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ビブリオテイカ/零葉の錬金術師  作者: 浦早那岐
レッティアーノ・ルーヴ
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三人一体

「よし、おまえら、気は整ったか?」

 私は自分に言い聞かせるように言った。二人とも当然といったふうに頷く。

 私は扉の隙間に見える閂に指を置き、その存在を感じ取り、手の精神的範囲を延ばしてその意味に触れる。


 私の手が閂に入り込み、境界を侵食し、閂という存在を私のなかに取り込んで、閂という存在の枠いっぱいまで内側から満たしていく感覚を意識によって作り続ける。


 閂がすべて自分になったところで、金型から鋳物を剥ぎ取るように、取り込んだ全体を自分の手として引き抜く。急いてはならないが、慎重すぎても仕損じる。意識がイメージする通りに手を動かす。


 だが実際には手は動いていない。動いているのは、イメージした手だ。

 その想像上の手が完全に引き抜かれたとき、閂は意味を失い、曖昧な状態の影になっているのだ。


 閂という存在から引き剥がすのは、閂のイメージではない。物質を閂という構造足らしめている理屈、つまり閂を存在させている物質と意味のうち、意味の方を物質から剥がし取るのだ。

 物質と意味、そのどちらかが欠ければーーいや、二つが分離したらと言うべきかーー存在は存在としてこの世界に確定しない。

 

 いま、私の意思は閂を存在たらしめている二つのものを分離したと理解する。

 私が触れているものは、いま暗い影になって空間に認識の穴を空けている。


 私は閂から手を離した。

 閂は存在不確かな影のままだ。

 うまくいったようだ。私はホッと息をつき、ブランペルラに向かって頷く。


「了解だ、兄さま」ブランペルラは軽く肩を回すと、金ノコを影と化した閂にあてがい、一気に引き下ろした。

 ノコギリの刃が影に埋もれ、また姿を現した。おそらくそのはずだ。暗すぎて、いや正直に言おう、速すぎて目で追えない。こいつの剣撃もそうだ。その動き出しと同時に反応しても防げない。


「ディケル」

 私が言うが早いか、ディケルも一瞬で扉を復元した。


 私は身体ごと扉を押し込んだ。

 身体が吸い込まれるように屋内に入った。エントランスと呼ぶには狭い空間は明かりに乏しく、静かだ。


 右手に人ひとり通るのがやっとという幅の通路がある。狭い通路は外壁沿いを一周するため長く、まるで地下墳墓に続いているかのように、いつ来ても薄寒い。極力気配を殺して進む私に、ディケルとブランペルラが続く。


 回廊の角に必要最低限の火が灯してある。消されていないということは、エルメリらがここを通ったときには、まだ我々に気づいていなかったとも考えられる。火を消して罠を張る必要性を感じなかったということだ。

 さすがに今は、邪魔者の存在に気づいているだろうが。


「で、頼んでおいた件についてはどうだったんだ。お偉方は関わっているのか」暗闇に近い通路の先を見据えながら、私はブランペルラに低く呟く。

「いいや、お偉方はこの件に関わっちゃいない」


 それは重畳。私は頷いた。しかしそれなら誰が金を払った?

 お偉いさんが関わっていなければ、そもそもガセかも知れないと思っていたのだが、護衛がやられているのだ、計画は実在する。


「それで許可は?出たのか?」

「そうさね、わたしの出番ってことさ」

「そうか」

 つまりお偉方はエルメリのヤツを切り捨てる絶好の機会と考えたわけだ。「しかしまずは生け捕りだ。訊きたいことがあるからな」


「相手はエルメリだよ?」ブランペルラは眉根を寄せる。「弱いヤツは加減しても勝手に死んじまうんだよ。兄さま、ヤツが少しは腕を上げているよう祈っとくれ」

「おまえのその性格、こういうときは本当に心強いよ。あんな護衛なんかよりな」

 私は気絶している男たちを思い出し、同時に嫌な想像が再度頭をよぎる。「まさかとは思うが……おまえがやったんじゃないよな」

「もちろん違うさ。あの面倒な犬っころたちだよ。それにしてもアイツら、もう少し時間を稼げるかと思ったけれど……追いつく間もなくやられたよ」

「何人いる?」

「四人」

 多くはない。あとは引き入れた側だが……おそらく一人だろう。それ以上いる必要性がない。むしろ怪しまれる可能性が高くなるだけだ。

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