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ビブリオテイカ/零葉の錬金術師  作者: 浦早那岐
紫乃宮エト 2
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お見舞い

 車道を挟んだ山側に、校舎と睨み合うよう向かい合っている建物は、寮というより郊外のワンルームマンションという風情。それが六棟。ビブリオテイカに籍を置く生徒の大半が寮暮らしで、中高一貫校で六学年、一学年十人強。学年毎に一棟あてがわれているらしい。

 自分が特進クラスにいるので、アンブリストやリブラリアンの候補生を集めたのが特進クラスなのだろうとエトは思っていたけれど、事実はそうではない。これは亜生の受け売りだが、知性と学力は常に比例するわけではないし、また勉学が修行の妨げになるからと特進クラスを辞退した者も多いそうだ。そう言う亜生も普通科である。が、成績はエトよりも優秀だ。

 普通科の一部の生徒が、特進クラスと同等かそれ以上に成績優秀であるのに転科しないことを不思議に思う生徒も少なくない。しかし学業成績向上のみを鼓舞することのない校風もあって、特に理由を追及することもない。

 この学校の実際を知っているのはビブリオテイカ所属の生徒だけである。さすがはアンブリスト、リブラリアン候補生だけあって、秘密は、その存在すら外部には微塵も認識されていない(はずだ)。

 ビブリオテイカ関係者以外の全校生徒と保護者その他、それにほとんどの国民が、中高一貫の名門校には珍しい共学である、また学業のみを追求する校風でもない程度の認識しか持っていない。

 そもそも何か隠れた目的があるのではなどという疑念が脳裏に浮かぶことすらない。それはそうだろう、ビブリオテイカの存在が知られていないのだから。とまあ、そういう感じだと、その辺のことは吟から聞いた。

 学校のホームページも見てみた。ビブリオテイカに身を置く者としては、確かに爽やかすぎて首筋がむず痒くなる。そんなに青春してないって。

 確かに昨日まではエトもそう思っていたのだが……


 結局朝礼に間に合わなかったエトは、担任が教室を出る頃を見計らって階段を上がった。いつ環佳の怒声が飛んでくるかと恐る恐る引戸を開けるが、席についても一向に声がしない。環佳の机を見ると鞄が掛かっておらず、信じがたいことに欠席しているらしい。

 隣のクラスを覗くと亜生は友達に囲まれて歓談中。チラと目が合う。

 すぐに亜生が説明に来てくれると思ったが、無視されたまま始業のチャイムが鳴り、その状態が昼休みまで続いた。亜生はなぜか時々そっけなくなることがある。仕方がないのでエトは自分から亜生に近づいた。

「おはよう、アオ」エトは肩でクラスメイトを押し退けるようにして亜生の前に立った。「ワカは?」

「あ、エト。おはようって、もうお昼だよ」亜生はやっといつもの笑みを浮かべた。「ワカはね、今日休みだよ。あー、何か約束あった?」

「ううん。あいついないと調子狂うってだけ。何?かぜ?」

「んー、そうそう、そんな感じ」

「ちょっと、もういいでしょ。邪魔なんだけど」押し退けられたクラスメイトがエトを睨む。

「はいはい、お邪魔しました」エトは踵を返すも振り返り、「ねえ亜生、お見舞いって受け付けてる?」

 亜生はキョトンとしてエトを見る。すぐに心底驚いたように目を見張って声を上げた。「エトが環佳のお見舞い?大変、エトまでおかしくなっちゃった」

 冗談めかして言うと普段通りに微笑む。「心配してくれてありがとね。でもウチって外部の人、入れないんだぁ、ゴメンね。気持ちは伝えとくよ」


 午後の授業中、エトはずっと心ここにあらずといった体で、それを見かねたわけではないのだろうが、Pが声を掛ける。

『どうした、ずいぶんと難しい顔をしているようだが』

「うお」

 最近はPが出てくる予兆とでもいうものを感じるようになっていたが、一応驚いた風を装う。「気になるのよね。あたしまでおかしくなったって亜生の言い方。一般人ならともかく、アンブリスト修習生がね……」

『言葉は事実なり、ということか?』

「そう。あれだとワカもおかしくなってるってことになる」

 エトは小さく舌を鳴らす。「サド神父との約束もあるし、リベル・Dを読みたいんだけど……」

『わたしなら構わんぞ。リベルは逃げやせんからな』

「そうなの?意外。だったら放課後ワカアオの家に行こう。だいたいの場所は知ってるし」


 放課後、亜生に呼び止められたエトは改めて念を押される。「ワカが恋しいだろうけど我慢してね。絶対ウチに来たりしないでね」

「ハイハーイ。お大事にー」

 手を振りながらエトが浮かべた物わかりの良い笑みは、亜生の背が遠去かるにつれて悪戯っ子のそれにとって代わる。「イヤよイヤよも好きのうちってね。念押しが過ぎるとそれはもう誘ってるようなもんでしょ」

『本当に風邪で寝ているだけかもしれんぞ』

「だったらお見舞いを断る理由なくない?」

『人それぞれ家の事情というものがあろう』

「そうだろうね。でも初めのうちはしつこくお誘いいただいたんだよ?ウチで十八禁朗読会しようとか、添い寝我慢大会しようとかさ」

『なるほど、それはいろいろと興味深い』

「アオの態度が?それとも」

『だから、いろいろだよ』

「あ、そう」

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