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 雄哉さんは空中に、その映像を出した。それは球体の白光を、暗黒が取り囲んでいる映像だった。ただし取り囲んでいるだけで白光は悪影響をいささかもこうむっておらず、またそれは白光と創造主を結ぶ繋光けいこうと呼ばれる光の線も同様だった。繋光に暗黒は近づけず、よって繋光の太さも変わらず、白光と創造主の関係に変化は微塵も生じてなかった。

 しかし暗黒が近づいてきて圧迫し、細くなった線もあった。また細くなったせいで、悪影響も生じていた。その線は人と本体を結ぶ銀線シルバーコードであり、そしてそのせいで現れた悪影響は、「自分の本体は創造主の分身であるということを忘れてしまう」というものだったのである。


「我が師には、この暗黒が既にない。然るに、本体との完全結合を常時なしている。しかし私には、この暗黒がまだ残っている。自分は創造主の分身なのだと、心底感じられたことが私には無い。私はそれを、未だ忘れているのだな」


 雄哉さんによると、暗黒の濃さと暗黒の圧力は比例するという。よって暗黒が濃いほど銀線は細くなり、忘れている比率も高くなるのが一般的らしい。本体同士は自分達を対等な家族と思い愛情を抱いていても、忘れている比率が高いほど、人は真逆を行うようになる。他者を一方的に見下し、苦しみを平気で味わわせるようになるのだ。

 ただ一般的と言及したように、暗黒が濃くても銀線の太い人は稀にいるらしい。それは銀線を太くすることに巨大な努力を注いだ人であり、暗黒が薄まる速度より銀線が太くなる速度が勝るため、「この濃さにしては太い」という状況になるのだそうだ。そして太さが一定以上になると、自分の本体が創造主の分身であることをある程度思い出し、地球人なら地球の卒業資格を得られる。ただし中には、卒業資格を得ているのに卒業できない人もいる。その筆頭は、超能力を得るためだけに努力した人だ。人には創造力があるので超能力を得るために努力すれば、願いを叶えた自分を創造できる。銀線が太くなれば心に流入する本体の力が増すから、その増した力が超能力として世に具現化するのだ。けれどもそれは本体の()であって、本体の意思ではない。その人は力を振るうだけに留まり、本体の意思を世に広めて人や社会の成長を促すことがない。よって亡くなった際、地球の卒業資格を得ているにもかかわらず、


「お前は最も大切なことをまったく理解していない。もう一度やり直せ」


 と呆れられ、地球に追い返されてしまうという。いやはや何とも良くできている安心したなあと、俺は息を大きく吐いた。それは講義を受けている生徒全員に共通したため息を吐く音がやたら大きく響き、続いて爆笑が轟いたものだった。

 またこの「力を得ただけでは追い返される」という制度は、特別な知識や超能力を持たずとも地球を卒業できるという制度の説明でもあるらしい。雄哉さんはそれを、こんなふうに説明した。


「本体は、自分と心が再結合することを望んでいる。そして本体は他の本体を、自分と対等な家族として大切にしている。つまり私の本体は、翔が翔の本体と再結合することを望んでいるのだ。したがって私が翔に働きかけてそれを促すことは、本体の意思に沿う行いと言える。この『本体の意思に沿う行い』が最重要なのであり、それに比べたらここで話されている知識や私が習得している能力など、超山脈の麓に転がる石ころでしかないと言えよう。といっても皆がこの講義を石ころにしたら翔が嘆き悲しむので、どうか翔を泣かさないであげてほしい」

「なっ、なぜそこで俺を引き合いに出すんですか!」

「だってその方が、楽しいじゃんか」「ヒッ、ヒエエ!!」「「「「アハハハハ~~!!」」」」


 俺がイジラレ役になるのは本体の、いや創造主の意思なのか? などと本気で恐れおののいた俺にみんな腹を抱えて笑い転げていたから、俺はそれで大満足だった。

 受講者たちの集中力を回復する笑いを提供してくれてありがとう、と鈴姉さんとよく似たことを言い、雄哉さんは講義を再開した。


「偉人の伝記には、『様々な困難を克服して偉業を達成した』とのセリフがしばしば用いられる。立ちふさがる困難は多くの場合ネガティブに属し、そのネガティブを乗り越える過程で偉人は新たな力を得て、その新たな力が次のネガティブの克服に役立つというふうに伝記は進行していく。それを、物語上の演出と考える人もいるだろう。だがそれは、虚構の演出ではない。創造主がこの三次元世界で、我々にそれをしてくれるのだよ」


 目標を達成すべく意志力を燃え上がらせている時は、困難を克服しやすい。よって「今の内にこれを中和しておきな」と、過去の悪果の一つを立ちふさがる困難として創造主が具現化するという。その際、創造主は二つのことを必ず守る。一つは、克服可能な困難に限ること。そしてもう一つは、克服によって得た学びが目標成就に役立つことだ。創造主はこの二つを必ず守り、過去の悪果をその人の環境に具現化するのである。

 だが、それに反論する人も多いだろう。克服など到底不可能な、巨大なネガティブを被っている人も多々いるからだ。社会を見渡すと、該当者が確かにいると感じる。しかし雄哉さんによるとその人達の中に、前回の講義に当てはまらない人はいないらしい。前回の講義とは、飲酒過多で亡くなった人の話。「ネガティブにネガティブな対応をすると、ネガティブは雪だるま式に大きくなる」と「今生のネガティブは今生中に中和せよ。なぜなら来世に持ち越すと、その原因を忘れてしまうからだ」を説いた、講義だね。しかしそれについては今回も、


「これ以上は過酷過ぎるため、我が師にお任せする」


 と雄哉さんは結び、瞑想するかの如くしばし無言でいた。何となく必要性を感じたので俺も半眼になり、雄哉さんの今の講義を振り返っていた。すると不意に、イエスキリストのある言葉が脳裏を駆けた。あれ? あの言葉はひょっとして、こういう意味だったりして・・・・


「翔、閃いたことがあるなら恐れず言ってごらん」


 雄哉さんの声が耳朶を震わせた。その優しげな気配が鈴姉さんとそっくりで、ああ二人はホント夫婦なんだなあとしみじみ思ったのはさて置き。「うろ覚えで失礼します」と前もって謝罪して、俺は閃きを話した。


「我が師は創造主と常時直結していますから、創造主とピッタリ同じタイミングで私達に教えを授けてくれると俺は解釈しています。その『創造主と常時直結』という箇所に、宇宙を代表する千の大聖の一人であるイエスの言葉を思い出したんです。『あなた達は肉によって裁くが、私は裁かない。しかしもし裁くなら、その裁きは正しい。なぜなら私は一人ではなく、天の父と共に裁くからだ』 天の父は創造主を指し、そしてイエスも創造主と常時直結していますから、イエスの裁きは創造主の裁きと等しかったんだな。こんな感じのことを、俺はさっき閃きました」


 雄哉さんは俺に同意したのち、「翔の今の話をカバラの十光で説明してくれる者はいないか」と講堂を見渡した。その顔が誇らしげに微笑んだので、最前列に座る俺は後ろを振り返ってみる。一人も漏れず、全員ビシッと挙手していた。先輩方さすがです、と音を立てず拍手しているうち、生徒代表を務める男性が指名された。その人がカバラの十光の、慈悲と裁きがバランスを取っている仕組みを説明していく。そして最後に、それに関する私見を述べた。


「雄哉先生がさきほど仰った、『今の内にこれを中和しておきな』は、慈悲と思われます。すると前回の講義は、裁きなのでしょう。この二つはティペレトにとって、表現方法が異なるにすぎないのではないかと私は感じています。慈悲と裁きのバランスを取るティペレトを私はまだ見たことがありませんが、ティペレトは『真の愛』や『愛の根源』として心を打つと聞いているからです」


 全面的な同意を伝えたのち、雄哉さんは拍手した。拍手は講堂中にすぐ伝播し、やんやの歓声も追加される。生徒代表は大いに照れ、爆笑が沸き起こったところで、なんと母さんが雄哉さんの隣に現れた。けど誰も、母さんの突如の来訪を驚かなかった。ティペレトの光を、母さんが燦々と放っていたからである。そして瞑目し、各々にテレパシーで語り掛けてから「みんな頑張れ~」と手を振り、母さんは元の次元へ戻って行った。


 今日の講義はここで急遽終了となり、定刻まで各自瞑想に励んだ。大聖者の直接の教えは瞑想を重ね、自分なりに考え自分なりのこたえを導き出すことが要求される。特に今回は雄哉さんの「我が師にお任せする」に母さんが応えたため、皆さん瞑想に全力を尽くしていた。ただ、おそらく俺一人だけは、心の中でまったく別のことをしていた。母さんが俺に、テレパシーでこう伝えたからだ。


『悪逆領主以降の記憶のある翔には、『あなたの答で正解よ』で足りるわ。だから、別のことを伝えましょう。翔のかつての領民には、今生を闘病に費やしている人達が大勢いてね。その人達は全員、翔がネットに無料公開した健康法のお陰で健康を取り戻していたわ。翔の健康法をネットで偶然目にするよう、創造主が働きかけてくれたのよ。それともう一つ。沈没事故で翔が救った子供たちは、かつての領民。翔は悪逆領主だったころの悪果を、前世ですべて清算しました。翔、おめでとう』


 講義終了の定刻になったことを隣席の小鳥さんが告げてくれるまで、俺は心の中でかつての領民の皆さんへ、土下座をただただ続けたのだった。

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