プロローグ 異世界の旅々ノートを読もうと思った経緯
余り長く連載しないのでそのつもりでお願いします。
『キリヤマ先生!異世界モノ、書いてください!』
「……………えっ」
小説家である私、霧山薫子に編集者の小娘がそんな話を持ちかけてきた。
『だ・か・ら、異世界モノですよ異世界モノ!今絶賛話題の!』
「い、いやいや、ちょっと待って」
状況が理解出来ない私は、携帯から聞こえる小娘の言葉に「待った」をかける。
『ん?なんですかキリヤマ先生?』
「なんですかじゃないわよ。良い天城さん?私がこれまで書いてきたのは、全て純文学よ?」
『えぇ、知ってますよ』
「ラノベ作家、じゃないのよ?」
『知ってます』
「しかも私、異世界モノなんて書いた事すらないのよ?」
『へー、そうなんですか』
「だからね天城さん。…………無理に決まってるでしょ、異世界モノは」
『ハハッ、ご謙遜を』
「いや、してないわよ………」
私はこれまで、純文学の小説しか書いた事がない。ラノベの様な内容なんて書いた事はなく、読んだ事も余り無い。
そんな私だ。当然、異世界モノなんて触れた事すらなかった。
『イヤ〜、私見てみたいんですよ!ベストセラー作家のキリヤマ・カオルコ先生が繊細で丁寧なタッチで描く、最ッッッ高に面白くて、それでいて奥が深い異世界モノのラノベを!』
「は、はぁ……」
歳下編集者の愉快な話し声に、私は呆気に取られた反応をする。
『とゆうことで!キリヤマ先生には異世界モノを書いてもらう事になりましたので、よろしくお願いします!あっ、編集長にはもうOK貰ってるんで、そこのところは心配しなくて良いですよ〜』
「えっ、今なんて………」
『なんでなんで!原稿出来たらすぐに送ってくださいね!待ってま〜す!』
「ちょっ、ちょっと待っ…………」
――プツリっ。ツー、ツー、ツー、ツー。
嘘でしょ、切りやがったあの小娘…………。
私は通話が切れた携帯の画面を見ながら、深くため息を吐いた。
私、今連載を3本持っているのよ?そこに加えて更に4本目?しかも異世界モノ?何考えてるのよあの編集長……。
「本気で言ってるの…………?」
編集者の小娘が言っていた通り、私は世間でいうところのベストセラー作家というものだ。数々の賞を受賞し、出した本は何十万、時には何百万も売れる。
そして今では大手出版社で3本の書籍シリーズを書かせてもらいながら、郊外のマンションを寝床としている。
別に自分ではベストセラー作家なんてそんな大層で偉そうなモンじゃないと思っているし、そんな私が大手で3本のシリーズを書かせてもらっているのは非常に有難いとも思っている。
けど、流石に4本目は無いでしょうがぁ。しかも異世界モノって…………。
「ナニが繊細で丁寧なタッチよあの小娘。私をやる気にさせようとでもしたの?」
あぁ、本当にどうしようかしら。編集長にも話がいってるみたいだし、流石に何か書かないと不味いだろうか。
あれだ。なんなら一回書いてみようかしら、異世界モノ。いやでも、私本当に書いた事ないのよねぇ。そもそもラノベすら殆ど読んだ事ないのに……。
「どうしたら良いのやら……」
そんな事を呟いた時だった。
ピンポーン!とインターホンが鳴った。ので私はすぐに玄関へと向かい扉を開ける。
「宅配でーす。サインここにお願いしまーす」
「……宅配?」
ネットで何か頼んだ覚えは無かった。誰からの差し出しだろうか。もしかしてファンからのプレゼント?
なんて考えながら、とりあえずダンボールの荷物を受け取った。
リビングへ持っていき、机の上にダンボールを置く。
差出人は誰かと確認すると、相手はお母さんだった。
「ん?お母さん?」
一応ダンボールは開けず、確認のため私はすぐに携帯でお母さんに電話をかけた。
「もしもしお母さん?」
『んー、どうしたの薫子?』
「なんか宛名がお母さんの段ボールが届いたんだけど。何これ?お母さん知ってる?」
『あぁ、もう届いたの?ゆり子ちゃんの本』
「本?」
私はカッターでダンボールの中身を開けてみる。すると中には大量の本が、ぎっしり詰まっていた。
『ほら、私のお姉ちゃんで、親戚の菜々子伯母ちゃん。覚えてるわよね?』
「うん、覚えてる」
『その子どもに、ゆり子ちゃんって女の子がいたのは覚えてる?』
「あー確か……まだ行方不明になってる子だっけ?」
お母さんが話すゆり子ちゃんこと、友里ゆり子。その子は今、消息を絶っている。
詳しくは知らないが、なんでもゆり子ちゃんは家を出てからずっと帰ってきていないらしい。
別に家族関係も良好で、高校でも特に違和感が無かった事から、誘拐、もしくは神隠しにでも会ったんじゃないかと噂されている。
…………それが、3年前の話。そして今もゆり子ちゃんは消息不明だ。
私の記憶では、ゆり子ちゃんは親戚の集まりに何故か滅多に顔を出さなかった。
実際、私は一度しか顔を合わせた事がない。しかも顔を見たのも、もう何年も前になる。
ああ、懐かしいなぁ。確かその時私は高校生で、ゆり子ちゃんは小学生だったっけ。顔が整っていて、茶髪のポニーテールがよく似合うカワイイ女の子だったなぁ。
『そうそうその子。でね、お姉ちゃんがアンタの為に、ゆり子ちゃんが読んでた本を何冊かくれたのよ〜』
と、ゆり子ちゃんについて思い出していた私にお母さんがそう言った。
「えっ?私の為に?」
『えぇそうよ。小説書いてるアンタに『有名作家の為に少しでも役に立ってくれたら、ゆり子もきっと喜ぶ』って』
「はぁ……なるほど」
『まぁそういう事だから、使ってやりなさいよ。せっかくだしさ。それにその中に漫画も入ってるし読んでみれば?ほら、アンタって漫画とか読まなかったしさぁー。案外小説読んでるよりも良いアイデア浮かぶんじゃない?』
「うーん、どうだかねぇ……」
そんな会話のやりとりをいくつかした後、結婚の話を持ち出されたので通話を切った。
しかしこのダンボール、ありがたい話だけど良いのかしら?貰っちゃって。
こういうのって家族は大切に持ってるもんじゃないの?いくら私が作家だからって、そんなポンッと上げちゃっていいのかしら?
まぁでも、送られてきたものはしょうがないか。それに使ってくれと言うんなら使わせて貰おうじゃないか。ちょうど今、異世界モノの内容を考えようとしていたわけだし。参考資料が手に入ったと思えばいいか。
そう割り切って私はダンボールの中身を適当に漁っていった。
さっきも言った様に、中には本が沢山入っていた。が、どれもこれも漫画かラノベばかり。そしてその中には異世界を題材とした作品も多々あった。
「凄いわねぇ最近のラノベって。こんなにタイトルが長いのもあるのね」
私が辛うじて知ってるラノベ(名前は知ってる。内容は全くもって知らない)も相当長いタイトルだなとか思ってたけど、コレなんかは倍ぐらいありそうねぇ。
とゆうか異世界モノってなんだか、同じ様な表紙ばっかりじゃないの。どれがどれだか見分けがつかなくなりそうだ。
「まぁでも、これだけ有れば……」
もしかしたら、なんとか異世界モノを書けるかもしれないわね。ふぅ、良かったわ。菜々子伯母さんには今度お礼を言わないとね。
さてさて、試しにどれか読んで小説の参考に…………。
「ん?なんだろうコレ?」
そんな中、私の目にあるモノが止まった。
ノートだ。多々ある漫画やラノベの中で、ひとつだけ異彩を放っているノートを見つけた。
表紙には黒色の油性ペンで『異世界の旅々ノート2』と書かれている。
「異世界の旅々ノート……2?」
なんだコレ?これもゆり子ちゃんの私物だろうか?2って事は、他にもあるのかな?
ダンボールの中を更に漁ると、同じ題名のノートがもう2冊見つかった。どちらも『異世界の旅々ノート3』、『異世界の旅々ノート 4』と書かれている。ナンバリングになっているようだが、しかし"1"だけは見つからなかった。
「これって…………」
試しにパラパラっとノートの"2"をめくっていくと、そこには綺麗な字がページを埋め尽くしていた。どうやらゆり子ちゃんが書いたもので間違いないみたいだ。
「もしかして…………」
ページをいくつか見た感じ、"異世界"とか、"魔法"とか、"王国"とか…………そんなファンタジーの定番とも言える単語がいくつも出てくる。とゆうことは、だ。
「異世界モノの自作小説かな?」
なるほどそっかそっか。ゆり子ちゃんは失踪する前は異世界モノの小説を書いていたのか。
「それにコレって、まさか……」
ノートなんかにビッシリ書いているところから察するに、これってもしかして、ゆり子ちゃんにとっては『黒歴史』的な代物なんじゃないかしら。しかもそれが3冊もある。とても熱心に書いていた証だ。
「うーん、どうしよう。読もうか迷うなぁ」
こういうのってプライバシー的にどうなのかなぁ。多分ゆり子ちゃんは自分の3冊ある黒歴史を読まれたくないだろうし、私だって、わざわざ人の黒歴史をジロジロ見るのも気が引けてくる。
そう思うとなんだか見ちゃ悪い気がする………………
「………………まっ、いっか」
菜々子伯母さんは役立てて欲しいと言っていたらしいし、第一これは私が貰った物。つまり私が何しようとも私の勝手だ。
てゆうか何か、普通に気になってきちゃった。
いいやいいや、見ちゃおう見ちゃおう。見てしまおう従姉妹の黒歴史。どうせその従姉妹は現在行方不明中だし、何も言われないさ。よしっ、問題はないわね。
さてさてぇ、このノートにはどんな物語が広がっているのやら。
そんな軽い気持ちで、私はこの『異世界の旅々ノート2』の表紙をめくり、1ページ目を読むことにした。
一応練習用の作品なので、批判とか酷評とかお願いします。