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ビブリオテイカ/零葉の錬金術師  作者: 浦早那岐
日和田潤
35/111

非科学犯罪対策係

 医者の間違いじゃないのかとその場の全員が思うような出立ちだが、廊下には制服警官が二人待機している。

「いや、これはご主人、お忙しいところ失礼します。私は県警、非科学犯罪対策係の赤城と申します」

 女は白衣のポケットに両手を突っ込んだまま言う。「用があるのはあなたではなく、この男ですのでお構いなく。すぐ退散しますよ」

 白衣の女は古書商を顎で示す。

「私がいったい何をしたと言うんだ」

「詐欺ですね」

「ほら、そこのそれぇ、証拠はあがってんぞー」

 赤城の背後から黒いジャケットにパンツという出で立ちの小柄な女がひょっこりと姿を現し、鑑定対象を指差す。

 古書商にとっては青天の霹靂だったのだろう。血の気が引いた顔で訴える。

「鑑定をしたのはシェンランだ、責任はシェンランにある。そうだろう。それに贋作なら最終的に復元して証明しなければ、法的には……」

「その辺については、後ほど聞かせていただきますよ」赤城は取り付く島もない様子で言う。

「とりまご同行しくよろでーす」緊張感を欠く口調で、もう一方が言う。

「断る!任意なのだろう、断固として……」

 古書商は依頼人を振り返る。「武井さま、今回は誠に申し訳ございませんでした。シェンランの方に再度確認いたしますので、一度持ち帰っても」

 言いながら古書商は贋作本に手を伸ばしたが、ジャケットの女に腕を押さえられた。

「ツッ、このメスゴリラめ」顔をしかめた古書商が小声で吐き捨てる。

「聞こえてるぞー、いしかわー」

「それは置いていってもらいますよ」赤城が言う。

「私はイシカワじゃない。誤認逮捕だ。だいたいおまえたち、本当に警察官なのか。手帳も見せてもらってないぞ」

「そうでしたね。さくら、見せてあげて」

「はいはーい、これが目に入らぬかぁ」さくらと呼ばれたジャケットの女が黒い手帳を掲げる。「そんな羨ましそうに見るなよー、似たようなもんならネットで売ってるぞー」

「それがそうじゃないのか」古書商が憎々しげに言う。

「まあ、前に無くしたときは買ったけどさあ、これじゃないぞ。見つかったから」

「呆れた警官だな」黙って見ていた依頼人が嘆息して言う。「それに僕はわかっていて買うんだから詐欺じゃない。だがまあトクサくん、いまは大人しく従うがいいよ。後で迎えを出すから安心したまえ」

 依頼人に言われ、古書商は大人しく制服警官に同道して退場した。


 残された日和田は、幕間の寸劇、それも茶番劇を観せられた気分で、しばし呆然としていたが、依頼人はいつの間にか贋作の本を掴んでいて、ためすすがめつ眺めている。

 私服警官の二人は退去する気配がなく、赤城は癖毛の奥から依頼人の持つ本を見つめている。

「それにしても職務中の警察官にしてはチャラいですねぇ」

 ヒソクのつぶやきに、赤城が即座に反応した。

「違います。チャラいのではなくアホなのですよ、なあ、アホさくら」

「ひっどー、あたしのどの辺がアホなわけ?だいたい、アホ言うヤツがアホなんですぅ」

 アホさくらと呼ばれた私服が赤城を両手で指差す。確かにこれは度しがたいと日和田は思う。なぜ警察官でいられる?

 赤城は鼻で笑う。「それはバカの場合だよ」

「え?あ、ホントだ。ああー、じゃあ、あたしアホのままじゃん!」

 頭を抱える私服を横目に赤城が嘆息する。「おわかりいただけましたか?決してふざけているとか職務怠慢だとかいうわけではないのです。ただただアホなだけなのです。呆れるということには同意しますが。ただ、アホでも他に代えがたい技能を持っておりまして……」

「いずれにせよ問題だが、私にはどうでもいいことだ。そういう部署なのだろう?」

 赤城はわずかに肩をすくめただけで何も言わない。

 依頼人の視線は鑑定対象だった贋作に向けられている。「ただ、これの所有権は私にある。売買が成立したのでね」

「それは結構。しかし証拠品として押さえさせます」

「その必要はないだろう。詐欺などなかったんだから」

「犯罪はれっきとして存在していますよ。そのリベルは贋作です。この場で復元してみますか?」

「モナリザの模写を模写だと言って売っても詐欺かね」

「詐欺ではないでしょうね……

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