因縁
エルメリ・ビアン。元エフェクタの男。齢十六にしてエフェクタの肩書きを得るも、二年を経ずして剥奪された。
理由はその所業。関係のない人間を巻き込みすぎた。いや、積極的に利用して使い捨てていたのだ。
仕事においていかに優秀であろうとも、さすがに教会の目に余った。教会の裏の仕事を秘密裏に実行するのがエフェクタであるとしても、そこに神聖な意味合いを持たせることを許されたーーといっても神にではなく教会の人間によってだがーー立場だということをわかっていなかった。
エルメリが解任された際、エフェクタの証である首飾りの返還に立ち会ったのが我が妹弟子だった。返還といっても儀式などではなく、単純に武力を持って奪い取ったのだ。このことは雪ぎ難い屈辱をエルメリに与えたに違いなく、妹弟子は厄介な敵を持つことになってしまった。当の妹弟子はまるで気にしていないようだったが。
実際に会ったことはないが、実力は確かなものだと聞いている。つまり武力として高度な体術、また暗器その他の扱いに長けていて、それを相手が誰であれ躊躇なく発揮できる。
いまは非公式に汚れ仕事を引き受けているようだ。結局のところ殺しが好きなだけの狂人なのだろう。
「それとな」と、私のアンブリスト仲間は続けた。「最近エルメリの仲間が足繁く通っている土地がある。どこだと思う」
「さあな、わかるはずがない」
「いいや、わかるさ。その場所ってのが、オレがおまえに話しておこうと思った一番の理由だからだよ」
「ということは、オレに馴染みのある場所ってことか」私は半信半疑で言った。「まさかオレの郷、バルディリ辺境伯領か?」
相手は黙って私の顔を見つめている。
「本当か?」私は驚いて言った。
彼は上体を引いて椅子の背にもたれた。「しばらく前から、あの土地はアンブリストの関心を集めているからな」
「プルディエール・デルフトか」私は唸った。
「彼女はあるところでは崇拝され、別のところでは異端とされている。そろそろ邪魔者を排除しようと考える輩が出てきても不思議はないだろうさ。最近は万全じゃないという噂だしな」
「なるほどな」私は上の空で答えた。
私はいますぐ起こすべき行動について考え始めていた。
ただ、エルメリの受けた依頼が、現在バルディリ辺境伯領に滞在中の唯一のアンブリスト、プルディエール嬢にかかわるものと決まったわけではない。
ビブリオテイカ分室の蔵書を狙っている可能性もある。ただ、あそこにはそれほど貴重なリベルや背布はなかったはずだ。それは写本も同じ。
いずれにせよプルディエール嬢には我が弟子ラグランティーヌを介して警告を発していた方がいいだろう。
私は短い暗号文をしたため、弟子に向けて何代目かになる鳩を飛ばした。
計画はすぐにでも実行されるかもしれない。その阻止に向けてすぐにでも動くべきではある。しかし生臭とはいえ、私も教会に席を持つ身だ。問題はこの計画が誰のどういった趣旨のものかということになる。お偉方の決定ならば、下手に動けない。
しかし私の耳に入っていないということは、少なくとも我が派閥の意向ではないと信じたい。
かといって表立って阻止に回るのはどうか。派閥間にも複雑な関係があって、力の均衡が保たれている。闘争を引き起こすようなことはしたくない。
その均衡を崩すべくプルディエール嬢の背皮を狙っている場合、我が派閥のお偉方ならば、うまく横から掠め取るべしとのたまうだろう。
完全阻止というなら、ビブリオテイカに要請して、エフェクタを二名ほど派遣してもらえば済む話ではある。しかしそれでは漁夫の利を得るには邪魔になる。
そもそも私の話を信じてエフェクタを派遣するとは考えにくい。エフェクタは少なく、すでに重要な任についているのだから。
フィレンツェへのビブリオテイカで館長のブルーノ・ティスコ=ダルディに面会し、ディケルを連れ出す許可をもらう道すがら、私は我が師のもとを訪ねた。エルメリの計画について何か知らないか訊ねるためだが、そこで偶然にも妹弟子に再会した。
いつも杳として行方の知れないヤツだが、このタイミングで我が師を訪問しているとはなんたる僥倖。いい流れに乗っている気がする。
私は妹弟子にエルメリの雇い主についての情報収集を頼んだ。いろいろと問題があるヤツだが、腐ってもエフェクタ、とびきり優秀には違いない。すぐに情報を掴んでくれるだろう。
エルメリと会わせることになるため、多少なりとも気が引けたが、当人は歯牙にも欠けていない様子だった。やはり妹弟子相手にその程度のことを気にした私がバカだったということか。




