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十五章 戦士養成学校、1

 その後、いさむにやたら悔しがられた。さもありなんと思った俺は勇の肩に腕を回し、「これからの7年間を勇と一緒にすごせるなんて、どうにかなっちまうくらい嬉しいよ」と本音を正直に伝えた。目を見て本音を伝えたら、それをしっかり感じ取ってくれるのが親友というもの。それに漏れず、


「だよな! 俺も嬉しいぜ!!」


 勇も俺の目を真っすぐ見て本音を返してくれた。それだけで全てを忘れて意気投合できるのが、親友というもの。俺達はアレやコレやをすべて投げ飛ばし、7年間一緒に暮らせる嬉しさを爆発させた。そのせいで管理AIに「コラッ、静かにしなさい!」と、二人揃って叱られてしまったんだけどね。アハハハハ~~!!

 それはさて置き、話を先へ進めよう。

 勇に訊きたいことは山ほどあれど、ともかく食堂へ向かうことにした。「最後に到着する生徒を迎えに行く」との名目で勇は玄関に来ていたため、最後の生徒である俺が到着したからには食堂へ行き、教官に挨拶せねばならなかったのだ。「すまん勇」「いいってことよ」 小声で短くやり取りし、俺達は足早に食堂へ向かった。

 玄関と食堂を繋ぐ出入り口は、北東の端に設けられている。その5メートル南に、「教官室」と書かれた小振りのドアがあった。教官室は、孤児院の執務室とは異なる位置にあるようだ。いや、そう考えるのは早計かなあなどと思いつつ、勇と並んで足早に歩を進めた。

 食堂の入り口手前5メートルで、勇の歩調にキビキビした気配が加わった。ピンと来て、勇の後ろへ移動する。勇の左隣から後ろへ移動している0.5秒の間に、勇は俺にだけ見えるよう左手の親指をグイッと立てた。その2秒後、入り口で勇、俺の順に止まり、


「失礼します」

「失礼します」


 各々述べて食堂に入室する。孤児院の三倍の広さを誇る食堂の南側中央に、成人男性二人が立っている。苛立った気配はないが、上位者二人を俺は待たせた身。叱責と懲罰を覚悟し、勇の後ろをキビキビ歩いて行った。

 教官とおぼしき成人男性二人が横並びに立つ3メートル手前に、勇を右端にして横隊を成す。敬礼しようとする勇に合わせたつもりが、俺の敬礼は100分の1秒ほど遅れてしまった。いやはや何とも、未熟者である。

 それに引き換え、左端の虎鉄はさすがだ。敬礼せずとも勇にピッタリ合わせて背筋を伸ばすことにより、敬意の意思表示を完璧にこなしたのである。教官の評価は 勇>虎鉄>俺 の順になっているんだろうなあと、心中溜息をついた。

 俺達の敬礼に教官二人も敬礼。教官が敬礼をいてから俺達も解き、直立不動のまま勇が報告した。


「教官殿、準筆頭の空翔を連れてまいりました」

「準筆頭の空翔です。ご指導ご鞭撻を、よろしくお願いします」


 勇の口上を真似て挨拶した。向かって左側の教官が俺と目を合わせ、くっきり頷く。厳格な眼差しの内側に、親しげな瞳をはっきり観た俺は、心の中だけで首を少し傾げた。それを隙と認定したが如く、


「休め!」


 向かって右側の教官が語気鋭く命じた。幸い今回は100分の1秒の誤差もなく、手を後ろに組み左足を肩幅に広げることを勇とシンクロして成せた。「面白いヤツめ」とでも言いたげに、右側の教官が口角を僅かに持ち上げる。「まったくだ」 という言葉が聞こえて来るかのような笑みと共に、左側の教官が口を開いた。


「教官の霧島きりしまだ。隣にいるのは、副教官の川口」


 霧島という苗字と親しげな瞳から得た閃きを、視線に混ぜてみる。霧島教官が、微かに笑って頷いた。俺は心の中で小鳥さんと鈴姉さんに文句を垂れる。小鳥さんの旦那さんが戦士養成学校の教官をしているって、なぜ黙っていたんですか!


「今後の予定を川口に伝えてもらおう。川口」

「拝命します」


 そう答えた川口副教官が、前へ一歩踏み出した。


「今後の予定を通達する。0900(まるきゅうまるまる)まで自由時間。同時刻に食堂で会合開始。以後の予定は、会合時に通達する。翔、質問あるか」

「ございません、副教官殿!」


 よろしいと応え、一歩下がって元の位置に戻った副教官が、直立姿勢で体を教官へ向けた。目線を合わせ、教官が首を縦に振る。副教官は敬礼し体の向きを元に戻し、命じた。


「以上、解散!」


 休めを直立不動に戻し、勇と揃って敬礼。教官と副教官の返礼を待って敬礼を解き、食堂を後にしようとした。のだけど、


「翔と虎鉄は残れ」


 教官に止められた。勇は驚き、副教官は平静を保っている。勇に目で頷くと、「先に行ってる、101号室」と唇だけ動かし、副教官と一緒に食堂を去って行った。二人が出入り口に消えるのを確認した教官が、表情を柔らかくした。


「翔、虎鉄、楽にしてくれ。特に虎鉄、人間の作法に付き合ってくれてありがとう。鈴音さんから聞いていたとおり、虎鉄は賢いな」


 虎鉄の前に片膝つき、教官が虎鉄を撫でる。猫に慣れているのだろう、虎鉄は教官のナデナデを気に入ったようだ。「二人とも付いてきなさい」 柔和さを一段増した教官が、食堂の南東へ足を向ける。孤児院では食堂南東に院長先生の執務室があったが、この学校は違う。教官室は食堂の南西にあり、また玄関で気づいたように、教官室は玄関側にも出入り口が設けられていた。

 などと、足を向けたのとは逆方向を説明してしまったが、俺たち三人が着いたのは食堂の南東。食堂南東の日当たりの良い窓辺に、犬猫用の食事スペース兼くつろぎ処が作られていたのだ。現に今も五匹の猫が寛いでいて、虎鉄はその一匹一匹と匂いを嗅ぎ合っている。「うむ、虎鉄も仲良くやっていけそうだな」「はい、同意します」 朗らかな表情と安心した声の教官に、ああこの人は小鳥さんの旦那さんなのだなあと、俺は奇妙なほど納得したものだ。そんな俺へ、


「座りなさい」


 教官が食堂の椅子を勧めた。勧めた上位者が椅子に腰を下ろすのを待ってから、指し示された対面の椅子に座った俺へ、教官は諸々の説明を始めた。

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