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怪文書  作者: 怪文書
3/3

怪文書3

 私の名前は三宅彩。

どこにでもいる平凡な高校2年生。


 私は人が苦手だ。正確に言えば、人が怖い。

人と出来る限り関わりたくない。


「中学校時代は井上さんが居たからなぁ…」

井上京子、彼女は確実に私と同じタイプだ。

彼女は6日間しか中学校に来なかった。彼女なら私の気持ちをわかってくれたのだろうか。


 そんなことを考えながら、1人帰る帰り道。

他校から転校してきた「福田」という奴が最近しつこい。

こいつとは同じ中学校ではあった。しかし、突然転校してきた。

転校してくるや否や、不良のグループを結成して、悪さばっかりだ。


「ねえねえ、彩ちゃん、一緒に帰ろうよ」

「え、嫌です」

「えー、なんで?」

しつこい。しつこい。キモい、死ね。

「ねえ彩ちゃん、俺の家来ない?一緒に映画見ようよ」

「いいです。一人で帰らせてください」

「あ?俺の命令聞けないなら後悔するよ?」

「へえ、そうですか。気持ち悪いから近寄らないでください。」


それから福田や、福田の取り巻きの女子からいじめられるようになった。


トイレに入れば、上から水を掛けられたり、水の溜まった洗面器に顔を沈められたりした。私の精神は限界だった。


 ある日は殴られ、ある日は水に沈められ、私は完全に精神が崩壊してしまった。

「彩ちゃんさ、そろそろ辛いじゃん?唯一いじめから開放される方法あるんだけどさ、する?」

「し、します…」

私は泣きながら、声にならない声で、何をするのか完全に察した上で、同意してしまった。


福田の家へ行く。

心拍数が上がっていく自分が気持ち悪い。

福田に無理やり服を脱がされてから先は覚えていないが、初めては、痛かった。それ以上は思い出したくない。

「もうやめてください」って言ってもやめてくれない。

動画を撮られ、それを何度も脅しの材料に使われ、行為をする度に動画を撮られ、それで脅されたし、福田の家だけではなく、学校でもした。

 行為をした人は福田だけではない。福田とつるんでいた男子ともさせられたし、輪姦されもした。そして私は福田に毎月5万円納めるよう命じられ、援助交際などでお金を稼いだ。

 私の体に価値などない。自分の体が汚くて気持ち悪い。


 高校3年生になると、何度も自殺企図をするようになっていた。

腕を切ったり、首を吊ったり。何をしても満足できない。


 そんなことを繰り返して、もう3月。卒業だ。

桜が咲いて綺麗な季節だ。この桜も、4月になれば散る。

別れが嬉しい、そう思うのは私だけなのかな。

将来は何も決まっていない。親には「高校を卒業したら出ていけ」と言われた。


 4月1日。

世の中では、新年度の始まりとされている日だ。

3月31日で退職した人。4月1日で採用された人。様々だ。世の中は常に動いている。


 生きるのがもう嫌だ。

生きているうちは誰も助けてくれない。死んでから動かれても私は戻ってこない。そんなことを考えながら今日も1日泣いている。


 「助けて」

勇気を振り絞って出したこの一言は、「生きてりゃどうにでもなる」というくだらない言葉で打ち消された。

誰も助けてくれない。


 でも、今更元々のわたしが帰ってくるわけではない。

もう、汚れた私しか存在しないのだ。


 自殺配信でもしようかな。また体売ろうかな。

そんなことを考えてもう2年経った。

結局精神は安定しないし、誰も助けてくれない。

今日は意を決して地下鉄にやってきた。


…あれ、なんで?

なんで、井上さんが居るの?


同じホームに井上さんが居る。最期の運命、って奴かな。

しかし、私にはわかる。彼女は近いうち死ぬ。


14時00分。


「まもなく、2番ホームに電車が参ります。危ないですから、黄色い線の内側に…」

この駅にはホーム柵がある。

私はそのホーム柵を飛び越えた。これが最期の、最期の、最期の勇気を振り絞った結果だ。


私と電車がぶつかり、「ドン」という、低い音が響く。

その直後、私は意識を失った。






 はずだった。

「大丈夫か!」

「ごめんなさい…ごめんなさい…」

私は泣きながらひたすら謝った。

ごめんなさい、私は死に損ないです。生きていてごめんなさい。

そんなことを考えながら、担架に乗せられた。


 「とりあえず病院行くからね」

救急車に乗せられた。

幸い…と言いたいところだが、私には「不幸にも」という言葉が似合う。

電車が急ブレーキを使用し、私とちょっとぶつかるくらいで済んだようだ。

ああ、高額な賠償金などが…親に迷惑がかかる。死んだ方がマシだ。


 私はしばらく措置入院という形で精神科に入院することになった。

ここは頭のおかしい人を閉じ込めておく病院…なのかな。

私は一生ここに居てもいい。居てもいいけど…外の世界も見たいな。


「三宅さん、退院していいですよ。また辛いことがあったら遠慮なく来てください。」

「は、はい…ありがとうございます…」


外へ出て、福田が自爆して死んだと知った。

彼はきっとテロリストかなんかに利用された駒なのだろう。

私は最低なので、ちょっといい気分になった。


「井上にまた会えるかな」


最後に井上さんと会った駅に、井上さんの姿はない。

あの時死なずに、話していれば…いや、そもそも私のこと覚えていてくれたかな。


 私はこれから第二の人生を歩みます。

本当は警察官になりたかったけど、精神疾患が完治して数年経つまで公務員は受けられないけど、探偵っていうお仕事です。

 井上さん、あなたのこと、必ず見つけてまた話がしたいです。



 --


「柳巡査部長に続き、赤塚巡査部長と栗原巡査が殉職されたが…えー…受傷事故にはより一層気をつけていただきたい。どうか、今日も生きて帰ってきてくれ。」

「了解!」

今日も、部下が命を張って現場へ出る。

隊長としての思いは、生きて帰ってきてほしい。それだけだ。


「隊長、ちょっとよろしいですか?」

「ああ、どうした?」

「井上京子の件なんですが…」

「ああ、例の連続殺人犯か…」

執務室に、けたたましい注意喚起音が鳴り響く。

「至急至急、下川本部から下川中央!」

「至急至急、下川中央です!どうぞ!」

「調査方110番、アパートの一室で男性が血だらけで倒れている…現在詳細聴取中、しばらく待て」

「おいおい、殺人事件だ。現場判明次第、全車現場に向けろ!」

「詳細判明、床一面が血だらけで、男性が倒れている、なお、同室より腐乱臭があり……えー、現在通報者がもう1名発見、腐乱している状態、腐乱している状態、現場、橋上町2丁目5番19号、アスアパート、アスアパート、本件緊急指令とする、自動車警ら隊、機動捜査隊に全車出動命令を発令する」


本部から来た突然の殺人事件の一報。

待機していた隊員が大慌てで覆面パトカーに乗り込む。


そしてサイレンを鳴らして全車が出ていった直後、またけたたましい注意喚起音が鳴り響く。


「至急至急!下川本部から下川中央!」

「至急至急、下川中央です!どうぞ!」

「また調査方!地下鉄で負傷者多数、詳細判然とせず、なお本件通報多数、119番下川本部から要請済み!」

「至急至急、広域機捜1から下川本部」

「下川本部です、どうぞ」

「えー、地下鉄に刃物を所持した男、刃物を所持した男が…チェーンソー!チェーンソー!あっ、チェーンソーだ!」

「広域機捜1、落ち着いて状況報告を…」


 --

「今日は外が騒がしいなあ…」

下川県は治安が悪い。治安が悪いからか、常にパトカーや救急車のサイレンが鳴り響いている気がする。今日は初めての尾行。うまくいくといいな。

 「対象が地下鉄へ移動」っと。LINEで事務所に状況を逐一報告する。

対象が地下鉄へ乗った。下川市営地下鉄は常にカオスだ。昼間から酔っ払っている人、奇声を発している人、そして…えっ?チェーンソーを持っている人…?


 この日から3日間、下川県は悪夢の3日間を迎えることになる。

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