表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ビブリオテイカ/零葉の錬金術師  作者: 浦早那岐
ディケル・ソロウ2
96/111

裏切り

オレは図書館を出て聖堂の奥を目指した。

「ダーシアンは礼拝堂の奥だ。聖歌隊の……」騎士がオレの背中に呼びかける。

 オレは振り向かず、右手を上げて応える。

 予想した通りとはいえ、オレは騎士に確認することもできた。なぜそれをしなかったのか。やはりオレは気が急いている。とても冷静とは言い難いようだ。

 己を戒め、冷静にならなければ。


 図書館から礼拝堂は目と鼻の先だ。礼拝堂にいた修道服の男がオレを見て驚いた顔をする。その表情からダーシアンの仲間ではないと、オレは断定する。検証している暇はない。


 迷っている時間はない。ダーシアン、それにアンメルルと相対したときに迷いがあれば、それは致命的隙になる。

 オレは息を整え、礼拝堂に入る。そして右手奥を見やる。祭壇に隠れてはいるが、そこに聖歌隊のための場所があるはずだ。気配を探るが、何も感じ取れない。

 すでに決着がついたのか?


 部屋に飛び込むとまず始めに重なり合う白髪の頭が二つ見えた。双子の姉妹が対峙している。ダーシアンは聖歌隊用の小さな木の腰掛けを背にして一番奥にいる。それを庇うのがアンメルルで、オレに背中を向けているのがブランペルラという構図だ。


 オレは視界のなかにリベルを捜したが見当たらない。アンメルルとダーシアンを警戒しつつ、オレは目の前にいるブランペルラに声をかけようとする。が、その刹那、オレは反射的に後退っている。後ろに下がってしまってから、困惑しながらその理由を探した。


 答えはすぐに出た。しかし理屈が合わない。オレはアンメルルの表情のわずかな動きに反応したのだが、なぜアイツなんだ?アンメルルのどんな表情でオレが身を引くことになるというんだ?


 アンメルルがするはずのない顔をしたから。

 アンメルルに目を凝らすと、その背後でダーシアンが動き、オレの目は反射的にそれを追う。

 それと同時にブランペルラが振り返る。


「毒針だ!」

 オレは叫んだ。アンメルルに視線を合わせて。

 いや、アンメルルの双子の妹もしくは姉である、ブランペルラに向かって。


 オレは大きく後ろに跳んだ。刃が胸元を掠める。

 ブランペルラは?ダーシアンの攻撃を避けられたのか?


 どういう理由でかはわからないが、アンメルルがダーシアンの命を狙ったということだろうか。それをブランペルラが防いだ。しかしいま、ダーシアンはブランペルラを攻撃した。ということは、そういう芝居をうったということか。それともオレが加わることで、状況が一変したのだろうか。


 オレは懐から抜き出した短刀を構えながら、アンメルルの背後の様子を窺った。

「大丈夫か⁈おい、ブランペルラ!」

「……心配には及ばないよ」

 ブランペルラの返答にオレは胸を撫で下ろす。

「いったいどういう状況なんだ」オレはアンメルルを警戒しつつ声を張る。

「アタシが答えてやるよ」アンメルルが半身のままオレに顔を向けて笑う。「すべては教会さまのご意向さ」

「オレが邪魔になったらしい」ダーシアンが言う。

「そういう話でブランペルラを騙そうってことだろ。残念だったな、もうネタは破れたぞ」

 ダーシアンは顔を歪める。「確かにタイミングを間違えたな。おまえにエルメリの相手をしてもらって、オレはおいとましようと思ったんだがね」

「メルルがコイツを殺そうとしていたのは本当だと思うよ」ブランペルラが言う。「おそらくだけどね、このタイミングでリベルの隠し場所がわかったからだろうさ。すんでのところで割って入れたよ」

「まさにそういうことだよ」ダーシアンが我が意を得たりといった調子で言う。「ねえ、ボクは投降するよ、保護してもらえないかな」

「都合のいいこと言ってんじゃねえぞ」オレは苦々しい思いで吐き捨てる。


「そうさ、それより三人でそいつを縛り上げようぜ。それから尋問でもなんでもやりゃあいいじゃないか。最後に引き渡してくれれば問題ない」アンメルルがオレに笑いかける。


「おまえを叩きのめしてあの男に恩を売ってもいいと思うがな」オレはアンメルルの目を見て言う。

「そうだね。それもアリだね。でも、こうすると一石二鳥、いや三鳥だね」ブランペルラがそう言った瞬間、低くうめく声が聞こえた。

「何しやがった!」アンメルルが背後を振り返った。

 とっさに身体が動き、気づいたときには、オレはアンメルルの側頭部に蹴りを入れていた。

 しかしアンメルルは身体をひねり、直撃は避けられてしまった。それでも膝をつかせるのには十分だった。


「……こいつ!」ダーシアンの声がわななく。「ボクを刺しやがったッ」

「こうすればおとなしくなるだろう?」ブランペルラは平然と言う。

「解毒剤がなかったらどうするつもりなんだ?」

「持ってないなんてこと、あるはずないじゃないか。そうだろう?」ブランペルラは肩をすくめた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ