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ビブリオテイカ/零葉の錬金術師  作者: 浦早那岐
日和田潤
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カミマミタ

三年以上と言われていた訓練期間も、初めはそんなにかかるのかと思ったが、始めてみると存外訓練それ自体を楽しむようになり、期間のことは気にしなくなった。そういう姿勢が功を奏したのか、開始から一年後に経験を積むという意味合いで受けた鑑定士二級試験に合格した。

「資格というものは何でもそうだが、実際に仕事をしてこそ身につくものだ。しばらく私が依頼を受けてくる。もちろん身の丈に合ったものにするつもりだから安心してくれ」

 少々揶揄われている気がしたが、自動車学校を卒業したからといってタクシー運転手同様に走らせることができるわけではない。日和田は素直に感謝した。

「しつこいようだが、リベルは特殊な本だ。いや、本と呼べるものじゃないな」

 言葉を継ぐアスワドの眼差しから柔和さが消え、耳にタコができるほど繰り返された内容にも慣れた態度を許さない。「それゆえに贋作も常識では測れない。試験や訓練には用いられない魔法や呪いに近いようなものさえ存在する。何せ本物を作る技量のある錬金術師が作った偽物なんだからな。常に気を抜くんじゃないぞ」

 この時ばかりは日和田も軍の上官に対するが如く真剣な表情で「はい」と返事をした。

 そうして幾つかの依頼をこなすのを見届けたアスワドは、出国に際して代わりのエージェントを日和田に紹介してくれたのだが、いかんせん専属ではないため後回しにされ、ろくに仕事を回してもらえない。

 それでもたまに依頼があると、もれなく営業時間外のヒソクが付いてくるというわけだ。


 とある日もどこで聞きつけるのか、ヒソクは事務所に出勤してきた相棒づらでカウンターに陣取っていた。

「それで、鑑定の日取りって決まりましたぁ?」グラスの半分ほどをストローで吸い上げてからヒソクは言った。

「決まったけど、おまえには教えないよ」

「助手に教えないとかあります?」

「あるよ、なぜならおまえは助手じゃないからな。まあ、サイエンスに論文が載るくらいの天才だってんなら考えてやらんこともないが」

「マスターその世代ですか。いいですよ、ヤンデレですよね、任せてください。というか、あんたのためにやるんじゃないんだからねっ、あんたっていう誘蛾灯にうかうか寄ってくるビッチどもを皆殺すために仕方なう……噛んだ」

「いきなり始まるし、間違ってるし、長いし、そのうえ噛むのか」

「テヘッ、カミマミタ」片目を瞑ったヒソクは舌を出して自らの頭をコツンとやった。

 バシッ。日和田は反射的にヒソクの頭をはたいてしまった。

「痛い!」ヒソクは頭を押さえて恨めしそうに日和田を見る。

「すまん、思わず」

「いきなり暴力とか、あんたバカァ?」

「そうくるか……」

 ハア……日和田は諦観を滲ませる。

「あのなぁ、助手になりたいってんなら、履歴書持って出直してこい」手を出してしまった負い目もあって、日和田はつい譲歩してしまった。もちろん本気ではなく冗談のつもりだったが。

「わかりましたぁ、そうしますぅ」

 唇を突き出して席を立つヒソクに日和田は手のひらを突き出した。「トニック五百円な」

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