表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
110/538

九章 その後のアレコレ、1

 翌日の午前5時。

 いつもの時間にいつもどおり、目が覚めた。普段となんら変わらぬ気もするけど、油断は禁物。布団を被ったまま心身の隅々へ意識を巡らせ、睡眠不足の有無を探ってゆく。睡眠不足もなければ体調不良もないと判断し、上体を起こし体操服を手に取った。だが着替えの最中、もうちょっと寝ていたかったと体がほんの少し駄々をこねていることに、ようやく気づけた。しかし同時に、挑戦心がメラメラ湧いてきたことから、意識投射の招く寝不足の弊害は肉体にのみ現れていると考えて良いみたいだ。「じゃあ次は、足りない睡眠時間を割り出すぞ!」 心の中でそう気合を入れ、俺は部屋を後にした。

 5時に起床し、輝力増加訓練を体育館で始めるのが5時8分。着替えとトイレに要する時間を除くと、移動に割ける時間は3分といったところだ。その3分間で足りない睡眠時間を割り出せたらいいなあ、なんてお気楽に考えていたら、あっさり割り出せてしまった。足りないのは、おそらく30分。夜9時半に寝たときの体の重さを、移動中に感じたんだね。


「じゃあ次は、失われた30分を取り戻す方法を見つけるぞ!」 


 心の中ではなく声に出して気合を入れ、輝力増加訓練および輝力操作訓練を始めた24分後、取り戻す方法をこれまたあっさり見つけてしまった。なんと輝力増加訓練と輝力操作訓練には、睡眠不足を解消する効果もあったのである。

 その後よくよく考えたら、二つの訓練に睡眠不足解消効果があることを俺は母さんから既に教えてもらっていた。「肉体でいても寝なくていいとか?」と尋ねた俺に、「瞑想を1時間すれば23時間を快適にすごせるのよ」と母さんは答えていたのだ。輝力訓練と瞑想は異なるけど、輝力増加訓練で増加させた輝力を、輝力操作訓練で体中に行き渡らせれば、細胞が活性化するのは実体験で確認している。よって活性化のお陰で前日の疲労が消え失せても、不思議は何もなかったんだね。大聖者なのだから当然と言えばそれまでだけど、母さんってホント凄いよな!

 とはいえ、短気は損気。睡眠不足の解消方法を俺は発見したにすぎず、実際に解消できたかは、まだ判明していないと考えるべきなのである。かくして、


「ならば次は普段どおりの訓練をして、睡眠不足を解消できたか否かを検証するぞ!」


 とやる気を燃え上がらせた俺は訓練場へ駆けて行き、12分間の軽業訓練に励んだのだった。


 ――――――

 

 結論を言うと、睡眠不足は綺麗さっぱり消え失せていた。計8時間の戦闘訓練にも計2時間の勉強にも、支障を微塵も感じなかったのである。美雪にも検証を頼み訓練と勉強を調査してもらったところ、「私も翔に同意」との言葉をもらうことが出来た。したがってその検証結果を母さんには美雪経由で、鈴姉さんには俺が直接伝えたのだけど、あっけなく却下されてしまった。しかも二人の言葉が、


「「たった1日では早計、最低1週間は検証しなさい」」


 のように一言一句違わなかったことを、俺は強烈に恥じた。美雪によると俺は昨夜、意識投射を3時間していたという。4月1日の人生初の意識投射はたった1時間のみ、かつ普段より30分早く寝ていたため翌日に寝不足等は一切なかったが、今回は僅かとはいえ寝不足の弊害を感じた。意識投射の弊害が体に現れたのはそれこそ人生初なのだから、たった1日の検証で「全然平気アハハ~」と結論したのは、早計以外のなにものでもなかったのである。美雪も同じ考えだったらしく明らかに落ち込んでいたので俺達は励まし合い、検証を明日以降も続けることを決めたのだった。


 ――――――


 そして迎えた、5月7日。

 鈴姉さんの講義に初参加した、ちょうど1週間後の夜。

 結論を言うと、俺は検証に失敗した。失敗の原因は、輝力増加訓練と輝力操作訓練に励み過ぎたこと。正確な検証のためには生活の全てを従来と同等にせねばならなかったのに、二つの訓練に寝不足解消効果があることを知った俺は嬉しくてならず、それを張り切ってした。するといつも以上に元気になったので戦闘訓練と勉強も張り切りまくり、通常ならそれは高評価に値することだったのだけど、検証期間だったとくれば話は違ってくる。


「姉ちゃん、3時間の意識投射の弊害は輝力増加訓練と輝力操作訓練で相殺可能だって、判明したね!」「う~んあのね、翔がとても楽しげに6日間を過ごしていたから言えなかったんだけど」「ん? 何かあったっけ姉ちゃん」「正しい検証のためには、普段どおりの暮らしをすべきだったのに、翔はいつも以上に張り切って6日間を過ごしてしまったの」「え? あっっ!」「うん、そう。同等の日々ではなかったから、厳密には検証失敗になるわね」「ヒエエ、やっちまった~~」


 てな具合になったのである。ただ美雪によると厳密な検証は叶わなかったが、「普段以上に元気な6日間だったこと」は間違いないため、輝力増加訓練と輝力操作訓練に注力すれば鈴姉さんの講義に参加しても問題無しと母さんは判断したそうだ。俺がガッツポーズをしたのは言うまでもない。美雪もノリノリでハイタッチしてくれたので嬉しくてニコニコしていたら、それは美雪の次の言葉で極上のニコニコに変わった。なんと母さんが、23時間を快適活発にすごすための1時間瞑想の要諦を、一つだけ教えてくれたそうなのである。さっき以上のガッツポーズを決め、美雪がそれを話してくれるのを俺は極上のニコニコ顔で待っていた。だが十秒後、俺は頭を抱えていた。なぜなら、


「要諦の一つは、呼吸の長さ。母さんは1時間の瞑想中、呼吸を1回しかしないそうよ」


 との事だったからだ。白状すると、そんなの100年経っても無理としか思えない。呼吸法に多大な才能を有する舞ちゃんならいざ知らず、呼吸スキルが未だ基礎中級の俺には、到底不可能としか思えなかったのである。かくいう舞ちゃんの呼吸スキルの等級は基礎級を卒業した、小級とのこと。左右の鼻腔の任意開閉をたった半年で習得した舞ちゃんの才能は、マジ半端なかったんだね。

 そうそうスキルといえば、4月1日の順位試験中、俺は新スキルを二つ習得していた。輝力工芸スキルと、俊足スキルがその二つだ。美雪によると、この二つの習得は密接に関係していたという。輝力工芸スキルは新幹線の先頭車両の流線型を正確に模し、かつそれを自分の前後に設置したことが認められたらしい。そしてそれを成した上で速く走ったことが、俊足スキル所持者として認められた理由なのだそうだ。輝力を硬化させ防風などの用途に使うだけなら工芸ではなく、造形が充てられるらしい。ということは自分では気づかなかっただけで、輝力造形スキルを俺は以前から持っていたんだろうな。

 ちなみに新幹線の流線型は、三日と経たず手放した。空気抵抗について学んだところ、前後の形状を変えた方が空気抵抗をより少なくできると知ったからだ。新幹線は大阪に着いたら次は東京へ帰るように、往復させて用いるのが前提なため先頭車両と後尾車両の形状を同じにしているが、空気抵抗軽減を主目的にするなら形状を変えるべきだったのである。音速()()なら前方の先端は丸まった球形にし、後方の先端は尖った円錐形にして、かつ後方は前方より長くするのが最良との事だった。しかし音速未満と限定したように音速()()になると、最良の形状はまたもや変わる。音速を超えると前方も円錐形がベストになり、超音速戦闘機はそれを見越して先端を最初から尖らせているのだそうだ。そしてこの「音速未満と音速以上で最良が変わる」ということに、男のロマンが炸裂した。工芸スキルを駆使して音速未満と音速以上で形状を変えられないだろうか、しかも走行中に、と炸裂したんだね。こっちの方が何倍も大変なのは、挑戦する前から解りきっている。だが明言しよう。可変流線形というロマンのかたまりを見逃すなど、男には到底不可能なのだと。フハハハハ~~!!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ