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誇張でも演出でもなく凹むので、話題を強引に変えよう。
そうそう冴子ちゃんは、俺と一緒に容姿を成長させてくれている。本人は「アンタと同い年の私を忠実に再現しているんだから、感謝しなさい」とふんぞり返っているけど、冴子ちゃんの美少女ぶりに感謝したことは残念ながら無い。理由は二つあり、一つは6歳で出会いその後ずっと友達の冴子ちゃんは、異性であっても異性として意識しにくい大切な幼馴染だからだ。俺の個人的な感覚なのかもしれないが冴子ちゃんの隣にいると、心の一部が6歳に戻る。戻ったその箇所は友愛を担当しているため、6歳の無垢な心で冴子ちゃんに友情と愛情を感じる。それは間違いなく素晴らしいことなのだけど、6歳児としての「冴子ちゃんは大好きなお友達!」という感覚があまりにも強すぎ、ドキドキする異性の美少女という感覚が埋もれてしまうのもまた事実なのだ。かくして冴子ちゃんは美少女であっても美少女と意識しにくい、大切な幼馴染になっているのである。
冴子ちゃんの美少女ぶりに感謝したことが無いもう一つの理由は、男子は同年齢の女子より年上女性を綺麗と感じる傾向があるからだ。例えば美雪と初対面した3歳の俺は14歳の設定の美雪を「綺麗だな」と感じたし、6歳で出会った母さんも素直にそう感じた。二人にはナイショだが二人への「綺麗な人だな」という思いは年々増えていて、母さんは親だからいいにせよ美雪の美少女ぶりには困ってしまうことが多くなってきている。面と向かって訊いたことは無いが女性というものは年下男子のこの想いに極めて敏感なのか、母さんも美雪も鈴姉さんも鈴姉さんの講義のお姉さま達も俺が心の中で「綺麗な人だな」と思っていると、とても嬉しそうにする。バレバレなのは恥ずかしいが大切な女性のニコニコ顔は俺を幸せにしてくれるので良いのだけど、冴子ちゃんだと事情が変わってくる。冴子ちゃんも綺麗なのは間違いなく、また稀にそれをしっかり伝えねばという使命感を覚えるため素直に「冴子ちゃんって綺麗だよね」と話しかけるのだが大抵、
「このバカ!!」
と、ぶっ叩かれてしまうのだ。むむう、なぜなんだ・・・・
まあそれはいつか判るかもしれないから今は置くとして、かくなる理由により冴子ちゃんの美少女ぶりに感謝したことが、俺はまだ一度もないのだった。
その当人に時空を超えて睨まれている気がしきりとするので、話を替えよう。
アトランティス星の猫の平均寿命は、涙が出るほど嬉しいことに地球の倍近い、35歳らしい。またこの星の人々と同じく若い時期が長期間続くこともあり、10歳の虎鉄と繰り広げる取っ組み合いに俺は連敗記録を更新し続けている。輝力を使えば違うはずだが俺は肉体のみの訓練を非常に重視しており、そしてその訓練において虎鉄は最高の好敵手なため、涙が出るほど有益な時間を虎鉄のお陰で過ごさせてもらっている。有益の筆頭は何といっても、べらぼうに高い虎鉄の戦闘センスだ。陸上生物で最も肉食に特化した猫は、狩りを成功させ続けないと命を繋いでいけない。そんな過酷な日々を生き抜き子孫を残したエリート達を先祖に持つ虎鉄の戦闘センスは、とにかく半端ない。俺を意のままに誘導し詰め将棋のように追い詰めてゆく時もあれば、死角から絶妙な不意打ちをする時もあれば、小型四つ足動物の超速度でゴリ押しする時もあるというように、多彩な戦闘スタイルを最良の瞬間に虎鉄は繰り出してくるのだ。そんな虎鉄との取っ組み合いは美雪によると、ゴブリン戦に限っては無用らしい。闇族最弱のゴブリンに、そこまでの戦闘センスはないからだ。しかし同時に、美雪は厳格な声でこうも言った。
「闇族は強くなればなるほど、戦闘センスも優秀になっていくの」
闇族の戦闘力を詳細に知っている美雪は、俺と虎鉄の取っ組み合いを極めて有益と考えている。その証拠にこの孤児院でも、虎鉄用のお刺身セットを年に一度は必ず取り寄せてくれる。俺のステーキも五割増しなので中心部分を虎鉄と分け合い、二人揃ってうっとりするのが毎年の恒例だ。この星の人々と同様、若い時期が長く続く虎鉄の戦闘センスは輝きを年々増している。それを肌で感じつつ訓練することは、ハイゴブリン以上の強敵との戦いで巨大な助力になることを、俺は疑っていない。
強敵ではないしライバルとも少し違うけど、前の孤児院で最も仲の良かった勇とも、強さを競い合う良好な関係になっている。とはいえ「競い合う」系の語彙を使うのは勇のみで、戦闘順位200位以内を誇る勇は俺にとって雲の上の存在なのだが、あいつは俺を相変わらず終生のライバルと呼んでいる。俺としては苦笑してしまうのだが同意する節もあるにはあり、それは呼吸法と太陽叢強化法を行っているのが俺の孤児院以外では、勇しかいないという事だった。
呼吸法と太陽叢強化法を前の孤児院の皆へメールで伝えようとしたところ、母さんが『勇だけにしなさい』とのテレパシーを送って来た。その時は『遠からず解るから今は母さんを信じて』としか説明してもらえず多少の反抗を覚えたが、今の孤児院で過ごすにつれ母さんの言葉どおりになっていった。俺はこの孤児院の仲間達と、強固な絆を結ぶことに成功している。それを明瞭に感じつつ一緒に暮らしているからあの二つを一桁年齢の子供に教えられるのであって、そうではない子供達と混同するのは誤りだ。絆を築いておらず、迅速な対応も不可能な遠くにいる子供達へは母さんの指示が正しかったのだと、時間が経つにつれ解るようになったんだね。
勇によると、呼吸法と太陽叢強化法の効果は絶大らしい。今の孤児院に移った当初の勇の孤児院内順位は100位だったのに、順位を毎年着実に上げていき、去年の順位試験ではとうとう3位になった。いやそれどころか、去年の試験直後に輝力造形スキルが工芸スキルへ昇格したからだろう、4か月毎に出る総合順位において勇は孤児院内1位を既に獲得していたのである。友の努力が報われるのは、俺にとっても嬉しいこと。よって当然「おめでとう~」と称えたのだけど、
「まだだ、この程度ではまだまだ足りん!」
と、勇は己への厳しい姿勢をあくまで貫いている。3歳のスキル審査では1千万の同学年の中で16位だったそうだから、確かにこれくらいでは満足できないのだろう。それは分かるが、メールに「13歳の戦士試験で目標を絶対成し遂げて見せるぜ!」と毎回必ず書いてくる勇は暑苦しい奴と周囲に認識されているのではないかと、俺は少し案じていた。
余談だが勇とのメールを介し、勇のフルネームが剣持勇ということを初めて知った。でもこの「初めて知った」を正直に話すと落ち込まれる気がしたので、以前から知っている演技を俺はしている。あいつは意外と繊細なところがあるから、きっとこれで正解なんだろうな、うんうん。
そうそう話は少し戻るけど案じていると言えば、本日3月1日の母さんの授業および鈴姉さんの講義へ、俺は若干の緊張を抱いていた。普段と異なり母さんに「いつもより30分早く意識投射しなさい」と命じられ、鈴姉さんにも「3月1日から受講者が1人増える」と伝えられていたからだ。ひょっとするとこの二つは密接に関係しており、「たとえば母さんと一緒に俺も新メンバーを迎えに行ったりして?」などと思うと、ヘタレとしては緊張せずにはいられなかったのである。そんな俺を察知した母さんのテレパシーによると、『全然違うよ~』との事らしい。安心したのは事実だけど、いつも以上に心をポジティブにして意識投射せねばと決意した俺だった。
ちなみに講義仲間は、この5年間で1人減った。生徒代表を実質的に努めていた春雄さんが、正式なひ孫弟子になったのである。春雄さんは俺に話しかけることでお姉さま達の撫で人形になっていた俺を幾度も救ってくれた恩人だし、様々なことを快く教えてくれる器の大きい人でもあったから、講義を卒業されるときは少々凹んだ。それを憐れんだのか春雄さんは別れぎわ「20歳の戦士一次試験に翔君が合格したら会えるかもよ」と、秘密をこっそりバラしてくれた。「了解です、必ず合格します!」「うんうん、翔君なら合格間違いなしだよ!」と二人で内緒話をしたのは、とても良い思い出になっている。
それにしても、戦士の一次試験ってなんだろう? 勇に訊いても20歳の試験については全然知らないそうなので、楽しみのような不安なようなが正直なところだ。
春雄さんが教えてくれた事の一つに、母さんの所属している組織と戦士の関係がある。それを要約すると、「組織が陰ながらサポートしていることを戦士はまるっきり知らない」になるだろう。春雄さんによると、そもそも戦士には弟子等が極端に少ないという。けれどもそれは戦士の成長度が低いからではなく、この星の卒業方法が違うことに由来するらしい。これにはお釈迦様の説いた『執着を捨てよ』が大いに関係している。三次元物質世界への執着が多いほど心と本体は離れていき、執着が少ないほど心と本体は近づいていく。よって執着を捨てることはこの星を卒業する王道の方法と言えるが、道はそれだけではない。一見すると執着しまくっている卒業方法もあり、当星におけるその筆頭こそが、戦士なのだそうだ。人類絶滅を防ぐことに生涯を捧げ、見事それを成し遂げた戦士は転生時に、全ての心残りが消え去った完璧な満足を往々にして得る。それは執着が皆無なのと同義なため、その瞬間に当星を卒業する人が多数いると春雄さんは教えてくれたのだ。戦士でなくともそれに該当するに違いない人を思い出した俺は講堂で泣いてしまい、皆に大層心配されつつママ先生の話をしたところ、全員もれなくもらい泣きをして大変なことになった。幸い鈴姉さんが母さんのテレパシーを受信し、ママ先生がアトランティス星を卒業したことを発表して拍手が沸き起こり、講堂がポジティブに満たされたお陰で事なきを得たけど、あれは冷や汗ダラダラだったな・・・・
俺如きの冷や汗などうっちゃって話を元に戻すと、かくなる仕組みによって当星を卒業する戦士が大勢いるため、組織は戦士へ莫大なサポートを陰ながらしているという。また鈴姉さんが「今回の件で我が師の許可が出た、特別に明かそう」と講義の一環として教えてくれたところによると、当星に他星からの転生者が多い理由の一つはそれなのだそうだ。つまり、
「戦士の卒業方法に適性のある者が、銀河中から集められるのだな」
との事だったのである。




