お姫様と仲良くなった話 その5
次の日、私は高台でルナちゃんを待っていた。のだが、
「来ないな……」
ルナちゃんは約束の時間になってもやって来ない。どうしたんだろう、準備に手間取ってるのかな?
「しっかし、急な話だよなぁ」
「そうだな。いつかいつかとは思ってたけど、まさか明日とはなぁ」
そんな中、後ろの方から話し声が聞こえた。振り返ると、男2人がベンチに座って世間話をしているようだった。
そして、その男達はこんな事を言い出したのだ。
「そうだなぁ。まさか明日、"お姫様と勇者が結婚する"なんてなぁ」
「ッ!?」
私は思わず目を見開いてしまった。
ルナちゃんとあの勇者が明日結婚!?どういう事!?
ルナちゃんは昨日、『いつ結婚するか分からない』って言ってた筈。それなのに明日結婚って、急すぎじゃない!?
私はその話を詳しく聞きたく、男2人が座ってるベンチの近くにあった樹木に身を隠し、コソコソと話を聞く事にした。
「でも、なんで明日なんだ?いくらなんでも急すぎやしねえか?」
男の1人が言う。そうだそうだ、急すぎだ!ルナちゃんそんな事言ってなかったぞ!
そんな私の心境に答える様に、もう1人の男が言った。
「いやな。なんでも今回の結婚、あの勇者が王様に『早くお姫様と結婚したい』ってせがんだらしいんだよ」
「勇者が?そりゃまたどうして?」
「噂じゃ、お姫様が自分に全然惚れないから、痺れを切らして結婚をせがんだらしい」
「なるほどな。無理矢理自分のそばに置いて惚れさせようって事か。だからって明日結婚ってのもなぁ〜」
「そうだなぁ。そのせいでお城は今、大急ぎで結婚式の準備をしているらしい。多分今頃お姫様も式の準備に追われてるだろうぜ」
「マジか、そりゃあちょっと可哀想すぎるな。そうなると姫様も例のアレが出来なくなるのか?全く、あの勇者ときたら……」
「王様も王様だ。普段は良い王様なのに、勇者が絡むとてんでダメになる」
「まぁ、それは無理もない。勇者はめちゃくちゃ強いんだ。逆らったら何されるか分かったもんじゃないさ」
「もしかしたら勇者がいるこの王国は、衰退の一途を辿ってるのかもなぁ……」
「ハハ、そうかもしれんなっ」
2人は苦笑いしながら立ち上がり、ベンチを後にした。
…………なるほどね、そういうことだったのか。だからルナちゃんはここに来ないのか。あのクソ勇者の奴、やってくれたわね。
じゃあ、ルナちゃんは結婚するのか。あんなに嫌いな相手と無理矢理。
だからって、これは私が首を突っ込んで良い問題じゃない。
私は旅人、ただの旅人。ルナちゃんの問題に関与して、逆に最悪な結果になったら……………。そう、私の役目はルナちゃんをただ見届けるだけだ。
と、話を聞く前まではそう考えていた。
「…………ふざけないでよ」
けど気分が変わった。この時、私の堪忍袋の尾が切れたのだ。完全に。
あぁめんどくさっ。もう良いやめた。難しく考えるのやめた。ヤメだヤメ。本気でイライラして来た!
私が関わったら最悪な未来になる?いやいや、私を誰だと思ってるのよ。
私は人間、神様じゃない。けれどそれでも、私はそこそこチートなんだからね!
それに、さっきの男はこう言っていた。『無理矢理自分のそばに置いて惚れさせようって事か』って。それって、結婚したらルナちゃんはずっと勇者の側にいるって事でしょ?もしかしたら、ルナちゃんはこれから先、街を出歩けない。あんな勇者のことだ、ルナちゃんを束縛する可能性は十分ありえる。
勇者と結婚して、街まで歩けない。ルナちゃんがどっちも嫌がってた事。
そんなの、友達である私が許せない。首を突っ込む理由はこれだけで十分に決まってる。
………って、ああもういいや!本当に考えるのはヤメ!なんか頭痛くなって来た!
友達を助けるのに理由なんか要らない。旅人とか関係ない。それに私、今頭きてるから。あの勇者に頭きてるから!今なにしでかすか分かんないから!!
と、こんな感じでブチギレてた私の頭の中ではたった一つの考えが浮かんでいた。
「あの勇者に目に物見せてやるんだから……」
……そう、勇者をボコボコにするという考えだ。ルナちゃんを助けて勇者をフルボッコにしようと考えていたのだ。
待っててねルナちゃん。今そっちに行くから。そして今に見てなさいよ勇者。言っとくけど、アンタがいくら強くても私には関係ないかんね。
よしっ、そうと決まればだ。
――私が色んな異世界を旅して来た、チート級に強い旅人だって所を見せてやろうじゃんか。
こうして、超絶ブチギレモード中だったこの時の私はルナちゃんの状況を打開する為と、勇者をコテンパンにする為にお城に潜入する事にした。
それからしばらくして、私はお城の前に到着した。
門にはちゃんと門番の兵隊が立っている。人数は2人、どちらも槍を持っていて、兜と鎧を身に付けていた。
私はその兵隊の2人の格好をよーーく観察してから、人気のない建物の物陰に隠れた。
そして両手の指を組み合わせて、祈る様なポーズを取る。門番2人の格好を脳裏に思い浮かべて、そして唱える。
「――チェンジ――」
すると突然、私の姿が兵隊と同じ兜と鎧を身に付けた姿になった。手には槍も持っている。
私は色々な異世界を旅する中で様々な超能力、スキル、アイテムを手に入れてきた。その中で、この時私は『チェンジ』という超能力を使った。
簡単に『チェンジ』を説明すると、私は見た人間、動物、物体の姿形に変身できるのだ。
例えば、私がドラゴンを見たとする。それから私が『チェンジ』を使う。すると私の姿がそのドラゴンと瓜二つに変身するのだ!
但し、私がドラゴンになったからといっても火を吐ける様にはならないし、魔法が使えるようになる訳じゃない。魔法使いに変身したからって魔法は使えないし、めぐみんに変身したからってエクスプロージョンは使えない。ただ単に姿が同じになるだけだ。
まっ、いま例に挙げたそのドラゴンに羽が生えてたら空とかは飛べるだろうし、重さや質量も同じになるから、人とか踏んづければペチャンコにできる。した事ないけど。
しかしこの『チェンジ』には弱点がある。それは私が変身してる間、私は持っている数々のスキルや超能力を一切使えないという事だ。
他の能力はまた後で記述するけど、この弱点は本当に辛い。場面や場合によっちゃ、結構危ない展開になりかねない。
ハァ……。ホント、今までこれでどんなに大変な目にあって来たか…………。
「さてと、行くか」
兵隊の姿となった私は歩き出し、門番である兵隊2人の前に立った。そう、私は兵隊の格好でお城に潜入しようと考えていたのだ。これならなんの違和感もなく、堂々と正面からお城に入れる。
そして結果から言えば、潜入は簡単に成功した。別にピンチも起きず、簡単に成功した。凄く呆気なかった。
門番も全然疑いもしなかった。私が「今、見回りから帰った。門を開けてくれ」って言ったらすぐに開けてくれた。私が兵隊の姿とはいえ、なんていうかこれは、うーん、ガバガバセキュリティー。
そんなこんなで、お城に潜入してから私は取り敢えずルナちゃんの居場所を探す事にした。
ブラブラと適当に城内を歩いていると、メイドさんらしき人が前から歩いていたので、ルナちゃんの部屋を聞いてみる事にした。
「あ、あー。す、すまない。ちょっと聞いてもいいか?」
「はい、なんでしょうか?」
「い、いや実は自分、まだ兵隊の見習いでして。この城に慣れてないのです。少しルナお嬢様にご報告せねばならぬ事があるのだが、お嬢様は今どちらへいますでしょう?」
「あらそうなんですね。でしたら教えますよ。ルナお嬢様は今…………」
と、メイドさんがルナちゃんの部屋への道を教えてくれた。なんでもメイドさんによると結婚式の準備に疲れたルナちゃんは、今は部屋でゆっくり休んでいるのだとか。
「い、いやはやいやはや、非常に有難う。では、これで失敬する……」
緊張してて怪しい日本語になっちゃったけど、お礼を言ってルナちゃんの部屋に向かった。