十三章 四光と候補の卒業、1
体を眠らせたまま心だけを目覚めさせ、意識投射する。以前はこんなこと逆立ちしても無理だったのに、今はあっさり出来るようになっている。人って凄いよな・・・・
それはさて置き訓練場へ移動し、母さんの授業を受けるためだけの世界を創造していく。理論的にはベッドの横でこの作業をしてもまったく構わないのだけど、同室の奴らが夢を介してひょっこり現れたら非常に面倒なため、訓練場へわざわざ赴くことにしていた。ここなら絶対安全と、確信できるしね。そして創造を終えると同時に、
「翔、こんばんは」
「こんばんは母さん」
母さんがやって来た。13歳になった今でも準創像界でこうして母さんと会うと、嬉しさを巧く隠すことが俺にはできない。けどそこは、さすが母さん。照れくさがる俺を慮り、優しく微笑むだけに留めてくれる。いやはやまさしく、母神様なのだ。ただ、
「もう翔ったら、先月のショックをまだ引きずっているの?」
「ごめんなさい。瞑想を重ねて納得できたと思っていたのですが、まだほんの少し残っていたみたいです」
との会話から窺えるように、先月の巨大な衝撃を俺は未だ克服できずにいた。その衝撃とは母さんが、女性ではないということ。といっても男性ってワケでも、ないんだけどさ。
先月の授業で教えてもらったところによると、人の本体は男でも女でもないという。ただ肉体に前後、左右、上下のような「対となる両極」があるように、本体にも対となる両極がある。その一方の延長としてこの世に生まれると男の心と体を持った男になり、もう一方の延長として生まれると女の心と体を持った女になるのだそうだ。つまり俺と本体を共有する女が、この世のどこかにいるという事だね。これを誤解したのがツインレイなのだろうがそれは置くとして、俺が男に生まれ続けてきたように、人は原則として同じ性別に生まれてくる。ただ学びの機会として希望すれば対となる性に一度だけ生まれられるが、しかしそれは大抵の場合、性同一性障害の原因になると母さんは肩を落としていた。
母さんのように本体と常時直結状態を取り戻すと、本体は男女両性の存在なため、どちらの性の肉体も任意に創ることができ、またどちらの性の赤子にも任意に生まれてこられるという。そしてここまで教えてもらったとき、俺は首を捻って訊いたのだ。「あれ? 母さんは女性ではないのですか?」と。
その返答が「女ではないし男でもない、男性面と女性面を合わせ持つ潜在的に男女両性の存在よ」だったというワケ。そしてそれを、俺は未だ引きずっていたんだね。
ただこれには、少々説明がいる。それは人それぞれに個性があるのと同様、本体にも個性があるということ。母さんの場合その個性が、母親へ極端に傾いていた。厳めしい雷親父と優しく温かなお袋さんの両方になれても、しっくり来るのは断然母親だったのである。ならばそれを活かそうという話になり、試験的に星母という役職を作ってみたところ、水を得た魚の如く働き、かつ活躍して、数々の実績を打ち立てていった。したがって正式な役職となり、それ以降母さんはこの星の星母を、かれこれ五万年務めているのだそうだ。
という前回の授業を思い出しつつ、改めて瞑想してみた。すると、おそらく正面に座っている母さんのお陰なのだろう、自分という存在の奥の奥に母さんと共鳴する母性があるのを、明確に感じることが出来たのである。
とはいえそれは大仰なことでは更々なく、むしろ非常に馴染み深いものと言えた。文字にすると、こんな感じかな。『前世の俺が孤児院の幼い弟や妹たちを世話していた時いつも普通に抱いていた、優しく温かな気持ち。その精髄の究極が、心の向こう側にあるのを明確に感じた』 ただそれだけの、ことだったんだね。
「翔、掴んだようですね」
「はい、掴めました。母さんのお陰です、感謝します」
「それも少しあるけどもっと大きいのは、翔の前世の行いね。幼い弟や妹たちは翔を、それはそれは慕っていたわ。父親の記憶も母親の記憶もないあの子たちが、理想の父親や母親として我が子に接することが出来るのは、翔と過ごした幼いころの思い出があるからなのよ」
「そうなんだ、みんな理想の親になっているんですね!」
弟や妹たちの現在の姿を思い描いたら、心底ニコニコになれた。その隙に母さんがちゃっかり俺の頭を撫でていたけど、今日は大目に見るとするか。フハハハハ~~!!
などとワイワイやっているうち、授業が始まっているような、始まっていないかのような状況になった。いや我ながら頭の悪い表現だと思うけど、それが正直な感想なのだから仕方ない。始まっていると感じるのは「十光の四界の名称と、名称の由来を述べなさい」といつもの授業形式で命じられたからで、始まっていないと感じるのは、母さんが俺の左隣に椅子を創造しそれに腰かけているからだ。普段は右隣なのに今日はなぜ左隣なのだろうと疑問に思うより、さっきの延長で嬉しくてたまらない自分を優先している俺って、ホントまだまだお子様だよな・・・・
ま、それはさて置き。
「カバラの十光の四界は、上から創創界、創想界、創像界、創物界です。それぞれの由来は、創造主を創造したのが創創界。想いを波長として創造したのが、創想界。形、つまり像を創造したのが創像界。そして物質を創造したのが、創物界ですね」
「よろしい。では翔、順序と形が異なるこの十光を覚えていますか?」
母さんが宙に映し出したのは、四光が六光になったせいで下向きの三角形が三つ続くようになってしまった、地球で見慣れた十光だった。もちろん覚えていますとの返答に続き、記憶をすくい取って述べてみる。
「えっと確か、こっちの方がカッコイイので訳も分からず採用したら、カッコイイからこっちが広まってしまった。のような説明だった思います」
「一度きりの説明をよく覚えていましたね。さてでは、今日の学びに不可欠な次なる質問に移りましょう。私達が今いる準創像界と、真の創像界との違いは何ですか?」
「準創像界にはネガティブモドキを持ち込めても、真の創像界には一切のネガティブを持ち込めない、ですよね」
正解と母さんは太陽のように微笑み、ちょっぴり不思議なことを命じた。この星を見下ろす高さまで上った自分を空想しなさい、と言ったのである。難しさの欠片もないそれを成した俺に、母さんが語り掛ける。
「翔の心の目に映っているように、この星には海もあれば陸もあります。陸には森もあれば草原もあり、草木の生えない荒れ地もある。陸には動物がいて、海には魚がいて、空には鳥が飛んでいる。それがこの星、アトランティス星ですよね」
「はい、そのとおりです」
「では、想像してください。ある人が翔に『これがアトランティス星だ』と言って、森の腐葉土を見せました。その腐葉土は、アトランティス星ですか? それとも、アトランティス星の一部ですか?」
そんなの考えるまでもない、アトランティス星の一部ですと俺は答えた。母さんは頷き、草原の草をアトランティス星と主張する人や、荒れ地の石をアトランティス星と主張する人を、次々登場させていった。そして「このように、一部でしかないモノを全体と言い張ることを人は頻繁にします。地球人は、神や創造主にもそれをします。思い当たるモノが、ありませんか?」と、俺に問うた。
「もちろんあります。神は愛、もしくは光と主張する人が、地球には山ほどいますね」
「同意です。それは神の一部でしかないのに、その人達は全体だと主張して譲りません。ですが今から向かう場所で、翔はこう思うでしょう。『なるほど』と」




