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魔女集会のその後に   作者: 柴犬
第一章 人の子と女魔獣
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二十二話 魔女は命令を下す


火の山の魔女と決着が付いたのは…夜も明け、陽が空高く登った頃だった。元々端がほつれていた魔女の白いワンピースは、先の戦いで更にボロくなってしまった。所々焼き切れてしまっているのは、目の前で自身の使い魔に甲斐甲斐しく傷を見てもらっている火の山の魔女のせいだ。


満身創痍(まんしんそうい)なカラスがそれでも我が愛し子を心配して「主っ!」と悲痛な声を上げながら今にも飛び立とうとするのを片手で抑えた魔女は、ギロリと赤毛の魔女を睨みつける。



「そう怒んなよ。言っただろう?別に殺しやしねぇって」



殺気を乗せた魔女の睨みにも動じずに彼女は楽しげに笑う。「途中から貴様が全力を出さなくなった事など気がついている。…彼奴(あやつ)何処(どこ)へやった?」と怒りから微弱な風をその身に(まと)わせた森の魔女の言葉に、カラスは既に愛し子が連れ去られた後だと言うことに気がついた。ならば一刻も早くこの目の前でニヤリと笑う火の山の魔女の口を割らさねばならないと、傷だらけの手を握りしめる。



「さて…な?」と(うそぶ)く忌々しい目の前の魔女に、「切り刻まれたいか…?」と苛立ちを隠しもせずに魔女は一陣の風を鎌鼬(かまいたち)として投げる。顔面に向かってきたそれを軽く顔を()らすことで避けた赤毛の魔女の隣で「ひぇええ!?」と悲鳴をあげたのは彼女の使い魔だ。



「あぁあ主様!なんでそんなに(あお)っちゃうんですか!?早く本当に知らないって言っちゃいましょうよ!」

「あ、おい!」



「もー!貴女って魔女はいつもいつもぉお!」と半泣きで(すが)り付く使い魔の男を鬱陶(うっとう)しげに足蹴にする彼女を他所に、魔女は時間が経ち少し戻った魔力で自身の使い魔を回復させた。どうするつもりだと視線で問いかける使い魔に、魔女はふいと視線を逸らして指示を与える。



「まだ森からそう離れてはいない。恐らく湖の魔女の使い魔が見張っているだろう、見つけ次第合流し危機が迫るまで待機しておけ」

「なっ!?それは幼子を危険に(さら)せというのか!?」



そう言っていきり立つ過保護なカラスに、「後手に回るのは趣味ではない。都合よく囚われてしまったならば奴らのアジトを叩く良い機会でもある」と魔女は苦虫を噛み潰したような顔をしつつそう言った。



「なんだぁ?てめぇもやっぱりわかってんじゃん」



使い魔の男を片足で踏みながらグイッと口角を上げた火の山の魔女を、森の魔女は鋭く睨みつける。「貴様らが無能だからだろう」と(とげ)を指す魔女に、「言うじゃねぇか…!」と睨み返されるがしかしそれを否定はしない。


蜥蜴(とかげ)の尻尾を切るように、捕まえられるのは下っ端の有象無象ばかりでなかなか頭が出てこない。そんな状況に苛立っているのは、なにも火の山の魔女だけでは無いのだ。



「いけ、カラス」



短く命令を下した森の魔女の言葉には抗えない魔力が乗せられており、今にも舌打ちをしそうな勢いで使い魔は人型からその身を鳥の姿へと戻した。『火の山の魔女よ、この仕打ち高くつくぞ』と黒い瞳に少しの殺意を乗せで睨みを向けたカラスは大きく翼をはためかせて暗い洞窟を抜け青空へと飛び立った。



カラスの言葉に「使い魔の(しつけ)がなってねぇなぁ?」と肩を(すく)めた火の山の魔女に、また魔力が少し回復した森の魔女が自身の身を綺麗にし近くの岩に腰を下ろしつつ「それはお前の方もそうだろう」と未だに彼女の足の下に居るひょろりとした男を残念な物を見る目で見遣(みや)ったのだった。


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