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十章 授業と講義の二回目、1

 虎鉄と初めて会話した日から半年以上さかのぼった、6月1日。

 鈴姉さんの講義に出席する二回目の日の、おそらく午後11時ごろ。


「母さん、今日もお迎えありがとうございます」

「いいのよ。こうして翔に会うのは私にとって癒しだし、ちょっぴりでも授業をしてあげられるしね」


 意識投射をまだできなかった俺は、通算三度目のお迎えを母さんにしてもらっていた。準創像界は物質界より遥かに相手の気持ちがわかり、母さんの言葉に嘘はないと確信できて救われる半面、俺の気持ちも筒抜けになってしまう。けどそのお陰で胸中を恥ずかしがって明かさずとも、


「キャ~翔って、私に会えて本当に嬉しいのね~~」


 と母さんにしこたま喜んでもらえるのも事実。準創像界に慣れてくれば筒抜けを回避できるそうだけど、暫くはこのままでいいかなと思っている。もちろん意識投射を一日も早く習得するに、こしたことは無いけどな!

 ちなみに今日もこうして迎えに来てもらったが、オリュンポス山へは俺一人で向かうことになっている。超山脈への道のりを迷うことはさすがに無いし、超山脈に着きさえすればオリュンポス山を難なく見つけられるからだ。先月中旬の昼食会でそう告げたときは「一緒に行こうよ翔のケチ~」と母さんは文句を垂れていたけど、


「そんなこと言ってると大師様って呼びますよ」

「ヒエエッ、ごめんなさい~~」


 てな感じに即解決した。う~むでもこの伝家の宝刀を使うのは、数年に一度くらいにしておかないとな。

 話が逸れたので元に戻そう。

 母さんの「ちょっぴり授業できる」発言に深遠な意図を感じた俺は具現化した椅子に腰を下ろし、背筋を伸ばした。それを受け母さんも先生の顔になり、授業を始める。


「今日は、準創像界と創像界の違いを取り上げます。私達が今いる準創像界までは、ネガティブもどきを持ち込めます。しかし創像界以降には、いかなるネガティブも持ち込めません。地球のネットの検索時に見つけた例を、挙げましょう」


 母さんが挙げたのは日本のスピ界隈ではけっこう有名な、臨死体験の話だった。臨死体験中は肉体との繋がりがほぼ断たれるため、非常に善良な人がその状態になると、稀に四次元と五次元が解放されるという。時間を司る五次元が解放されると過去や未来へ行けるが、臨死体験中の偶然の出来事では、十全な時間移動はやはり無理らしい。現時点の成長段階を超える時間移動や次元移動をしようとすると、本人も気づかぬ間に五次元から準四次元へ、つまり準創像界へ移動し、『その人が無意識に想像したことが創造された光景』を見てしまうのだそうだ。


「その人が無意識に想像したことが創造された光景を、本人も気づかぬ内に見てしまう。私はネットに、その体験談を多数見つけました。イエスの磔刑および復活、ノアの箱舟、月の誕生、宇宙の創造等は、臨死体験中に偶然手に入れた五次元解放では見ることができません。けれどもそれを、本人が気づくのは極めて困難と言えます。本人は『これが真実』と、信じ切っていますからね。しかしたとえ信じ切っていようと、現時点の成長段階を超える移動は決してできない。なぜならそれは、ネガティブの一種だからです」


 母さんによるとそれは、法的に認められた免許に譬えると理解しやすいらしい。一定以上に成熟した法治国家には、必要不可欠な知識と技術を習得した者のみに認められる免許がある。その手順を踏んでいない者が、免許を所持しているかのように振舞うと、法的処罰の対象になる。これが正しいことは容易く理解できるだろう。そして臨死体験中の時間移動にも、それがゆるく適用される。『ゆるく』としたのは、犯罪者として牢獄に入れられたりはしないからだね。しかし牢獄へは行かずとも、現時点の成長段階を超えようとすると、本人も気づかぬ内に弾かれることは免れないそうだ。

 ただこの宇宙内では弾かれるのみだが宇宙の障壁を超えようとしたり、一つ上の宇宙に行こうとすると、牢獄に閉じ込められるという。「だから絶対ダメですよ」「ヒエエ、絶対しません~」とのやり取りを経て、母さんは母親の顔に戻った。


「翔、理解できましたか?」

「はい、理解できました」


 ふにゃっと笑い、母さんは俺の頭を両手で撫でる。けどそれは長く続かず、悲しげな表情で俺の髪をくことへ替わった。勉強会に出席する俺の髪を、整えてくれているのだ。頭から手が離れるのを待って立ち上がり、机と椅子を消す。そして、


「母さん、行ってきます」

「行ってらっしゃい、気を付けてね」


 そう挨拶を交わし、赴くべき世界へ俺は旅立っていった。


 ――――――


 孤児院の100メートル上空へ移動し、オリュンポス山を目指す。気を付けてと声を掛けられたけど、あれが母親というものなのだろう。

 鈴姉さんに前回教えてもらった目印を思い出しつつ、オリュンポス山と孤児院を結ぶルートをさかのぼっていく。目印の上空で停止し振り返り、前回の帰路で見た景色と合致しているかを一つ一つ確認していく。幸い一度も間違えず、超山脈を臨む場所に辿り着いた。母さんとここまで一緒に飛んで来たら楽しかったはずだけど、それを選んだら俺はこの数分の学びを得られなかった。「可愛い子には旅をさせよ、ってことなんだろうな」 そう独りごち、超山脈の中央を俺は目指した。

 オリュンポス山北麓の建物の屋上に降り立った。ここからは、己の足で歩いて行かねばならない。意識投射中ゆえに寒さや風は感じずとも、屋上に掲げられた緑色の旗は、今日も激しくたなびいていた。

 意識投射中にもかかわらず自動開閉する観音開きの扉を潜り、建物内に入る。迷うことなく講堂の扉の前に立ったとき、ふと疑問がよぎった。そういえば講堂の下の階は、どうなっているのかな? ま、そのうち判るだろう。疑問を頭から追い出し、俺は講堂へ足を踏み入れた。

 それから講義開始までお姉さま達に拘束され、少々困ってしまった。いや拘束や困ったというのはもちろん言葉の綾だけど、俺の自由時間も気にかけて欲しいのですよお姉様。

 しかしお姉さま達からこの星の実情を教えてもらうにつれ、印象が変わっていった。子供達がたった3歳で戦闘訓練を始めるせいで、アトランティス星の多くの女性達は、子供を可愛がりたいという想いを満たせていないらしい。よって子供が誕生すると近所の女性達がどっと押し寄せて来てその子を可愛がり、可愛がるから情が芽生えて夏と冬の帰省でも可愛がり、そうこうする内その子が大人になって子供が生まれると「孫ができた!」的な気持ちが自然と湧いてきて、可愛がりまくるそうなのである。それって母親は大変なんじゃないかと危惧したとおり、押し寄せて来るおばちゃん達(見た目はお姉さま達)に辟易することもあるという。だが育児疲れや育児ノイローゼは皆無だし、夕方になったらお暇せねばならないという規則のお陰で親子水入らずの時間も楽しめるし、何より自分もご近所さんに可愛がられまくった記憶があるため、まあいいかと思うようになるとの事だった。第一自分も子供が夏と冬しか帰省しないようになると、おばちゃん達の仲間入りを嬉々としてするそうだしね。という話を聴いたのち、


「だから翔君がいると」「ついつい構いたくなっちゃうのよ」「ひ孫弟子候補として節度は守るから」「どうか大目に見てくれないかな」「「「「お願いします!」」」」


 と切実に頼まれたら、首を縦に振るしかない俺なのだった。あはは・・・・

 幸い拘束時間は十分ちょいで終わり、鈴姉さんが講堂に入ってきた。よくよく考えたら意識体なのでトイレは不要だし、仕組みは判らないけど記憶力がすこぶる良くてノート等を用意しなくてもいいから、準備時間はいらないのかもしれないな。

 などと考えているうち講義が始まり、そして始まって1分も経たぬ間に、俺は鈴姉さんの一言一句に集中力のすべてを注いでいた。なぜなら講義冒頭で鈴姉さんは、こう断言したからだ。


「創造主の分身である本体を持たぬ種族でも、恒星間飛行が可能な科学文明を構築可能だ。科学文明の優劣と本体の有無に、関係は無いのだよ」

「現時点の成長段階を超える時間移動や次元移動をしようとすると、本人も気づかぬ間に五次元から準四次元へ移動し、『その人が無意識に想像したことが創造された光景』を見てしまうのだそうだ」


酷ですが、上記を知らぬ人達による体験談がスピ界には多々あります。


注意されますように<(_ _)>

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