お姫様と仲良くなった話 その6
ここが丁度中間地点です。
トントン、私は扉のドアをノックした。
「鍵は空いています。どうぞ」
清楚で落ち着きのある声音が聞こえたのでドアノブを捻ってガチャリと開ける。
「失礼します、ルナお嬢様。………なんちゃって♡」
「えっ」
部屋に入る。部屋は全体的に赤を基調とした豪華な印象だ。大きくてふかふかしていそうなベットに、真っ赤なカーペット、部屋の中心には白いソファーと赤色に黒く細いラインが入ったテーブルがあり、そのテーブルの上には手入れされている花瓶が一つ、そして何冊かの分厚い本が置かれている。花の図鑑だろうか。
そしてヒューンと生暖かい風を部屋に取り入れている窓があり、その付近の椅子に腰掛けて窓の外を見ていたであろうルナちゃんは、私を振り返り、目を見開いて驚いていた。
ルナちゃんは純白のドレスに身を包んでおり、長い髪も纏め、顔の化粧がルナちゃんの可愛さをより引き立てている。
そんな、まるで可憐な天使のような花嫁姿に少し見惚れながらも、私は笑顔で話し掛ける。
「へへっ、来ちゃった!どうルナちゃん、元気してた?」
「え、えっと……どなたでしょうか?」
「ふっふっふっ〜。さてさて、どなたでしょう〜」
そう怪しげに笑う私は『解除』と唱える。すると瞬時に元の姿へと戻った。
今みたいに変身を解くときは、変身する時のような祈るポーズを取らなくてもOK。ただ『解除』って口にすれば元の姿に戻る。
「どう?これで分かるかな?」
元の姿でそう聞くと、ルナちゃんはポカンとした表情になった。うん、その表情もとってもキュートだ。
「えっ、えぇ!?ユリコさん!?な、なんで!?兵隊さんがユリコさんの姿に!?」
「ハハハっ、違う違う!私は正真正銘、友里ゆり子本人です!」
「…………えっ、嘘。ほ、本当にユリコさんなんですか?」
「うんホント。その証拠として…………ほら、コレ」
そう言って私はルナちゃんに見えないように、自分の身体で隠しながら、アイテムボックスにしまっていた白いコスモスを取り出し、ルナちゃんに差し出す。
説明しよう!アイテムボックスとは私が使えるチートスキルの一つである!
私は無限に広がる四次元空間を持っており、それを空間に出現させることが出来る。そしてその四次元空間の中に様々な道具を収納、取り出す事が出来るのだ!つまり例えるなら、『どんだけ入れてもパンパンにならないポケット』を持っているみたいものなのだ!
まぁ、もっと分かりやすく四次元ポケットみたいなもので…………とゆうかほぼ同じやつでして、その…………つまり、えーと、はい。異世界ラノベにありがちの、よくあるアレです。
そんなこんなで、私はいつもこのアイテムボックスに旅に必要な道具や、旅先で手に入れたアイテムなんかを入れている。白いコスモスはさっき城に向かう途中の花屋さんで買ってきたもので、ここに来るまでずっとアイテムボックスにしまっていたのだ。
「白い、コスモス……?」
白いコスモスを見て、不思議そうな顔をするルナちゃん。
「ほら、昨日花屋さんで言ってたでしょ?『一番好きな花だ』って。だからコレ、喜んで欲しいのと、今ココにいるのは昨日一緒にいた私だよっていう証明も兼ねて、ルナちゃんプレゼント」
そう言って私はルナちゃんの手を取り、ぎゅっとコスモスを握らせた。
「……………」
ルナちゃんはコスモスを受け取り、それを少し眺めた後、その整った口角をゆっくりと上げた。
「…………本当に、来てくれて嬉しいです。ユリコさん」
ルナちゃんはそのキュンとしそうな笑顔を私に向けてくる。
「へへっ、私だって信じてくれた?」
「ふふふっ、はい、信じました!」
「そっか、それなら良かったよ」
私も極力笑顔でルナちゃんの顔を見た。
「…………でも、そうでしたら、ユリコさんは一体どんな魔法を使って兵隊さんに……」
「あー、ごめん。それを話すと長くなっちゃうから、一旦置いとこうか…………。それよりも今日、私はある目的でここに来たんだよ」
「あっ、そ、そうですよ!なんでユリコさんはここに……」
食い気味に聞いてくるルナちゃんに、私はお城に潜入した経緯を話した。ルナちゃんが明日結婚する事を聞いて、勇者に怒りを覚えている事。ルナちゃんと勇者の結婚を阻止したい事。勇者を懲らしめてやりたい事。それら全てを話した。
「なるほど、そういう事だったんですね……」
ルナちゃんは、さっき上げた白いコスモスが入った花瓶を見てそう呟く。
「ルナちゃん。もう一度聞くけど、本当に勇者とは結婚したくないんだよね?」
私は再度確かめるように尋ねる。ルナちゃんは深く頷いた。
「えぇ、出来る事なら結婚したくはありません。あんな人と結婚するぐらいなら死んだほうがマシです」
「それなら……」
しかしルナちゃんは、「ですが」と私の提案を受け入れてはくれない。
「これは私の問題です。結婚したくないのはやまやまですが、もう決まった事です」
「…………王様に自分の意思を伝えようとはしないの?もしかしたらルナちゃんの意思を尊重して……」
私がそう聞くと、ルナちゃんは首を横に振る。
「いや、私の我儘で父を困らせる訳にはいきません。確かに私が自分の心境を父に語ったとして、私に優しい父は、結婚を取り止めようとしてくれるかもしれません。ですが、そうなれば勇者とそのパーティーがこの王国に何をしてくるか……」
「大丈夫だよ。その為に私が勇者を説得しようと……」
「…………何を言っているんです。とんでもないですよ。勇者を、アレス様を説得なんて」
低い声で、目を細めてそう言うと、ルナちゃんは向かいのソファーから立ち上がり、窓の方へと歩み寄る。そして窓から外を眺めながら、勇者がどれだけ強いかついて語り出した。
「勇者と言われるぐらいです。彼を倒す為に魔王軍から送られてきた数々のモンスター、そして四天王の魔王幹部達は全て勇者パーティーが蹴散らしました」
「……………」
「それにアレス様は歴代の勇者の中ではトップクラスの実力者です。4つある魔法属性は全て適正を待ち、古代魔法も使えます。剣技においても最強で、彼の必殺技である『デット・エンド・リッパー』は山を切り裂く程の………」
「関係ないよ。必ずなんとかしてみせる」
「…………えっ」
私が相槌を打つと、呆気に取られたルナちゃんの声が返ってくる。
「まぁ、話を聞く限りなかなか強そうだけどさ。私に言わせれば『だからなんだ』って話だよ。友達のためならそんな奴どうとでもするよ」
「………な、何を言ってるんですかユリコさん!!私の話を聞いていたんですか!?」
ルナちゃんは慌てて私の方を振り向き、大声を出して私を怒った。
「アレス様は歴代最強の勇者なんですよ!?魔王を追い詰めてる人なんですよ!?ユリコさんはそんな人に説得を試みようとしているですよ!!」
「うん、分かってるよ」
「分かってるって…………いや、ユリコさんは分かってません!!ユリコさんも勇者の性格を知ってますよね!?どう考えても危険で………」
「ルナちゃん」
私はルナちゃんの名前を呼び座っていたソファーを立つ。
「私はね、強いんだよ。勇者なんて余裕で倒せちゃうぐらいにね」
「………………」
「ありゃ、やっぱり信じられない感じかな?まぁ、そりゃ私の見た目じゃそう思うよね」
笑い掛けてるが、ルナちゃんは疑うように黙り込む。そんなルナちゃんに、私は問いかけた。
「ルナちゃん。何度も聞くけど、本当に結婚したくはないんだよね?」
「…………えぇ、はい。ですがユリコさんが危険な目に……」
「――大丈夫だから、私を、信じて」
「…………」
私は真剣に、そう言った。信じてほしいかったから。ルナちゃんを助けたいかったから。
「大丈夫だから、ルナちゃん。私は大丈夫だから、信じてほしいな」
「…………ユリコさんを、信じる?」
「うん、友達の私を信じてよ。そして勇気を出して、私にお願いして」
「…………勇気を出して、お願い」
「そう、私にお願いしてよ。『何とかしてください』って。『私を助けて』って。そしたらね、あなたの友達である私は絶対にこう言う」
そう、もしルナちゃんの許可が降りたら私は、こう言う。
「『YES』って、絶対にね」
「…………」
「だからお願い、信じて。私はあなたを助けたいの」
私の真っ直ぐな言葉にルナちゃんは俯き、どうしたらいいのかと考え込み始めた。
正直、私が言える事はここまで。後はルナちゃんから許可が降りるかどうかだ。
所詮、私はただの旅人だ。異世界人だ。そしてルナちゃんの友達だ。
…………そんな私は、当然ルナちゃんの意思を尊重しなければならない。
もしルナちゃんが許可をくれないのなら、仕方ないが私は怒りを抑えて諦めてこの王国を去るべきなのだ。
「――ユリコさんは、本当に、お強いんですか?」
だけどその必要はなさそうだったので、私は景気良く「YES」と答えた。