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「生まれるのは簡単でも、心の成長を最初からやり直さねばならないのよ」「どわっ。それってある意味、宇宙で最ももったいない事のような」「ある意味それは正しいわ。私は神性失楽を経験した元人間だけど、神性失楽を未経験の本体も宇宙には少数いてね。その本体達の中で赤子に生まれる選択を最初にしたのは、イエスだったの。しかもそれは地球規模の話ではなく、『全宇宙で初めて』だったのよ。宇宙開闢以来初の出来事なことが、ある意味最ももったいない証拠になるでしょうね」


 衝撃が強すぎ呆然とする俺をよそに母さんがサクサク語ったところによると、イエスを皮切りに母さんのような「元人間の大聖者」が、赤子として地球に複数生まれ直しているという。その全員が世界的な偉人になっていると考えるのは、素人甚だしいらしい。社会的には市井の一般人で終わることの方が、多いそうなのである。それぞまさしく、人類の判断基準が間違っている証左であり、またその間違った判断基準は、いわゆる出生前記憶にも悪影響を及ぼしているそうだ。

 どんなに進んだ星から地球に転生してこようと、心の成長を最初からやり直さねばならない。よって必然的に、その子は表現方法が稚拙になる。感情に任せて激しい言葉を使ったり一方的な決めつけをする等々の、目を覆うばかりの幼稚な表現をしがちになるのだ。しかしそれを聞く大人達の成長度が低いため、「このままでは慢心してしまう。大人が適切に導いてあげないと」を筆頭とする適切な対応を施すことができない。それどころか「超能力を持つ人は霊的に優れている」という間違いこの上ない判断基準のせいで「子供は神様」などという、子供の慢心の助長を率先してやっているとの事だった。


「慢心の恐ろしさを知らない大人達が子供を慢心させるだけでなく、自分自身も慢心させてしまったのよ。ホント、頭が痛いわ」


 母さんは憂い顔で、そう呟いていた。

 母さんによると社会生活を介して成長した者には、「昔の自分を思い出すと頭を抱えてしまう」という強い傾向があるらしい。昔より大幅に成長したからこそ、子供時代や若者時代の自分の稚拙さを痛いほど感じるようになるのだそうだ。そんな大人は出生前記憶を話す子供達に、


「まったく異なる対応をするわ。もちろん、良い意味でね」


 と母さんは言い切った。「地球に転生してきた子も、大人になったら自分と同じように頭を抱えることになるって、その人にははっきり見えているという事でしょうか?」 そう問うた俺の頭を、母さんはニコニコ顔で撫でた。あまりにも嬉しそうなので、俺は何も言えなくなってしまった。

 結局そのまま、母さんと過ごす時間は終わった。あい変らずニッコニコの母さんに「行ってらっしゃい」と見送られ、俺は超山脈へ飛び立って行ったのだった。


 四か月ぶりに出席した鈴姉さんの講義は、内容や講義の質および講師の力量等々どれを取っても素晴らしく、とにかく有意義だった。ただ鈴姉さんにはナイショだけど、深森夫妻と霧島夫妻の性格の興味深さに気づいてからは講義と並行し、それについても頭の隅で考えていた。たとえば、こんな感じかな。

 鈴姉さんは切れ者かつ強気であるのに対し、夫の雄哉さんは切れ者であっても強気ではない。また雄哉さんの親友の達也さんは、強気であっても脳筋ゆえに切れ者の印象はない。そして達也さんの奥さんの小鳥姉さんは切れ者と強気の真逆と言える優しくいじらしい性格をしていて、そしてその優しくいじらしい人が、切れ者かつ強気な鈴姉さんの親友なのである。う~む、興味深いなあ。

 などと感慨に耽っているうち、思い付いた事があった。それは「表層性格と深層性格も、四人の関係に強く影響している」ということ。鈴姉さんと小鳥姉さんを例に挙げよう。

 切れ長の目と黒髪黒瞳を有する鈴姉さんには一見して切れ者かつ気の強い雰囲気があり、言葉遣いや態度もそれに沿うのだけど、交友が深まるにつれ別の面も見えてくる。鈴姉さんはとても優しく、また極稀ごくまれだがポンコツになった時は、非常に可愛い女性になるのだ。これを表層性格と深層性格に分けると、前者は切れ者かつ強気、後者は優しく可愛いとなる。そしてこれと真逆なのが、小鳥姉さんなんだね。

 侯爵令嬢として生を受けるも革命を逃れ上海へ亡命し、戦争に追われカサブランカへ再度移住するという激動の人生を送った前世の小鳥姉さんを支えたのは、レストラン経営の才能だった。特にカサブランカでは辣腕女社長として有名だったらしく、そしてそんな人が切れ者の面と強気の面を持たない訳がない。その能力をこの星では秘しているにすぎず、地球レストランを大成功させ従業員達に尊敬されていることから、社長としての腕前は健在と考えるべきだろう。つまり小鳥姉さんは、表層性格は優しく可愛いが深層性格は切れ者かつ強気といった、表層と深層が鈴姉さんときっちり入れ替わった性格をしているのである。

 これと同種のことは、雄哉さんと達也さんにも見られる。雄哉さんは怜悧な軍師なので必要に迫られれば強気に振舞えるが、ポンコツっぽく「お、俺も混ぜやがれ~~」と宣うこともある。つまり表層性格は穏やかな切れ者でも、深層性格はポンコツな面もある強気軍師、といった感じになるだろう。対して達也さんは一見して熱血脳筋教官だが温情も多分に持ち、しかし有事の際は一転し、冷静沈着に山岳部隊を率いる指揮官になる。よって達也さんの表層性格は熱血ポンコツ脳筋、深層性格は温情と怜悧さを併せ持つ指揮官、といった感じになる。このように雄哉さんと達也さんも、表層と深層が入れ替わった性格をしているのだ。

 かくして達也さん、雄哉さん、鈴姉さん、小鳥姉さんの四人には、2つの法則があることを俺は発見した。


 1、表層と深層が入れ替わった同性は、親友になる。

 2、表層と深層の片方だけに着目すると異なる面もあるが、表層と深層の双方をひっくるめると同じ性格をしている。そんな異性は、夫婦になる。


 みたいなことを、講義を受けつつ俺は頭の隅で考えていたんだね。

 そしてそれは悪いことのような、それでいて将来必要になってくる技術のような、そんな感覚も俺は覚えていた。将来必要になる気がする根拠は、大聖者の母さんにある。母さんは意識を分割することで、複数個所に同時出現しているって言ってたからさ。

 そうこうするうち講義が終わり、隣席の若林さんとゲームの話で再び盛り上がった。鈴姉さんの講義にお邪魔した理由の一つは、若林さんとこうして話すことだったしね。若林さんはこの星でこそ5歳年上でも、地球ではなんと同学年だった。俺と同学年ということは、ファミコ〇のドラ〇エ1が発売されたのが16歳、スーファミが発売されたのが大学二年生ということになる。となれば、ゲームの話で盛り上がらない訳がない。俺達は往年の名作の戦闘曲を口ずさみつつ必殺技を浴びせ合い、他の受講者達から呆れられたものだ。でも、そんなのまったく気にならないほど楽しかったのが本音。嬉しいことに剣と魔法部を創設した元日本人も同学年らしく、俺達は8月12から14日の3日間のいずれかで顔を合わせることを、固く誓いあった。

 鈴姉さんの非難の視線が突き刺さって、とても痛かったんだけどね、あははは・・・

 それもあり、


「鈴姉さん。俺は何カ月に一度くらいなら、この講義に出席してもいいですか?」


 と尋ねてみたら、予想外のことが起こった。鈴姉さんは「通常なら、は」と即座に答え、「は」は半年のことだと思うけど、そこで急に口ごもったのである。口ごもっている間に小鳥姉さんが教えてくれたところによると、正当な理由があれば半年を3カ月に短縮できるという。鈴姉さんはその短縮を今年4月まで認められていたらしく、理由は「夫婦別々に暮らしているから」だった。鈴姉さんは住み込み保育士を12年間していたため、3ヵ月毎に雄哉さんの講義を受講することを認められていたんだね。

 しかし俺に、正当な理由などない。小鳥姉さんに訊いても首を横に振っていたし、顔見知りの先輩方もそれは変わらなかった。だが結局、意外な返答を俺は受け取った。


「翔が4カ月毎に私の講義を受講することを、我が師がたった今認めてくださった。ただし戦闘訓練に支障が出るようなら、許可を直ちに取り下げるそうだ。また翔の性格を考慮し、許可理由は当分伏せよと仰せつかった。翔、呑みこんでくれ」

「俺達のためにならないことを、我が師がするなど絶対ありません。両立できるよう全力を尽くします、ありがとうございましたと、我が師にお伝えください」


 母さんなら無条件で無限に信じられる。

 よって理由の説明など、不用なのだ。

 俺は心底、そう思ったのだった。

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