お姫様と仲良くなった話 その3
ここまで読んでる人がいるか心配……
「はい、私の水筒上げるね」
「ハァ……ハァ……。ありがとうございます……」
そう言って私の水筒を、ルナちゃんは息切れしながら受け取った。
店から走って逃げて来た私たち。結構走ったので、追っては来られないだろう。
取り敢えず今はそこら辺にあった適当なベンチに座って休んでいる。
「大丈夫ルナちゃん?急に走らせちゃってごめんね?」
「い……いえ……大丈夫です……」
そう言ってルナちゃんは私の水筒を飲んだ。
「てゆうかさ、なんなのアイツ!ホントに勇者なの?ルナちゃん嫌がってるのに、デリカシーなさすぎでしょ!超ムカつく!」
「そうですね。私もあの人は、ちょっと苦手です…………」
水筒を飲んだおかげか、ルナちゃんの息切れもおまってきた。なので私は、ルナちゃんに事情を聞くことにした。
「ねぇルナちゃん。さっき勇者は『婚約関係』とかなんとか言ってだけど、それってどういうことなの?それに、『ルナお嬢様』って…………」
「ッ。それは、その…………」
「あっ!べ、別に話したくなかったら、無理に話さなくても良いよ?」
慌ててそう言う私に、「いえ、大丈夫です」と、ルナちゃんは首を横に振った後、ルナちゃんの今の事情を聞かせてくれた。
「その……実は私、この国の王様の娘というか……その……なんというか……」
「ん?それってつまり……」
「…………はい、そういう事です」
つ、つまりルナちゃんって………。
「えっ、ウソっ!?お姫様って事!?」
「…………はい」
私はそれを素直に驚いてしまった。まさか今まで話してた人がお姫様なんて。これじゃあまるで物語じゃないの。
でもそれだと、ルナちゃんの丁寧な喋り方とか、どこか神々しい雰囲気とかには納得はいった。
「で、でもそれじゃあなんでお城じゃなくてこんなところに…………」
「えぇ、だから今こうしてお忍びで城下町を、護衛も付けずに歩いているのは禁止されているんです。まぁ、勇者パーティーの方々には知られちゃっていますが………」
確かに、勇者はお店にいたルナちゃんにそこまで驚いていなかった。つまりルナちゃんがよく街を歩いている事を知っているのか。
「えーと、じゃあ『婚約関係』っていうのは………」
なんとなく察しがついてきたけど、一応本題を聴くとルナちゃん暗い顔をして俯く。
「………姫である私と、勇者であるアレス様は、近々結婚するんです」
やっぱりか。
「それって、2人の同意で?」
「いえいえ、とんでもございません。この結婚は父が…………王様が勝手に決めたのです」
「王様が……?」
そう聴くと、ルナちゃんはコクリと頷き、全てを話してくれた。
なんでも、綺麗で美しいルナちゃんに一目惚れした勇者が、無理矢理王様に頼んで婚姻関係を結ばせたそうだ。
強くて魔王を倒せる唯一の存在である勇者。そんな奴の頼みだ。一国の王様も流石に逆らう事が出来ないし、そもそも王様は勇者を溺愛している。
力があって、一応悪人を成敗していて、魔王を倒せるかもしれない勇者が自分の娘と結婚したいと言ってきた。王様が断る理由も、道理も、そして権利も、無かったという。
こうして王様は、ルナちゃんと勇者との婚姻関係を強引に結ばせた。
…………勇者が大っ嫌いな娘のルナちゃんの心情なんてまるで無視して。
そして勇者はなんと、ルナちゃんが城下町を勝手に出歩いているという情報をどこかで知った。そしてそんなルナちゃんにある条件を持ちかけた。
『君が勝手に街を出歩いているのを黙ってやるから、君も結婚に賛成しろ』と。
王様はルナちゃんの事も溺愛しているらしい。もしルナちゃんが結婚したくないと王様に言えば、もしかしたら、王様は愛娘の意見を尊重し、結婚を取り止めるかもしれない。
それをさせない為にも、勇者はルナちゃんの弱みにつけ込んだのだ。
「なにそれ、王様と勇者の2人酷すぎでしょ……。ルナちゃんが可哀想すぎる……」
「いえ、元々は私が街を出歩いているのが悪いんです。なのでこれは、仕方のない事なんです」
そう言ってルナちゃんは、更に顔を暗くする。
「ねぇ、やっぱりルナちゃんは、勇者と結婚するのは嫌?」
「勿論です。あんなに横暴で周りには女性しかいない人とは、絶対に結婚したくありません」
「そうよねぇ。もし私がアイツと結婚するってなっても、絶対に、死んでもしない!」
「フフッ、ユリコもそう思いますか?」
「もちろん!アイツをブン殴ってでもしないよ!」
私は拳を握りしめてそう答える。それを見てルナちゃんが「なんだか、カッコいいです」って笑ってくれた。
それから、少し疑問に思った事を聞いてみる。
「ねぇ、勇者とは本当に結婚したくない?」
「えぇ、私も死んでも結婚したくないです」
「……………それならさ、思い切って王様に伝えてみたら?『私は勇者と結婚したくありません!』って」
「……ッ。それは、その……」
「結婚したくないんなら、出歩いてる事がバレてでも言ってみたら?王様はルナちゃんのことも溺愛してるんでしょ?もしかしたら結婚を取り止めてくれるかもしれないじゃん」
「…………………」
ルナちゃんは少し黙り込み、それから笑顔になって、そして自分の想いを伝えてくれた。
「私、この王国が、この街並みが好きなんです」
「…………………」
「初めてお忍びで街を出歩いた時、私はこの街に、街並みに、街の民衆に、とても"魅了"されました」
「魅了…………」
「そうです。私は、この街を歩く事に、魅了されているんですよ。それも"病的"なまでに」
笑顔で楽しそうに、ルナちゃんがそう呟く。
魅了されている。病的なまでに…………か。なんだか、どこかの誰かさんみたいな事を言ってるなぁ。
「もし私が出歩いている事が父にバレてしまえば、過保護な父はもう二度と、街を出歩かせないと思います。きっと一日中部屋の中で本でも読んで、街のことを思う退屈な日々を過ごすことでしょう」
「………………」
「まぁ、確かに勇者との結婚は絶対に嫌です。………でも、それでも私には、街を歩けない方が嫌なんですよ」
「…………そっか」
そっかそっか、そうなのか。ルナちゃんにはそのぐらい、街を出歩く事が生き甲斐なのか。
「ハハ、すみません変なこと言って。可笑しいですよね私。たったそれだけの理由なのに。やっぱり、私ってどうかしているんでしょうね。一国の姫だというのに……………」
「ルナちゃん………」
「でも、それでも、私は街に出て刺激を求めているんです。これだけは、辞めたくないんです」
ルナちゃんは、本当にこの国が好きなんだな。それだけ、この国が、この街が、良いって事なんだな。
私は純粋にその想いに感化された。だから振り向いてその可愛い顔を見て、今度は自分の思いを伝えた。
「ねぇルナちゃん。私が旅をしている理由、何だと思う?」
「えっ」
「私だってね、旅が大好きで、刺激を求めてる。それこそルナちゃんみたいに、旅に魅了されてる。病的なまでにね」
「ユリコさん……」
「だからねルナちゃん」
そして私は立って、呟く。
「おかしくないよ、ルナちゃんが街を出歩きたい理由。全然おかしくないよ」
私は笑顔で、ルナちゃんを安心させるように、そう呟いた。
そして、私と似たもの同士であるルナちゃんに手を差し伸べる。
「さてさて!そろそろ行こうかルナちゃん!」
「えっ、行くって何処に…………?」
「いやいや、さっき言ったじゃん!『この国を案内してもらう』って!」
「あっ………」
「ささ、時間もったいないし、早く案内してよ!」
「………………え、えーと」
「ほら早く!」
「…………フフフッ、はい!行きましょう!」
そうしてルナちゃんは笑ってから、私の手を掴んでくれた。
ホント全体的に10話程なんで、そこのところよろしくお願いします。