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ビブリオテイカ/零葉の錬金術師  作者: 浦早那岐
紫乃宮エト 3
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つなぐ力

「どうすべきなのか、わたしにはわかりません」カエルラは震える声で言う。

「ダーシアンの背皮に意識を明け渡すんじゃない」ディケルは苛立ちを低く抑えつけるように言う。「意識それ自体の主体は集合体だ。現実世界の物質のな」


 ディケルはカエルラの肩をそっと引く。

 その動きに合わせて、彼女は施術用の椅子から立ち上がった。「わたしも背皮も現実世界の部分であって、同じ意識を構成できると?」

「むしろ、あんたの意識にあっては、ダーシアンの背皮が部分になるはずだ。いや、背皮はすべからくそうあるべきなんだ」


「共感すればよいのでしょうか」カエルラが言った。

「むしろひらめけばいいんだろうさ」ディケルは言った。



 ひらめくとはどういう意味だろうとエトは思った。

「彼女はダーシアンの背皮の火傷を癒し、生涯をともに過ごした。その後、背皮は別のリブラリアンに継承された」

 エトの正面に立つディケルが言う。

 いつの間にか、ディケル、エトそれにプルディエールが輪になって立っている。


「もうわかっただろう?なぜ、オレがこの記憶を見せたのか」

 エトは頷いた。「あの背皮はダーシアンのものだったんだね」

「日和田がリーダーを通してつながったときに気づいたのだよ」プルディエールが肩を揺する。「その情報を共有したわけだな。日和田の背皮からおまえの背皮、そしてディケルへと」


「それが解呪の鍵になるってわけ」エトは言った。


 プルディエールが眉を寄せてエトの顔を覗き込む。「おまえ、わかっておらんだろ」

「引き剥がす方向じゃダメってことじゃないの?背皮がますます意固地になるってさ……」

「まあ、そうだな。ダーシアンのものなだけあって一筋縄じゃいかない。しかし宿主となる方も無意識に身体が背皮を拒絶するわけだ」ディケルが言う。

「でも受け入れたら自我を乗っ取られるんでしょ、どうすんのよ」エトがイライラした口調で言う。


「おまえはどうしている?」プルディエールが言う。「おまえとわたしは?」


 エトは怪訝な顔でプルディエールを見つめる。


「わたしとおまえはこうしてそれぞれの人格を持っている、ように見える。少なくともわたしたちはお互いを別々人格だと認識している」


「亜生もわたしたちと同じようにすればいいって言いたいの?でもさ、わたしはどうしてこうなっているのかわからないよ」


「無意識野、それに五感の共有だよ」ディケルが口を挟む。「表層の自意識を形作っている部分と無意識のそれは違う。そしてそれは肉体とそれに付随する五感とともに自意識の下支えをするものだ。ダーシアンの背皮にはその肉体部分がない。背皮は意識よりも上位の自我である意思によって形作られるからね。だからと言って背皮に意思は当然、意識もあるわけではない。意識を持つには複雑さが足りないし、思考演算だけで意識が生まれるわけでもない。そして意識がないということは、理性的ではないということでもある」


 エトは黙って続きを待つ。まだ結論を聞いていない。


 ディケルはしばし考えをまとめるように黙してから口を開く。「ひらめけば、とオレはカエルラに言ったろう?背皮が形作る人格の素のようなものは、五感で捉えられるものじゃない」

「プルディエールは見えてますけど」エトは反射的に言う。

「それはすでに肉体の一部を共有しているからだ。意識の素が五感で捉えられるならば、人は自分とは何かと、それほど悩まなかったかもしれないな。意識は意識でしか捉えられない。いや、この場合、意識では足りない。より高度なもの、意思によらなければ。その感覚はひらめきに近い」


「それこそわかんないんだけど……」エトはこぼす。


「いや、おまえはわかるはずだよ」プルディエールが言う。「あの病室でおまえ、気分が悪くなったろう。あれはあの娘と背皮が出していた意思の波動とでもいうべきものが原因さ。それにリベルを読もうとするとき、いつも意思の力は発動している」


「意思の力って、つまりテレパシー?」

 そのエトのつぶやきに対し、プルディエールは言う。「あながち間違いではないかもしれんな」


 プルディエールは咳払いし、「とにかく、いまあの娘と背皮はつながってはおらん。それぞれが相手を力で押し返している。無意識ながらな。防衛本能みたいなものだ」


「つまりあたしの役割って……」エトの目は己の内側を見ているようだ。「喧嘩の仲裁?」


「うーむ、ちと違うのではないか?」プルディエールが首を傾げる。「そもそもお互いに主義主張があるわけではなかろう。まあ、興奮状態を鎮める必要はあるだろうがな」


「お互いを正しく認識させる?その場をもうけるってこと?」


 エトの言葉にプルディエールは頷いた。「おまえの意識という場に、意思の力をもって二人を招き入れねばなるまい」

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