十四章 戦士養成学校入学まで、1
その日から、俺の成長速度は更に加速した。予測では3月10日に強化9.2倍ゴブリンに勝利し、その倍率で戦士試験に臨む手はずになっていたのに、それが早まったのだ。予測を5日上回る3月5日に勝てる気がふとしたので試しに戦ってみたところ、強化9.2倍ゴブリンにあっさり勝ててしまったのである。それは前回の強化から16日目の出来事だったためみんな瞠目していたが、俺は内心冷や汗を流していた。次はもう少し早まる気が、何となくしたんだね。
幸か不幸かは微妙なところだけど、予感は的中した。2週間後の19日、強化9.3倍ゴブリンにまたもやあっさり勝ってしまったのだ。さすがにこれは、瞠目されるだけでは済まなかった。前回の強化は驚きつつも気を遣ってくれて大騒ぎにならなかったが、
「「「「今度は許さん、白状しろ~~!!!」」」」
と、歴代最強のくすぐりを味わうハメになってしまったのである。9.3倍ゴブリンを倒すや本気モードの男子49人に囲まれた俺はこっちも本気モードで逃走を図るも、1対49という戦力比は残酷だった。あっという間に捕まえられてしまったんだね。その後の十数秒間で歴代最強くすぐりの恐ろしさを骨身に染みて知った俺は、息も絶え絶えに答えた。
「太陽は、松果体だって、気づいたんだよ」
太陽系を一個の物質肉体とするなら、太陽が松果体を担っていることを知った。それ以降、太陽に応援されている感覚を常に抱いている。太陽による応援は、本物の闇族との戦闘に効果を及ぼす気がする。光が闇を退けるのは、宇宙の定めだからさ。
なんて感じに、俺は皆へ説明した。ティペレトは明かせずとも、ティペレトの恩恵はなるべく伝わるよう考え抜いた説明を、俺はしたのだ。すると説明を終えるや、
「「「「・・・・」」」」
全女子を含む99人が一斉に瞑想を始めた。呼吸法と並行して松果体の集中および瞑想を、6年間続けてきたからだろう。訓練場に立ったままとは思えない、見事な瞑想に皆が入ったのである。
やがて、瞼を閉じたまま目を見開いたかのような表情をした女の子が現れた。その子は、やはり舞ちゃん。舞ちゃんは瞼を閉じたまま見開いた目を、沈みゆく夕日へ向ける。続いて両手が胸元で合わされ、祈る形になった。
その後、舞ちゃんはただただ静かに、夕日へ手を合わせていたのだった。
強化9.3倍ゴブリンに勝ったのが午後5時40分だったこともあり、訓練終了時刻までに夕日へ手を合わせたのは、10人ちょっとしかいなかった。しかし翌日の夕方には50人を超え、その翌日の3月21日、99人全員が太陽へ手を合わせるに至った。鈴姉さんによるとその日から、皆の真の快進撃が始まったという。
三日後の24日、お昼ご飯を食べていたテーブルに母さんが急遽現れた。「目で挨拶してくれただけで十分よ、食事を最優先してね」 咀嚼中のご飯を慌てて呑みこもうとした俺に、母さんは慈愛溢れる笑みを向ける。母さんはいつも、太陽が光を放つように愛情を遍く放っているけど、この笑みほど深くそれを感じた事はない。咀嚼を終え嚥下し、自然と背筋を伸ばし聴く姿勢になった俺へ、「邪魔したら悪いから手短に話すね」と母さんは微笑んだ。
「この孤児院に今、共鳴現象が起きています。戦闘順位390万台の子を集めたこの孤児院における13歳の戦士試験の合格者は、2人が平均です。けれども今年は、前例のない人数になるでしょう。翔、この星の星母として感謝します」
俺ごときへ恭しく腰を折った母さんに、普段の俺なら見苦しく慌てることしかできなかったと思う。だが母さんは今、99人の仲間達の母親として俺に感謝してくれているのだ。ならば、そうされるに値する俺になるのが礼儀。俺は矮小な自分を脱ぎ捨てると共に、どこまでも謙虚な俺になって、星母様の謝意を受け取った。
しかし俺がいくら背伸びしようと、この宇宙を代表する母神様にとって、俺はまだまだお子様でしかないのだろう。母神様は母さんに戻って破顔し、出会った頃とまったく変わらぬ仕草で「よしよし」と、俺の頭を撫でたのだった。
翌25日、戦士試験の一環である連携審査が始まった。前回の7歳の戦士試験でも連携審査は行われ、それは9人の仲間達が1人ずつ入れ替わっていくという方法で成された。訓練場に引きこもっていた俺は当初それを審査と思わなかったが、亮介たち9人の仲間がとにかく最高だったお陰でめでたく合格することができた。いやはやホント、持つべきは友なのである。
それへの疑いは微塵もないが、今日から始まる13歳の連携審査に限っては、友人は関係なさそうだった。初対面の9人のAIと連携し、強化7.9倍ゴブリンにとにかく1勝すれば、それで合格だったのである。
そのあまりの容易さに、たったそれだけで連携技術を審査できるのかな、と俺は首を傾げたものだ。すると美雪が「皆には内緒だからね」と前置きし、機密情報を開示した。
「翔が前回の連携審査にあっさり合格したのは、7歳児としてはあり得ないほどの連携能力を有していたからなの。普通の子にとって、あれはかなりの難題でね。あれに合格し、次の孤児院の6年間を皆と仲良く過ごせば、13歳に求められる連携技術を満たしていると認められるわ。また連携より今回の試験で重視されるのは、個としての強さなの。たとえば戦争でまみえる事になる本物のゴブリンに、翔はまだ勝てない。本物のゴブリンは、それほど強いのよ。現時点で強化7.9倍ゴブリンと10対10で戦い倒せなければ、20歳まで努力しても本物に勝てる可能性は極めて低いと統計が語っている。それが、現実なのね」
この孤児院に共鳴現象を起こした翔にだけ開示された情報だから、20歳まで秘密にしててね。そう付け加えた美雪が最後にウインクしたのは、どのような意図があったのだろうか? 美雪のウインクにドキドキしたお陰で皆へ明かせない罪悪感が一時的に弱められたのは、事実だけどさ。
だが一時的にせよ弱められたことが、連携審査の一発合格の助けになったのは否めない。また一発合格によって審査に割く時間を最小に抑えることができ、浮いた時間を戦士試験の対策に充てられたのだから、ウインクへ全面的に感謝すべきなのだと俺も思う。しかしたとえそうだとしても、それを美雪に伝えるのは憚られた。理由は最近美雪を、異性として意識することが多くなってきたからだ。美雪と俺の身長差がなくなってきたのも、異性として意識することに拍車をかけている。表面上は忘れている振りをしているだけで、目線が同じになったら美雪を呼び捨てにする約束も、本当は片時も忘れたことがない。それを約束した時と美雪の身長は変わらないはずなのに、最近の美雪はなぜああも綺麗になったのだろう。俺と身長が同じになったら一緒に成長するって言ってたけど、美雪が益々綺麗になったら俺、平静を保っていられるのかな・・・・
なんて具合に、機械工学の勉強をそっちのけて自習室で悶々としていたら、
「アンタようやく、色気づいてきたのね」
と、ド直球を遠慮なく投げてくれる得難い友人が、俺の隣にいきなり現れたのだった。
それからの三十分弱は思い出すだけで辛い。許容値を超えた恥ずかしさが津波のように押し寄せてきて、蹲りそうになってしまうのだ。投げられたド直球は全て事実だったけど、冴子ちゃんあんまりっすよ。
とはいえ冴子ちゃんは何だかんだ言って優しいから、三十分弱の会話を美雪が知ることのないよう手を打ってくれた。母さんも手伝ってくれたそうなので、それだけは唯一の救いになっている。それ以外は冗談ではなく、致命傷級のド直球だったけどな!
いや、違う。救いではないけど、冴子ちゃんとの良い思い出になった事も一つあった。そこに辿り着くまでの「美雪のどこに惚れたかを全部ゲロしないと、美雪に全部バラすわよ」という脅しに屈し、何から何までゲロってしまった記憶が強烈過ぎて忘れていたが、自分の戦士養成学校時代の赤裸々な情報を冴子ちゃんも俺に打ち明けてくれていたのだ。ヤバイ、今度会ったらしっかりお礼を言っておかないとな。




