十七話 集会は霊峰の山頂で
今回は第三目線になります。
予めご了承ください。
人々が暮らす大陸から離れた小島に聳える天まで届く山、霊峰。神が住む山やら異世界へ通じる道があるやらと色々な逸話がある、その山の頂上付近。そこに常ならば居ないはずの人影が八つほどあった。
何処から運び込んだのか分からない石造りな重厚の円卓に四人の女がそれぞれ席についていた。その卓上には紅茶や菓子、軽食などまるで茶会のような状況だが、そこにあるのは和やかなものとは程遠く、誰一人話さず重苦しい雰囲気が漂っている。
そんな雰囲気を壊すかのようにカップがソーサーに触れるカチャリという軽い音が響いた。沈黙を破った音を出したのは美しい金髪に彩られた美女だった。全身を覆う漆黒のワンピースに映える腰まで長く波打つ金髪と合間から見える雪のように白い肌がとても美しい。
艶めかしくため息をついた湖の魔女をじろりと睨んだのは、赤髪の美少女。青地に白い袖が付いている動きやすそうなワンピースから覗くのは浅黒い肌。頭上付近でひとつに束ねている短めの赤髪がアクセントになっている。紫紺色をしているツリ目を更に釣り上げた火の山の魔女は苛立ちを隠さずに力強く机を叩く。石造りなそれはビクともせず、更に少女を苛立たせた。
「おいっ!何時になったら話すつもりなんだよてめぇは!」
「まぁ、話というのはタイミングが大切なのですわ火の山のお方」
うふふと頬に手を当て笑う湖の魔女に大きく舌打ちしたのは火の山の魔女ではなく、銀髪の美女だった。腰まで続く、美しくそして真っ直ぐな銀髪と合わせるように身に纏うのは白いワンピース。何故か所々にやぶれが見えるが、それがまたシンプルな服に合い意外と違和感はない。宝石のような翠色をした瞳で睨みつけた森の魔女はつまらなさそうに肘をついた。
「お前の話が無ければ、さっさと私から報告を行うが?」
清楚なその姿からは想像もできないような凶悪な表情でギロリと再度睨みつけた森の魔女に意に返さず、湖の魔女はニッコリと笑いティーポットを手に取った。
「まぁまぁ、短気は損気と言いますわぁ。紅茶でもいかがかしら?」
「いらん」
冷たくあしらった森の魔女と違い、ズイとカップを差し出したのは黒髪の美幼女。湖の魔女と同じ黒色の服だが、こちらのほうはレースが多く人形が着るようなドレスのようになっており頭上に付けたリボンがまるで猫耳のように見え、そこから流れ落ちるツインテールも含めて大分あざとい。赤眼をキラリと光らせて紅茶を所望する洞窟の魔女へ、湖の魔女はおかわりを注ぎ足した。
「なんだこのほわほわ空間はっ!くそっ!腹が立つ」
そう言って苛立ちに目の前にあったサンドイッチにかぶりついた火の山の魔女が「意外と美味いな」ともう一つ手に取る姿を見て、森の魔女は内心お前もそうだろうと呟いた。しかし、自身もお気に入りの胡桃のクッキーをちゃっかり自分の前に置いて確保している為、決して口には出さないが。
「うふふ、皆様お寛ぎいただいているようで良かったですわぁ」
「それではそろそろ本題に…」と口を開いた湖の魔女は背後に控える侍女へと視線を向けた。シンプルな黒いメイド服を来ている彼女は、爬虫類の様な縦長の瞳孔を若干伏せながら湖の魔女へと用紙を渡した。それにサッと軽く目を通した彼女は、各魔女の元へと滑らせた。各々それを掴んだ魔女達は書かれた内容に眉を寄せる。
「魔獣生成、だと…?」
そこに書かれていたのは湖の魔女からの報告書。この世に御座す二柱の神々の力の片鱗が生き物に取り込まれることにより生まれる魔獣。内に入り込み暴れ回る見えない力に対抗するが如く、目につく全てのものに襲いかかるその習性は神々でさえ頭を悩ます種である。特にこの女神の大陸ではそれが頻繁に現れており、元々その調査も兼ねて四人の魔女はこの大陸へとやって来ていた。
「あんな成れの果てなど作って、何をするつもりだ」
「どうやら戦に使いたいとの事ですわぁ」
そう言って湖の魔女は片手を頬に当てため息を零す。「戦だぁ?…たく、人間ってのは本当によく分からん」と火の山の魔女は読み終わった報告書を無造作に机へと放った。
「…キメラ?」と呟いた洞窟の魔女に「そんな物だろう、恐らくこれを使うんだろうな」と返した森の魔女は、懐から一本の薬瓶を取り出した。まるで血のような赤黒い砂が入ったそれに、興味津々と洞窟の魔女が身を乗り出す。
「先日森へやってきた害虫達が持っていた物だ」
「異様な力…」
風を操り洞窟の魔女の元へとその薬瓶を飛ばした森の魔女が「解析は任せた」と言えば、既に四方八方からそれを眺め始めていた洞窟の魔女はおざなりに頷いた。
「調査によりますと秘石作成に、秘めたる力というものが必要なそうですわぁ。恐らく秘石というのがそれなのでしょう」
報告書を読みながらそう言った湖の魔女に、「石っていうか砂だけどな」とボソリと火の山の魔女が呟いた。それに対して森の魔女が「元々石だったが、触ると砂となり消えた。特殊な薬瓶に入れたから消えぬのだろう」と補足を入れた。
「…気をつける」と異様な砂に心を奪われながらも、しっかりと話を聞いていた洞窟の魔女は了承を伝えたのだった。




