表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女集会のその後に   作者: 柴犬
第一章 人の子と女魔獣
28/29

二十七話 少年は帰還する


少年がパチリと目を覚ますと、そこは見覚えのある木で作られた天井だった。女魔獣の住処(すみか)の中にある自室だとわかった彼は慌てて飛び起きるが、それと同時に目が回りまたベットへと逆戻りした。


クルクルと回る思考と視界にぼんやりと、あぁ…帰ってきたのかと安堵のため息を(こぼ)す。既に辺りは暗く、それがあの料理を作った日から何日経ったのか少年には分からなかった。ただあの時間がそれはそれは遠いものに感じるだけだった。



「目が覚めたか…?」



どれだけぼんやりとしていたのだろう。いつの間にか人型姿の森の父が枕元に立って此方(こちら)を見ていた。心配げな色をうかべるその瞳に、少年は小さく頷く事で返答を示す。彼はそれに対して安堵の色へと変えることなく「無理をしたな、今はしっかりと休め」と優しく髪を()でた。その気持ちよさにまたウトウトと意識が混濁(こんだく)し、少年はゆっくりと(まぶた)を閉じる。最後に小さく森の父がなにかを呟いた気がしたが、少年にはそれは上手く聞き取れなかった。


目が覚めたら聞いてみようと、やっと悪夢は終わった安心感に少年は優しい夢の世界へとまた飛び立ったのだ。




次に目が覚めた時、少年の目の前に飛び込んできたのはあの見慣れた木の天井ではなく(きら)びやかな天井だった。ぼんやりとそれを(しばら)く見つめていれば、それが城にある自室の天井だった事に気が付き少年はガバりと起き上がった。今回は特に視界も回ること無くクリアなそれで慌てて辺りを見回せば、やはり所々に思い出が散らばるそこは、自分の部屋であった。



「帰ってきた…のか…?」



ポツリと呟いてみれば、それが夢ではなく現実であると認識する。しかし喜びよりも先に、森の父に会えなくなるのかという悲しさの方が大きかった。父上からも誰からも久しく貰っていないあの優しく暖かい眼差しがもう手に入らないのかと思えば、少年はなんだか誰からも不要とされているこの場にいる意味がよくわからなくなった。



小さなノック音が聞こえたのはそんな時だった。


部屋を見回していた視線を扉へと向ければ、丁度そこが開かれて一人の男性が入ってきたところであった。重厚な扉のすぐ側に()られたのはよくよく見れば父上で、目の前に居られる最後に見た記憶から幾分(いくぶん)()けたようにも思えるその姿を思わず凝視する。父上の大きく見開いらかれた眼は、しかし次の瞬間細まり「ルーカス…!…よくぞ、無事で…!」と少年の名を呼びながら感極(かんきわ)まった声で一歩一歩こちらへと歩み寄ってこられた。まるで少年の存在を確かめるかのように、ゆっくりとしかし力強く抱擁(ほうよう)されるその温かさに、少年はやっと城へ戻ってこられたことを実感した。



「…ただいま戻りました。父上」



そっと父上の背中へ手を伸ばせば、まるで答えるかのように増す力に少年は人知れず微笑みの表情を浮かべた。



その日の晩は優に一年ぶりであろう、父上と二人だけで楽しく夕食を食べたのだった。森の父や女魔獣の話、辛くしかし充実した鍛錬の話。


たったふた月の生活だったが話が尽きることは無く、夜も遅い時間まですれ違っていた親子の会話は続いた。



少年は、忘れていた。


たったふた月の、ある意味で平穏だったその日々によって。



なぜ自分が、あんな国の端の方にあるというあんな辺鄙(へんぴ)な場所で魔物に襲われたのかを。



なぜ母上が亡くなった後、合うのが辛いという理由だけで一年近くも放置されていたのかを。



その翌朝、父上と共にとっていた朝食の席で少年は血を吐き倒れたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
~本作に関してのお知らせ~
『魔女集会のその後に』 休止予告
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ