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しかし夫達の危惧は、たとえ相殺関係にあることを見逃していたとしても、妻達より正確な未来予測をもたらした。なんと夫達は、俺が女性恐怖症になりかねないと予測していたのである。達也さんと雄哉さんは女性恐怖症を招きかねない危険性を、俺のために熱弁してくれたそうだ。
が、妻達はそれを撥ね退けた。その根底にあったのは、「若く見られたら嬉しい」「すまん微塵も理解できない」のすれ違いによって生じた、夫達への不満だ。そう今回の騒動の究極的真相は夫婦喧嘩であり、俺はそれに巻き込まれてしまったのだが今は脇に置いて、妻連合は夫連合へこう主張した。「「翔ならきっと解ってくれる!」」 そのとき夫達はそろって複雑な表情になり、妻達はその表情へいかなる推測も立てられなかったが、今なら当たりを付けられる。「とても怖いけど」「翔君、どうか聞いて」と声を震わせつつ、二人はそれを述べた。
「女はすぐ感情的になる」「感情的になったら、理性による話し合いは諦めるしかない」「翔が巨大な心労を負ったら、俺達が謝ろう」「それは夫の務めであると共に、翔君の心労を理解できる同性の務めでもあるからだ」「翔、今なら私達もこんなふうに推測できるのだけど」「どうかな?」
俺は腹をくくり、正直に答えた。
「達也さんと雄哉さんの複雑な表情に、お二人の推測は含まれていると思います。ただ、達也さんと雄哉さんの中心にあった想いは、それらとは異なると俺は強く感じます。でもそれは夫婦にしか解らないことでしょうから、俺は何も言いませんし言えません。ほら俺には、夫婦の記憶がありませんからね」
最後に自嘲して場の空気を換えようとするも、さほど効果はなかった。したがってもう一段腹をくくり、夫婦喧嘩に俺が巻き込まれたという究極的真相を述べたところ空気は替わったが、それは二人にひたすら謝られるという変化だった。ここに至りようやく俺は、悟った。今回の件を解決することが、俺には不可能なのだと。よって、
「我が師は、どんなテレパシーを送ってきたのですか?」
母さんに頼ることにした。だって俺には、お手上げだからさ。けど、
「うんうん聴いて聴いて!」「我が師はこう言ってくれたの!」
と二人が顔を輝かせたことから、母さんを頼ったのは大正解だったみたいだ。どんなもんよ私に任せなさい、とふんぞり返っている母さんが脳裏に映り吹き出しそうになったのは再度さて置き、早口言葉のようにまくし立てるお二人の話を俺は傾聴した。
それによると母さんは、俺の生活があまりにも順調なことを憂えていたらしい。7歳の試験前、俺は次の孤児院で苦労すると予想されていた。その未来が変わったことを母さんは喜んでいたが、過ぎたるは及ばざるが如しとは良く言ったもの。鈴姉さんの孤児院と今の学校は順調すぎたため「過ぎたるは~」が適用され、俺を苦労させる誰かが現れることを、母さんは願うようになったという。
それが叶い、困り果てている俺を今日見ることが出来た。困らせているのが既婚の年上美女なのも、母さんの願いに叶った。美女達に困らせられたことは俺の女性耐性を育てるはずだし、二人の夫達が俺の男子特有の苦悩に共感し励ますはずだし、またその夫達は俺が目標とする大人の同性としても適任だったからだ。ということを母さんは妻達と夫達の双方に伝え、俺の成長を助けていることを感謝したそうだが、妻達にだけ伝えたこともあった。それは母さんが、今回の件に介入した理由。鈴姉さんと小鳥姉さんが調子に乗り過ぎ、女性恐怖症を招く危険性が生じたため介入したことを、二人に伝えたそうなのである。
その事実に二人は罪悪感の底なし沼に落ちそうになるも、俺の想いを母さんが二人の心に直接届けたところ、胸中が一変した。その一変した心に、母さんは自分も同種の失敗をしたことを正直に伝えたという。準四次元での授業中、創造主に叱られたのがそれだ。それに仲間意識を覚えた鈴姉さんと小鳥姉さんは、罪悪感を引き続き抱きつつもそれに振り回されなくなった。また母さんは創造主に叱られたことを達也さんと雄哉さんにも明かし、自分も含めて女にはこういう本能があることを謝罪した。二人は謝罪をもちろん受け入れ、今回の件で妻達を決して責めないことと、自分達と妻達の前世の違いを理解すべく努力することを誓ったそうだ。
かくして母さんのテレパシーのお陰で、今回の件はほぼすべて解決した。解決してもさっきのように、夫婦喧嘩に巻きこんでしまったことを指摘されたら謝罪一辺倒になるけど、それも込みで「「私達の心は安定しているから心配しないでね」」と、二人は俺の頭をそろってポンポンしたのである。そのポンポンに嘘が無いのは直感できるし、母さんが仲立ちしたのだから抜かりは無いと心底思える半面、気になることもあった。何となく今なら答えてくれそうな気がしたので、それを尋ねてみる。
「えっとですね、ほぼ全てが解決したということは、解決していないことも僅かながらあるのでしょうか?」
その問いへ、二人は非常に複雑な表情をした。達也さんと雄哉さんが複雑な表情になった際、鈴姉さんと小鳥姉さんの胸中にあったのはこういう気持ちだったのかと合点した俺の耳に、異性が難しいのは未来永劫変わらないと心底思わせる吐露が届いた。
「翔が私達にドキドキしつつも」「イヤラシイ視線にならないよう必死になるのは」「女の本能の一つにやはりドストライクで」「凄く嬉しいというのが正直な気持ちなの」「でも前世の熟女好きを未だ引きずる夫達が」「私達にドキドキする翔君と瓜二つの想いを我が師に抱くのも」「女の別の本能にやはりドストライクで」「すっごく嫌というのも正直な気持ちなのよ」「ねえ翔」「私達は」「「どうすればいいのかな?」」
「そ、そんなの、俺にわかる訳ないじゃないですか!!」
その返答こそ俺の正真正銘の極致だったのだが、異性が未来永劫変わらず難しいのも、正真正銘の極致なのだろう。
「そうは言っても翔」「この相談をできるのは」「宇宙で翔だけなのだよ」「う、宇宙規模の話なんですか?」「そう、宇宙規模の話。だって親や子や孫はいても」「我が師の組織に所属しているのは夫だけだし」「そして夫婦の内輪話をここまで明かした組織の仲間は」「宇宙広しと言えど翔だけ」「ほらね、翔君だけでしょ」「ヒッ、ヒエエエッッ!!」
ヒエエと叫ぶも今回母さんは助けてくれず、俺は解決の糸口を探すべくお二人の話に耳を傾け続けた。でもそれこそが、正解だったらしい。俺はお二人の愚痴を傾聴していれば、それで良かったんだね。ならば、全力で聴くのみ! と意気込んだところ、
「あ~スッキリした!」「久しぶりにスッキリした~!」「翔、真摯に耳を傾けてくれてありがとう」「うん、本当にありがとう。じゃあ少し早いけど、お昼にしようか」「そうだな、あと30分で正午だしな」「翔君、私と鈴音でお弁当を作ったの」「たくさんあるから遠慮せず、お腹いっぱい食べてくれ」
てな具合にお二人の愚痴を何と丸々1時間、俺は聴き続けるハメになったのだった。ハ、ハハハハ・・・・




