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ビブリオテイカ/零葉の錬金術師  作者: 浦早那岐
日和田潤
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仕切直し

 本来リベル・リーダーとは、リベルにアクセスする能力を持つに至っていない人間がリベルを読むために、長い年月をかけて開発されたものであり、背皮持ちには必要のないものだ。しかし背皮を移植した場合の負荷や副作用が、人権という考え方が世に定着するにつれ問題視されるようになったという事情と、近年の科学技術の進歩とが相まって、リーダーの急速な改良を促した。

 開発が進み、性能は向上したのだが、リベル・リーダーの数は一向に増えることはなく、むしろその製造は厳しく制限されている。それには以下の理由がある。


 背布もリベルも、本来その存在意義は時間からの離脱ではない。後世に智恵を遺すことこそ本懐である。ゆえに必ず現世世界との架け橋を持っている。ただ、そこを渡れるのが影であるだけだ。錬金術関連の書籍で多く見られるように、智恵を持つ者は授ける相手を、それを読み解ける人物に限るのである。

 リベル・リーダーはその不文律を破るものである。ゆえに製造はほぼ一社の独占状態であり、一台ごとに製作の認否を関連団体で協議する。日和田の譲り受けたリーダーは、実のところ大した貴重品なのである。


 加えてリーダーのために背布を供するような変わり者など皆無と言ってよく、強制的に背中から剥ぎ取るか、過去の遺物を流用するしか手がないことも、稀少性に拍車をかけている。



 刺青背皮を持つとはいえ経験値が一切ない日和田も、読書訓練においてまずリーダーに慣れるところから始めた。リベルと背皮を直接繋いだ場合、背皮が完全に活性化し、制御できずに意識が侵食される恐れが多分にあったからだ。

 その懸念はいまでも解消されたわけではなく、深く読むときの緩衝材として使うためにリーダーを持ち歩いているのだが、今回はまったく別の意味合いで役に立つことになるらしい。


 影というものは、意味の側面、つまり意思に反応する。


 同じ影でもリベルの場合、それ自体が意思と同等のものであり、一方的な反応にはならない。


 単に影化されただけのモノのように、同期する意思の力によって剥離していた意味が再び物質的側面に引き寄せられ復元されるなどということはない。


 リベルは自らの意味と物質面とを隔離し続けている。リベル自体に変化がないことから、意味と物質の隔離の維持は何かしらのエネルギーを消費するものではなさそうだが、実態はよくわかっていない。


 日和田がリーダーの用意をしている間に依頼人が戻って来ると、彼は声をかけた。

「武井さま。誠に遺憾ですが、この鑑定対象はリベルではない可能性があります。もちろんまだ確信には至っておりませんが」

「なにをバカなっ」

 予期した通り、依頼人より先に古書商が声を上げた。「かのシェンランの鑑定書付きなんだぞ、何処の馬の骨ともわからんヤツが」

 そこで依頼人が手を上げ、古書商の開いたままの口から続けて言葉が出ることはなかった。


「それで?」依頼人は平然として日和田に訊いた。「次にどうするのかね」

 これは予想外の反応だ。日和田は一瞬言葉に詰まったが、これならば話は早そうだと口を開く。「リベルに同期します。これがいったい何によって作られているか、元になっているものを探り当てます」


 依頼人はわずかに顔をしかめた。「復元してしまう、なんてことはないのかね」

「復元はおいそれとできるものではありませんし、今回はリーダーを使用します。なので復元はしないかと。ただ何事にも絶対はありませんが」

「可能性があるのなら、これ以上の鑑定は断る」

「いや、しかし」

「もちろん場合によっては、だが」依頼人はソファに腰を下ろし日和田を見据える。「もしそうしてこれが元の姿に戻ったとして、背布はどうなるのかね」

「背布ですか。それは本物ですから、特に変化しないはずです」

「なるほど。ならば、こちらとしては問題ない。ただ……」依頼人は古書商を見遣る。「きみはどう思う」

 古書商としては明らかな損失である。

「ああ、商売的な心配はいらないよ。いずれにしても買わせていただく。聞いていた額でね。真贋についての責任はと言えば、もちろんそれはシェンランにある。そうだろう」

 古書商はわけがわからないというように口を開いたまま依頼人を見たが、小さく「そういうことなら……」とつぶやいた。

「決まりだな」依頼人は口元で両手を合わせる。「きみの言った通り進めてくれて構わないよ」

「承知しました」 

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