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魔女集会のその後に   作者: 柴犬
プロローグ
1/29

少年は王と遭逢する



鬱蒼(うっそう)()える木々の合間を、少年はただひたすらに駆けていた。その少し日に焼けている肌には真新しい無数の切り傷があり、またひとつ新たな傷がすれ違う草木によって付けられる。


元は華やかであったと思われる衣装は、今や泥や破れによって見るも無惨な有様になっている。(つね)ならば、身だしなみについて口うるさく言うお付きの者達の言葉も今は無く。聞こえるのは己の荒い息遣い、時折不気味に聞こえるカラスの鳴き声…そして何よりも、背後から木々をなぎ倒しながら彼を追いかける、異形の物の突き進む轟音(ごうおん)


後方から聞こえる恐怖の音に屈しない様に我武者羅(がむしゃら)に進んでは居るが、終わりの見えない死の追いかけっこに彼の気力は既に尽きかけていた。



その時、背後からこの世のものとは思えないような咆哮(ほうこう)と共にビュンという風を切る音が聞こえた。



剣術で鍛え上げ、かつこの極限の状態で研ぎ澄まされた反射神経を用いて、なんとか体を(ひね)りながら横へと(かわ)した少年の目の前を、己の倍以上はあろう大木が通り過ぎた。もし当たっていたら間違いなく即死だろう事は想像に容易く、彼の顔面が蒼白になる。


すぐ後に今まで少年を追っていた追跡者も目と鼻の先を通り過ぎ、()ぐには止まれないのか急減速した後、少し離れたところで停止した。


まるで闇を(まと)っているような(もや)(おお)われた巨体が、ゆっくりと振り返る。先程飛んできた大木の三倍はありそうな四足のその異形は、まるで(いのしし)のような体格をしていた。魔物特有の血のような(にご)った(あか)い目が、(うごめ)く闇の合間からじっとこちらを見ている。



「お前が…魔王、か…?」



そのおどろおどろしい風格の中から見える王者のような貫禄(かんろく)に少年は思わずポツリと呟いた。



その時、近くの枝で羽根を休めていた一羽のカラスがまるで危険を知らせるが(ごと)く鋭い鳴き声を上げた。その声に続くように異形の魔王も再度咆哮(ほうこう)を上げ、此方(こちら)へと向かってくる。



目の前から訪れる死の恐怖に、少年は既に立ち上がる気力も無く何処かぼんやりと魔物を見つめた。


誰かが言った、死ぬ瞬間世界は減速する。その言葉通りに何もかもが緩やかに動いて見える。痛いのは嫌なのでせめて一撃(いちげき)仕留(しと)めて欲しいな…等と思いながら彼はゆっくりと、その灰色の目を閉ざした。



しかし痛みは何かが頬を(かす)ったのかその一点のみで、それ以降は何故か痛みも衝撃(しょうげき)もない。勿論、呼吸はしており心臓は変わらず早鐘を打っている。



おかしい。そう思い、恐る恐る目を開けた彼の瞳に映ったのは、闇よりも濃い漆黒(しっこく)



「え…」



思わず口から零れ落ちた言葉に、突如(とつじょ)目の前に現れた、全身に黒を(まと)っている人物はちらりとこちらを見やった。


黒髪の隙間から覗く真紅の瞳にどきりとするが、不思議と恐怖は無く(むし)ろ安心感すらもある。しかし、その目前には首が綺麗に無くなっている、今の今まで自身を死に追い詰めていた魔獣の荒れ果てた姿があり、知れず身を強ばらせた。



フッと小さく笑った男か女か分からないその人は、その後あらぬ方に鋭い視線を向た。



「従順なのか、強情なのか…本に我が配下は癖の強い者が多い…」



困ったものだと、全く困ってなさそうな感じで一息ついた目の前の人物に少年は「あの…」と恐る恐る声を掛けた。そんな彼にチラリと再度視線を向けたその人は、「少し眠れ」と語りかけてこちらに片手を伸ばした。



何が…と思う間もなく、何処か不機嫌そうなカラスが一羽鳴き声を上げたのを最後に、少年の意識は闇へと落ちていったのだった。



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