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帰宅した女性二人は、それぞれの私室でしばし休むことになった。二人の姿がリビングから消えるや、俺は正座に座り直し雄哉さんに正対し、妊娠中の奥様を外出させてしまったことを詫びた。雄哉さんは謝罪を受け入れた上で、この星では危険が皆無なことと、妻の意思を尊重するのが夫の務めであることを説いた。そして最終結論として、
「それでもこうして詫びてくれる翔君が俺は好きだし、妻を安心して任せられるよ」
雄哉さんはニカッと笑い、親指をグイッと立てた。とたんに尻尾をブンブン振った俺にブッと噴き出した雄哉さんが、拳を俺に突きだす。俺も同じようにして、拳と拳をコンッと軽く打ち鳴らした。二人揃ってニカッと笑い友情を確かめ合ったところで、
「俺も混ぜやがれ――ッッ!」
達也さんが急遽参戦した。「達也お前、脳筋すぎる」「うるせぇ俺は脳筋なんじゃボケェ」「あ~暑苦しい。翔君コイツ、学校でも暑苦しい教官してない?」「俺の親友も暑苦しくて慣れてますから、俺は平気です」「ほら見ろ、平気じゃねぇか!」「あのなあ達也、翔君は俺を二回使うことで『自分に限っては』と伝えたんだよ。達也の暑苦しさに、辟易している生徒もいるってことかな?」「あ~、慣れていない奴らも最初は少数いて戸惑っていましたが、今は『慣れるしかない』って達観したようです」「達也との付き合いだけに」「達観したのでした!」「二人とも言いたい放題言いやがって、思い知れ! 必殺、暑苦しさヘッドロック!」「クッ、こいつ昔からこの技が得意なんだよな」「任せてください雄哉さん、ここはタッグを組みましょう!」「おお、暑苦しさ包囲網結成だ!」「お、お前ら。2対1は卑怯だぞ」「ふふふ、もう遅い」「覚悟してください達也さん」「やめろ、やめてくれギャハハハハ~~」
かくして俺らバカ三人組は夏の暑い盛りに取っ組み合いをして、汗みずくになったのでした。ヒャッハ―!
でもホント、胸の中は誠にヒャッハ―だった。汗みずくになった俺達は深森家のお風呂を借り裸の付き合いをして、親交を深めることが出来たからだ。しかも湯船に浸かっている最中の赤裸々話として、お二人が熟女好きを選んだとくれば盛り上がらない訳がない。更に会話の流れで、達也さんと雄哉さんが青春時代へ思いを馳せたものだからさあ大変。「入浴中の会話だけは」「妻といえども聞けないから」「この風呂はある意味」「俺らの聖域なんだよ、翔君」「ああだから水風呂も作って交互に浸かることで、長湯できるようにしたとか?」「おお、さすがは翔だな!」「うん同意、それに懐かしい。こうして三人でいると」「寮の風呂を思い出すよな・・・」「あの7年間、楽しかったな・・・」「気持ちは解りますけど、しんみりしたお二人はお仕置きです」「うわコイツ!」「俺らに水を掛けやがった」「「お仕置きじゃ~~」」 てな具合に、取っ組み合いの第二幕がお風呂場で始まってしまったのでした。ヒャッハ―!
いやでもホント、同性の付き合いは比較にならないほど楽。こうして三人揃ってバカになるだけで、友情を深められるからだ。鈴姉さんや小鳥姉さんではどんなに仲良くなっても、絶対不可侵領域を設けなければならないしね。う~む確かに二人の言うとおり、俺が父親になるしかないのかな・・・・
青春時代の思い出話も楽しかったけど、お二人の熟女好きも盛り上がった。その最大の理由は達也さんと雄哉さんにとって宇宙一の美女は我が師、つまり母さんであると共に、純粋な崇拝の念しか我が師に抱いていない事にあるだろう。我が師を性的な目で見ていたらお二人との友情も瞬時に消滅しただろうが、お二人はそうならぬよう必死に努力していた。そしてそれとピッタリ同じ努力を、俺も鈴姉さんと小鳥姉さんにしていたのだ。よって俺が達也さんと雄哉さんの胸中を自分のこととして理解できるように、達也さんと雄哉さんも俺の胸中を自分のこととして理解できた。それが、
「「「わかる、わかるぞ同士よ~~!!」」」
という真の共感を芽生えさせたんだね。う~ん、楽しかったなあ。
ただ俺が、6歳の頃から母さんと親交があったとバレた時は怖かった。ドスの効いた声と鋭い眼光に一瞬でなった二人に「「なに?」」とすごまれてしまったのである。お風呂の床のタイルに、俺が光の速度で額を押し付けたのは言うまでもない。はるか頭上から「「すべて白状しろ」」との、成人男性特有の低い声が降り注いでくる。震え上がった俺は、母さんが最初は白光として現れたこと、AⅠ達に「私達と同じように母さんと呼べばいいじゃない」と促されてそう呼ぶようになったこと、7歳の試験の直前に講義を受けてその最中に母さんが人の姿になったことを話していった。その「人の姿になった」の箇所でお二人が床に座る気配がして、次いで頭を優しくポンポンされた。顔を上げても大丈夫な気がしたのでそれに従ったところ、柔和に戻ったお二人が床であぐらをかいていた。
「妻達と翔が出かけている最中、我が師がテレパシーで話しかけてくれてな」「翔君の今の話と同じ内容を、我が師にテレパシーで教えて頂いたんだよ」「だから最初から疑ってなどいなかったが、養成学校時代を思い出して悪ノリしてしまってな」「俺と達也の二人だけじゃ思い出話はできても、規則を破った奴に刑を言い渡す伝統行事は再現できない。でも今日は出来るかもしれないって思ったら、つい悪ノリしちゃったよ」「えっとあれ? ということは俺がもし嘘を言ったり隠しごとをしていたら、罰を言い渡されたってことですか?」「もちろんそうだ。我が師に関わることだから、フルチ〇水しぶきでは到底足りないな」「うん、足りない。伝説のメド大瀑布を、遂に俺達もすることになっただろうね」「命拾いしたな、翔」「命拾いしたね、翔君」「ヒエエッ、ありがとうございました!!」「「アハハハハ~~!!」」
てな具合に冗談ではなく命拾いした、俺なのだった。
お風呂を終えてリビングに戻ると、鈴姉さんと小鳥姉さんが夕ご飯を作ってくれていた。男三人で一列横隊を成し直立不動でお礼を述べ、一糸乱れず腰を直角に折る。それを受け鈴姉さんと小鳥姉さんが、「「楽しみにしててね」」と花の笑みを振りまいた。俺はもちろんのこと達也さんと雄哉さんも尻尾をブンブン振っていたのを、幸せな夫婦の見本として俺は胸に刻んだ。
テーブルに5人分の食器と調味料を用意し終えるなり、男3人は役立たずになった。女性陣にその旨を伝え許可をもらい、役立たず3人組で窓辺に移動する。この状況では許可を頂かねばならぬことや卑屈にならない口調等がマジ勉強になったのでそれを素直に伝えたのだけど、お二人は哀愁を漂わせた表情で頷くだけだった。う~む夫婦というものの全貌を知るのは、俺にはまだ不可能なのだろうな。




