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「改めて自己紹介しよう。私は小鳥の夫の、霧島達也きりしまたつや。鈴音さんの夫の深森雄哉みもりゆうやを加えた私達四人は、同じ戦士養成学校の卒業生だ。戦士にはなれなかったが、試験結果に基づく戦闘順位が130万以内の者は、教官の資格を得られる。私と川口は、その資格組だ。戦争の生還者が少ないゆえの、苦肉の策だな」


 戦争の生還者が少ないという、長年の謎を解明しうる言葉に多大な興味を覚えるも、今はその時ではない。俺は興味を、教官の資格へ強引に向けた。

 20歳の試験で戦士になるのは、戦闘順位125万まで。それに極めて近い130万までの5万人が教官の資格を得るのは、順当と俺は思う。戦士養成学校は7学年合わせて45500校あり、それぞれに教官を4人配置すると、18万2千人の教官が必要になる。生還者の正確な人数は判らないが、冴子ちゃんが孤児院の保育士になったように帰還後の職業は自由に選べるはずだから、戦士のみを教官にするのはきっと無理なんだろうな。


「戦闘順位130万までは予備兵でもあり、超山脈での戦闘に特化した山岳部隊として戦闘訓練を受ける。詳細は、0900の会合で話そう。ちなみに私も翔と同じ、ひ孫弟子だ。私と雄哉ゆうやは地球出身ではない等々の理由により、翔と同じ講義には出席しないがな」


 鈴姉さんの夫の雄哉さんも、母さんの組織の一員と匂わせる発言を達也たつやさんはした。それについて尋ねて良いか否かが分からず逡巡する俺へ、達也さんが頷く。謝意を述べ、質問させてもらった。


「雄哉さんも、同胞団の一員なのですか?」

「そうだ、一員だ。我が師が機会を設けてくださるはず。雄哉に会えるのを、楽しみにしていなさい」


 楽しみにしていますと答えた俺に、「今話せるのは以上だ、質問はあるか?」と達也さんはフレンドリーに訊いた。こちらも「ありません」とフレンドリーに返した後、厳格な表情でキビキビ立ち上がり背筋を伸ばす。達也さんも背筋を伸ばし、教官の顔になった。


「翔の退席を許す」

「拝命します。教官殿、ありがとうございました」


 敬礼を交わし、その場を後にした。チラリと目をやった時計の長針と短針が、どちらも8近辺を指している。現在時刻は、午前8時40分。勇が待っている101号室を真っ先に目指すか、それとも勇より尿意を優先してトイレに行くかを、食堂を出るまで俺は決めかねていた。


 結局、101号室を真っ先に目指すことにした。耳の良い奴が「食堂を出てトイレに向かった生徒がいるぞ」のように、自分達が二の次にされたことに気づくかもしれなかったからだ。入学初日の対面前に同室の奴らからそんな印象を持たれるのは、避けるべき筆頭と考えて間違いない。それに尿意も、まだ我慢できたしね。

 かくしてトイレを諦めドアをノックし、扉を開けてみた。そのとたん九つの視線の矢に貫かれることを覚悟していたのだけど、そんな事はなかった。


「よう翔」

「「「「お初~~」」」」


 柔和な眼差しと穏やかな声に、迎え入れてもらえたのである。安堵が胸に広がり、自然と笑顔になる。するとすかさず勇が寄って来て、


「コイツが例の、空翔だ」


 陽気かつ誇らしげに、俺を紹介してくれた。正直言って、今ほどコイツをありがたいと思ったことはない。その想いに胸をポカポカ温められながら「みんなお初~」と呼びかけたところ、


「「「「お初~~」」」」


 皆がフレンドリーに返してくれた。嬉しさが止めどなく胸に溢れてくる。前世の俺ならその量の多さを持て余したと思うが、今生は違う。親友が肩の触れ合う場所にいるなら尚更なのだ。俺は勇を躊躇なくヘッドロックして叫んだ。


「なんだよ勇、みんなスゲーいい奴じゃん!」「だよな、同意だぜ!」「俺、嬉しくて嬉しくてたまらないよ!」「うんうん分かるぜ。それはそうと翔、ヘッドロックの力が強すぎないか?」「だってこうでもしないと、嬉しさにはち切れそうなんだよ。勇、犠牲になってくれ」「ウゲッ、締め上げる力が急に増しやがった。ギブギブ、ギブアップ!」「ええ~、仕方ないなあ・・・・って、そんなに早く開放するワケねぇだろう!」


 俺は勇の頭を抱え込んでいる右腕を少し緩める代わりに軸回転し、右腕の力瘤で勇の後頭部を押した。腕力だけで押しても勇の身体能力なら屁でもなかったはずだが、両足を踏ん張り脚力にものを言わせた軸回転ではそうはいかない。勇はバランスを崩し、前へよろける。その隙に背後を取り、勇の右腕と腰の間に俺の右腕をねじ込み、勇の右腕を持ち上げた。相撲で言うところの、かいなを返すというヤツだね。と同時に再び軸回転して勇を左に押し、そしてこのとき重要なのが、俺の左足で勇の左足を引っかけること。左足を引っかけられた勇は左につんのめり、頭の位置をかなり低くした。よし、今だ!

 勇の頭を左手で押さえる。その力を利用して左脚を持ち上げ、左脚を勇の頭の上に乗せ、手ではなく脚で勇の頭を上から抑える。その力を利用し上体を右に傾けて左腕を勇の脇にねじ込み、かいなを返す役を左腕に任せる。そして右手を勇の腰に当てて俺のバランスを安定させたら、卍固めの完成だ! 


「な!」「何が起きた?!」「スゲエ!」「「「とにかくパネェー!」」」


 俺の卍固めに、野郎共は大興奮だ。そう、何を隠そうこの星は、闇族と剣で斬り結ぶことだけを2千年近く続けてきたせいで、素手による対人格闘技を忘れていたんだね。

 忘れているのになぜ俺と勇が卍固めを掛けられるかと言うと、勇も俺と同じ地球出身だからだ。俺達がママ先生の孤児院で特に仲が良かったのは、それが理由。俺は地球の記憶をまだ思い出してなく、勇も朧げに覚えている程度だったそうだが、やはり通じるものがあったのだろう。俺達はすぐ仲良くなり、男子ゆえに二人で取っ組み合いをしている内に、格闘技の技を自然に思い出していった。そして勇が思い出した技の中に、卍固めがあったのである。どうも勇は地球で、剣術にも秀でた総合格闘家だったらしいんだよね。勇パネ~~!

 立ったままする卍固めはショーの要素が強いプロレスの技なため、互いが協力しないとまず成功しない。だがあからさまに協力すると、観客は興ざめしてしまう。よって確かな理論と技術で卍固めに持っていく必要があり、軸運動によるバランス崩しや足引っかけがその代表と言えよう。勇と離れ離れになってからそれらを一切してこなかったけど、身体能力が格段に上がったお陰で成功させることが出来た。うんうん、嬉しいなあ。が、


「翔、マジ痛い! ギブギブ、ギブアップ~~!!」

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