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十九章 初合宿、1

 ひ孫弟子の第二回講義の二週間後にあたる、5月25日。

 時刻は午前7時20分、場所は広場の男子寮側。


「ウオオッ!」「スゲェェッ!」「「「「マジパネェェッッ!!」」」」


 上空に現れた直径120メートルのUFOに、もとい中型飛行車に、男子200人は驚愕の声を上げた。五つの男子寮の計1千人を、超山脈南麓の合宿所へ運ぶためにやって来たこの中型飛行車の定員は、野郎共とピッタリ同じ1千人。 ちなみに定員1~10人が小型。11~1千人が中型。1001~1万人が大型。それ以上が超大型で、アトランティス星最大の飛行車の定員は200万人とのことだった。ただし定員200万の要塞型飛行車は闇族との戦争に敗北した際の宇宙脱出専用車であるため、建造以来ずっと地下格納庫に封印されているという。完成から1800年経っても新品同様なのは、超絶進化を遂げた機械工学の賜物なのか? それとも格納庫に、時間停止や時間遅延の超絶技術が施されているのか? 興味は尽きないが、それは然るべき技術者のみに明かされる国家機密らしい。反重力エンジンの勉強を一応していても、二足の草鞋を履く予定のない俺には、一生明かされないんだろうな。

 上空に現れた中型飛行車の外観は、くどかろうがUFOとしか言えない。直径120メートル厚さ40メートルのどら焼きを流線型にして、鏡面塗装したような感じだ。飛行車の車体関連の勉強をしている同室の奴によると、あの鏡面塗装の凸凹は、毛髪の1万分の1未満に抑えられているという。ハワイにあるすばる望遠鏡の凹面鏡の精度が毛髪の5千分の1未満だったから、その二倍の精度といったところか。反重力エンジンによる無慣性飛行中は空気抵抗もゼロになるが、空気抵抗を通常に戻す省エネ飛行に対応すべく、「表面をツルツルにしてるんだな」との事だった。摩擦係数を極端に減らす技術も盛り込まれているらしいけど、野郎共の質問攻めに辟易して途中で逃げて行ったため、それ以上は知ることができなかった。無念・・・・

 そうこうするうち、飛行車が地面スレスレまで降りて来た。前世のアニメではお約束だった、UFO下部から照射された円柱形の光に足を踏み入れるなり体が宙に浮きあがる搭乗方法は、超大型飛行車でないと採用されていないという。それを初めて知ったときは「アニメが実際にあるのかよ!」と面食らったものだが、この星唯一の要塞型飛行車に至っては、光に足を踏み入れるや要塞内の適切な場所にテレポーテーションするというのだから唖然とするしかない。それはさて置き、


「え? 飛行車のふちに搭乗口がいきなり開いたんですけど?」「あれは、車体外壁の搭乗口の部分だけを、テレポーテーションさせているらしいぞ」「マジパネェッ!」


 という周囲の会話どおり、搭乗口が突如出現した。横に長い長方形をしていて、幅20メートル高さ4メートルほどだろう。次いで中から板状の無人飛行車が続々飛び出し、搭乗口と地面を繋ぐ階段をアッという間に造り上げた。傾斜は30度、といったところかな。その階段を事前指示に従い、俺ら200人は10人横隊の20列で整然と登っていった。

 階段の長さは、目算40メートル。前世の中学男子なら「かったるい」系の文句が方々から上がったはずだが、この学校にそんなお子様はいない。精神年齢のみならず、身体能力もアホみたいに高いからだ。ほどなく階段を登り切り、搭乗口を潜る。チラッと目をやった外壁は意外と薄く、厚さ30センチほどしかない。詳しい奴によると外壁には、自己修復用のナノマシンが10%含まれているという。「飛行車は一個の機械生命体」と誇らしげに語ったそいつの言葉が、やけにくっきり耳に蘇った。

 搭乗口を抜け、座席スペースに足を踏み入れる。広さは一辺63メートルの正方形、天井の高さは5メートルとの事。窓はないがリアル3D映像を壁と天井に映し、宇宙を飛んでいる気分を満喫できるという。座席寸法は新幹線よりほんの少し大きく、二列と三列がセットになっているのは同じだ。空いているのは左端の五列のみで、寮内順位に従い素早く着席していく。幸運にも俺達は最後の学校だったが最初に搭乗した学校は、さすがに「かったるい」と思っているはずだからね。

 実際、超山脈南麓までの片道45分うち、なんと35分が生徒の乗り降りのための時間とくれば、愚痴も仕方ないと思う。無慣性飛行のお陰で、生徒全員が着席してから発進するなんて決まりがないだけ、幸せなのだろうな。

 だがその規則はなくとも、最後の学校となった俺達は足早に席へ向かい、素早く着席した。なぜなら俺達が着席してやっと壁と天井に、外の様子が投影されるからだ。急いだ価値は十分あり外の様子が映し出されるや、


「「「「・・・・・」」」」


 男子1千人は口をポカンと開け、ただただ呆然としていた。搭乗口が閉まり1分と経っていないにもかかわらず、既に俺達は地上50キロにいたからである。この高度で見る星は、瞬きしない。明滅しない10万を超える星が、俺達の頭上に広がっていた。それだけでも呆然としていたのに、


「横はもっとスゲエ・・・」


 との誰かの呟きに反応して顔を横へ向けたとたん、息を呑んだ。黒と青が、視界を二分していたのだ。二分割の上は宇宙の黒、下はアトランティス星の青。青と黒の境界は弧を描き、かつ青から藍を経て黒へ至る無限のグラデーションになっていった。その美しさに誰もが呼吸を忘れ、やっと思い出し深呼吸をしている最中も高度は加速度的に上がっていき、地上100キロで遂に横方向への移動を開始した。座学によると高度100キロまでは垂直上昇、続いて仰角45度で高度400キロに達し、約9千キロを水平飛行したのち下降を始めるという。最高速度は時速約11万キロ、マッハ92の秒速30キロとの事。この速度だけなら意識投射中に経験済でも宇宙に出たことはなかったため、俺も皆と同じく言葉を失い外の光景を眺めていた。それだけでも超貴重な体験だったのに、


「皆様、シートベルトを締めてください。車内を2分間、無重力にします」


 とのアナウンスが流れたのだから堪ったものではない。3秒かからず全員がシートベルトを締めた数秒後、


「ドワッ!」「体が浮いてる!」「何これ楽しい!」「「「「ヒャッハ――ッ!!」」」」


 てな具合に、車内は子猿千匹がバカ騒ぎするだけの場に、なったのだった。

 そうこうするうち2分経ち、無重力が終わる。俺達はガックリ項垂れるも、アナウンスが再び耳を打った。


「まもなく超山脈です。天井に、進行方向斜め下の光景を映します」


 ガックリ項垂れなどどこへやら、全員一斉に天井を見上げた。幅500キロの超山脈が前方からグングン迫ってくる。高度400キロをもってしても、東西5500キロの超山脈を端から端まで見渡すことは叶わない。俺達は再び口をあんぐり開けて、超山脈の威容を見つめていた。

 ほどなく超山脈にさしかかった。雪に覆われた超山脈の、最も北にある峰が眼下を通過していく。と同時に、光景に変化が訪れた。速度が僅かに落ちると共に、地表が近づいて来たのだ。急に訪れた光景の変化と無慣性飛行のギャップに、酔った生徒が続出したらしい。「おえっ」系の声がそこら中から聞こえてきた。意識投射も無慣性飛行だったので、俺は慣れてたけどね。

 超山脈の最も南にある峰を通過し、山裾と平地の区別が付かなくなった場所で、飛行車は横への移動を止めて垂直降下に移った。車外の映像が消え、降車時の注意を喚起するアナウンスがなされる。


「超山脈南麓の現在の天候は快晴、気温3℃、風速1メートルです。出発時の皆さんの寮の気温は、12℃でした。防寒対策を各自施してください」


 南半球は季節が逆になるため要注意。現在の月から半年経った月に突如なったと思えば、さほど外れていないと座学で教わった。今日は5月25日なので左手首のメディカルバンドを操作し、戦闘服を11月25日モードで待機させる。この星の服には、冷暖房機能と防風機能が備わっているんだね。

 風速1メートルなら無用と思うが、首回りを冷やさぬよう一応フードを出しておく。この合宿所に来るのは今日が初めて。ならば、用心するに越したことはないからさ。

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