのだろう。けどそれについては後でじっくり考えるとして、まずは何より翼さんに語り掛けた。

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