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「そろそろここを離れる。体外へ出たら、創造力を使うさいの注意点をテレパシーで送る。それなりの量の情報を一気に送るけど、驚かないでね」


 了解の波長を受け取った。にっこり微笑み、舞ちゃんと一緒に体外を目指す。外へ出ると同時に体を本来の大きさに戻し、舞ちゃんと向き合って両手を繋ぐ。そして二日かけて構築したイメージを、一気に送った。

 7歳の戦士試験前の9日間、俺は母さんの集中講義を受けた。そのとき母さんは俺が理解しやすいよう、地球の社会に譬えて話してくれた。それはまこと素晴らしい内容だったけど、それをそのまま舞ちゃんに送ることはできない。大聖者の母さんを紹介する権利を俺が持たないのもさることながら、地球を知らない舞ちゃんに地球に譬えた話をしても、理解の助けになどならないからだ。よってあのとき教えてもらった内容を、俺は二日かけて舞ちゃん仕様に造り変えた。『大いなる力を悪用した悪果は巨大になる』を始めとする宇宙法則を、アトランティス人の社会に当てはめて構築し直したのである。それをこうして両手を繋ぎ、舞ちゃんへ一気に送ったんだね。

 驚かないでねと言われていようと、テレパシーによる情報の一斉伝達を初めて経験した舞ちゃんは、やはり驚いたようだ。それでもそれは一瞬で収まり、その後は送られてきた情報を落ち着いて振り返っていた。その時間を利用し、俺も前回の母さんの授業を振り返っていく。前回の授業は、カバラの十光の上三つについて。いやはやまさか十光の一光と二光と三光が、創造主の創造主を指していたなんて、想像すらしなかったよ・・・・

 その耳に、


「いけない、翔くんごめんなさい!」


 舞ちゃんの焦った声が届いた。俺も授業を振り返っていたからいいよ、と口走ったのち失敗に気づき「ゴメン、授業はなしで」と頭を掻く。そんな俺に舞ちゃんはクスクス笑い、了解と答えた。続いて、少し悲しげな表情になる。うん、わかるよ舞ちゃん。俺も母さんの授業や鈴姉さんの講義が終わる時は、仕方ないと思いつつも寂しくなるからさ。


「舞ちゃん、今送った情報に質問ある?」

「ううん、ないよ」

「今日の出来事の質問は、あるかな?」

「ううん、ない・・・・あ!」


 舞ちゃんは質問を見つけて、顔を輝かせた。輝くこの笑顔を保持したまま意識投射を終えるのが俺の使命、と自分に言い聞かせ、予想される質問への返答を頭の中で構築していく。幸い、予想は的中した。


「翔くんが送ってくれた情報によると、私達が今こうして体の外にいることを、意識投射って言うんだよね。私これを、出来るようになりたいの。なのでお勧めの訓練方法があったら、ぜひ教えてください」


 体を直角に折った舞ちゃんに、瞑想が得意な人は意識投射も得意なことが多いとまず伝えた。使命を果たせていることに安堵した俺は、意識投射の下準備にあたる、体の各部を順番に緩めていく方法を教える。左足の親指から始めて頭部に至るこの方法を舞ちゃんに伝える許可を、母さんにもらっていたんだね。

 続いて、心の焦点を外へずらす幾つかの方法を紹介する。個人的には階段を一歩ずつ上ってゆくのがイメージし易かったので最初にそれを伝えたのち、梯子はしごを用いる他の方法も挙げていった。地球では車や自転車に乗って移動している自分を思い描く人も、いるそうだしね。


「こんな感じにイメージし易いものを自由に選んでいいし、自分に合う方法を探してもいい。とにかく自由に、楽しんでしてね」

「わかった、自由な気持ちで楽しむね。翔くん・・・・」


 言いよどむ舞ちゃんに言葉を掛けず、いくらでも待つ意志だけを表情で示した。けどそれは失敗だったらしく、「甘やかされたら幾らでも待たせちゃうじゃない」と叱られてしまう。ごめんなさい~とペコペコ謝る俺にププッと噴き出し、舞ちゃんは姿勢を正した。


「翔くん、今日も誠にありがとうございました。いつか恩返ししますと言ってもいつものように、『俺以外の誰かに返して』と微笑まれるのがオチでしょうから、今日はもっと強引になります。翔くん・・・・」


 強引になると宣言しつつも強引になりきれないこの奥ゆかしい子に、俺は何をしてあげられるのだろう。少々焦ってそれを考えていると、「そなたは今すべきことを十全になした。次は、次の機会にしなさい」とのイメージが穏やかにやって来た。穏やかなのも良いけど、名状しがたき衝撃として俺を貫いた最初のあれも捨てがたいんだよなあ、とほっこり考えていたのが伝わったのかもしれない。強引ではなく、ほっこりした表情になって舞ちゃんは言った。


「翔くん、私とまたこうして会ってくれる?」

「もちろんだよ、一緒に超山脈の・・・・わわわ!」

「ふふふ、聞かなかった事にするから安心して。これでも翔くんと付き合い、長いからね」

「うん、ありがとう舞ちゃん。じゃあまたね!」

「うん、翔くんまたね!」


 こんな感じにしっかり挨拶したのに、体に戻るや視線を交差させた俺と舞ちゃんは、それから二人でひとしきり笑い合ったのだった。


 というのが、1年10カ月前の話。

 満11歳になった5月の、半ばの出来事だ。

 因みに舞ちゃんは創造力にも驚嘆すべき才能を持っていたらしく、3週間毎のゴブリン強化をたった一か月で成してしまった。ただ少々不可解なのだけど意識投射には才能がなかったのか、1年10カ月経っても進展がまったく見られない。こっちが心配になるほど本人は落ち込んでいて、俺も可能な限り相談に乗っているが、道は未だ閉ざされたままだ。母さんや鈴姉さんに相談しても「青春ねえ」と判を押したように返されるだけなので、ここ数カ月はその話題を持ち出していない。

 二人の「青春ねえ」を思い出すとなんとなくカチンと来るので話題を替えよう。

 4週間毎を3週間毎に初めてできた時の強化倍率は、5.9倍だった。それ以降はピッタリ3週間ではなく1日少ない20日のことも稀にあったので、今は強化倍率9.1倍になっている。1カ月後の戦士試験の合否境界線は7.9倍だそうだから、よほどの失敗をしない限り俺は落ちないだろう。舞ちゃんも現時点で強化倍率8.9倍なので合格間違いないが、同じグループになる可能性は低いという。原因は0.2の差が付いていることに加え、俺の試験成績を予測しづらいかららしい。母さん曰く、「翔の未来は私も頻繁に外しちゃってね、確証をどうしても得られないのよ」との事だったのである。頻繁に外すの箇所で、母さんはいつも決まってニコニコする。母親とはありがたいものと毎回しみじみ思う反面、「翔はホント母さんが好きなのねえ」と輪をかけてニコニコするのは、そろそろ止めてもらえませんかというのが思春期男子の正直な気持ちだった。

 いや思春期と言っても前世と異なり、異性への性的興味がまるっっっきり湧いてこないんだけどな!

 そこは前世と似ても似つかないのだけど、精神年齢は女子の方が高いというのは、この星にも当てはまる気がする。1か月後に迫る戦士試験への動機が男女で異なることに、男子は気づいていないのに女子は気づいていることが、該当すると思う理由だ。男子はただただ純粋に「戦士になりたい!」と願っているのに対し、女子は「将来の夫に会いたい!」も含まれているのを、男子は知らないが女子は知っているって事だね。13歳の戦士試験に落ちたら、職業訓練校に入学するのがこの星の決まり。同学年生徒が約1万1千人いる7年制の巨大校にもかかわらず、成婚率が50%とくれば、戦士養成学校への進学を女子が熱望して然るべきなのかもしれない。それにしても母さんはなぜ、職業訓練校の成婚率を50%にしているのだろう。なんとなく訊いてはいけない気がして、俺はまだその理由を知らないんだよね。

 そうそう母さんと言えば、鈴姉さんの講義の前に今も変わらず授業をしてくれている。時間は講義より圧倒的に短く数分しかないのに内容が半端なく重いため、内容把握に費やす瞑想時間の比率は、授業4講義1といったところだ。それほど費やしても次回までに把握しきれないこともあり、そういう時はレジャーシートに二人並んで座り様々な話をする。申し訳ないと心底思いつつもやたら嬉しそうにしている母さんが隣にいると、自分に厳しくしきれない俺なのだった。

 厳しいと言えば、厳しい美雪を一切見なくなった。本人曰く「小さかった翔には厳しく接しなければならない場面が多々あって、本音を言うと私はそれがつらくてつらくて堪らなかったの。それを不要にしてくれた翔には、感謝しているわ」との事だった。そんな吐露をされるとかつての己の愚かさを無限に後悔するのが俺なのだが、そこはさすが美雪。「でも今の翔は昔みたいに抱きつけないし頭ナデナデもできなくて、つまらな~い」と演技抜きでブーブー文句を垂れ、後悔を相殺してくれるから、ありがたいの一言に尽きる。でもそこに母さんと冴子ちゃんがすかさず乱入し、俺を羞恥のどん底に毎回叩き落すのは、マジ勘弁願いたい。


「でも美雪は、翔をシャワーで洗ってあげたじゃない。アレ、母親の私ですらしたことのないんだからね!」「ふふん、羨ましいでしょう」「母さんはまだいいよ。翔を美雪が洗ってあげているのを、追体験できるんだし。私なんてそれすら知らないのよ、誰かさんが頑なに拒否しているせいで」「そうねえ、少し可哀そうねえ」「私は姉でも冴子は友達だから恥ずかしいのは分かるけど、母さんに同意」「そうよ翔、私だけ可哀そうじゃない。そろそろ諦めて、アンタのスッポンポンを拝ませなさいよ!」「お願いします、お願いしますから、そのへんで勘弁してくださいませ~!!」「「「アハハハハ~~!!!」」」


 つい先日も、このネタをまたされたんだよな。思い出しただけで凹むぞ・・・・

 誇張でも演出でもなく凹むので、話題を強引に変えよう。

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