転生 ✻前半アリシア 後半ハルカ
熱くて、苦しくて、体が溶けそう。
今までの発作とは比べ物にならないくらいの高熱で朦朧とした意識の中、ふと感じた温かな光。
その光は柔らかく、優しくわたしの体を包み込んで……
「あ、起きたー?」
ふと目を覚ますと、初めて見る広い広い草原。
物語の中でしか見たことがなかったのでしばらく見入ってしまいました。
「とってもきれいだよね!」
可愛らしい女の子の声がした方に目を向けると、そこには草原には少し場違いな真っ白なテーブルとイスがあり、そこには4人の方が座ってわたしの方を見ていました。
ぼーっとしているわたしに痺れを切らしたのか、4人の中でも1番小さな女の子がわたしの方へと歩いてきました。
そして、わたしの前にしゃがみこむと首を傾げながら話しかけてきました。
「んーと、大丈夫?立てる?」
そこで、ようやくわたしは自分がずっと座り込んだままだったことに気が付きました。
慌てて立ち上がろうとすると、女の子はそっと手を差し伸べてくれました。
「ありがとうございます」
「いいんだよー。
それより早くみんなのとこに行こ!自己紹介しなくっちゃ」
女の子と手を繋いだ勢いで立ち上がり、そのまま歩いてしまいましたが、わたしは内心驚きでいっぱいでした。
今まで、こんなにしっかりと自分の足で歩いたことなんて1度もなかったからです。
また、いつもならほんの短い距離でも体が悲鳴をあげ息をすることも辛くなるのに、痛みなんてまるで無く嘘みたいに体が軽かったのです。
あまりの衝撃に呆然としているうちに席に着いていたようで、固まるわたしを置き去りに自己紹介が始まりました。
「よし!ななたちの主も目を覚ました事だしちゃんと自己紹介をしようか。
ななは本郷 菜那、7歳。病気でずっと入院してたんだけど、あの子のお陰で退屈な入院生活からおさらば出来たよ!これからよろしくね」
……………ん?
1人目からちょっとよく分からない言葉が多くて自分の体の事が頭から飛んでいってしまいました。
まず、主とは?それに聞いたことの無い響の名前。それに、病気はわたしも患っているので分かりますが、ニュウインとは一体何でしょう?
混乱しているわたしを置いてけぼりにしてどんどん自己紹介は進んで行きます。
「菜那ちゃんね、よろしく。
私は碓氷 春夏、歳は28よ。秋冬とは双子よ。あっちの世界では外資系の会社で働いてたの。やっと秋冬とゆっくりできる時間が出来て嬉しいわ。」
「僕は碓氷 秋冬、春夏の双子の弟だよ。向こうでは小学校で教師をしてたんだ。みんな、これからよろしく」
「……東雲 龍三、78…
…元大工」
そして、最後に全員の視線がわたしの方へ向きました。ガイシケイとかショウガッコウとか分からない言葉がいっぱいですが、とりあえずわたしも自己紹介をしないとですね。
「わたしは、アリシア・ルゥ・フィリオと申します。パスラウス王国、フィリオ公爵家の長女です。明日がわたしの誕生日で5歳になります。みなさま、よろしくお願いいたします。」
わたしの自己紹介が終わると今度はハルカさまがわたしに今の状況を説明してくださりました。
「アリシアちゃんと言うのね。では、あなたもいきなりで混乱していると思うから、僭越ながら私から説明させてもらうわね。
まずは、お誕生日おめでとう!実はあなたが倒れてから日をまたいでしまったからもう5歳ね。目を覚ましてから皆に沢山祝ってもらってね。
話を戻すわね。ここはあなたの精神世界。つまり、心の中よ。だから現実ではできない事もここでは出来たりするの。
そして、私たちのことだけどこれは話すと長くなるわ。聞いてくれるかしら?」
もう誕生日になってしまっていたのね。セシルもお父様もお母様もお兄様達もお屋敷のみんなもきっと心配してるわ。
でも、
せいしんせかい?
こころのなか?
つまり、ここはわたしの中という事なのでしょうか。確かに彼ら以外何も無いこの空間は空っぽなわたしそのものなのでしょうね。
あ、お話の途中なのでした。
ハルカさまに頷き返し、わたしは彼らがどうしてここに居るのかを聞かされたのでした。
______
私はその日まで、ただ変わらない毎日に辟易しながらも自分の力で変えることもできず、内心不満を抱えながら生きていた。
あの日、久しぶりに双子の弟である秋冬と会い2人で買い物にでも行こうと車に乗っていた。
その時、対向車線を走っていたトラックが私たちの目の前に突然飛び出してきた。ぶつかると思った瞬間私達はあの空間にいた。
そこで、あの神様を名乗る少女に聞かされた事実にはとても驚いた。正直なところ私は秋冬さえいればあの世界に未練など微塵もないので、少女の提案に悩むことも無かった。
その提案とは、異世界に転生すること。地球に転生するなら今の記憶を消さなければならない。それならば、異世界であっても秋冬という大切な弟と一緒に居られる方が幸せ。それに、神様に確認して秋冬とはなるべく近くに転生出来るようにしてもらったし。例え姿が変わったとしても私が秋冬を間違える訳が無いし秋冬が私を間違える訳が無いのだから。
そういう訳で、転生を選択したのだけど私達は失念していた。
地球での私達の死因が神様のミスであることを。
転生して、目を開けた時とても驚いたわ。
新しい体になっているのだと思ったら前のままだし、すぐ隣に秋冬が居るし、もっと言えばあの空間で一緒だったお爺さんと女の子も一緒だし。
本当に転生出来たのか確認しようにも神様にどうやって連絡をつければいいのか分からなくて私達はみんなで困り果てていたの。
そんな私達の元へやってきたのが1人の天使だった。比喩とか冗談じゃないわ。背中に真っ白な翼があって、頭上には淡く光る金色の輪があったもの。
ミュールと名乗った女性の天使は申し訳無さそうな表情で丁寧に説明してくれたの。
転生は無事に行われたものの、またもや神様のミスで1人の少女の元に4人の魂が入ってしまったこと。ここは、その少女の精神世界であること。
本人は生死を彷徨っていた影響で、こちらでもまだ目覚めていないこと。少女のこれまでの人生、病気のこと。私達が少女の中に居ることによるメリットも。
ミュールは私達が希望すればいまから新しい体を創ってくれると言ったけど、そこまで説明されて出ていくと言えるほど私は強くないの。
だって、私達が居ないとこの子が死んじゃうって事じゃない。
それに、私の望みは秋冬と一緒にいること。
その望みは既に達成されてるんだし、私はここに残ることに異存はなかった。
ミュールが言うには主を通してこの世界を見ることもできるし、これはまだまだ先の話になるけど、主が許可すれば少しの時間なら主の体を動かしたり現実世界に顕在したりすることもできるようになるみたいだし、これから主とは良好な関係を築いていけるように努力するわ。
ちなみに、この精神世界は私達の想像したものも自由に出せるみたいだから、好きなものを再現することができるの。だから退屈もしないわ。もっとも秋冬がいれば退屈とは無縁なのだけど。
「という訳で、主であるアリシアちゃんに私達の滞在許可をいただきたいのだけど、許してくれるかしら?」
という事で、アリシアちゃんの体に入っちゃった4人の簡単な紹介でした。
外見はあまり深く考えてなくて、可愛いくて知的な女の子、敏腕な美女、優しそうな青年、職人気質なお爺さんという感じのふわっとしたイメージで書いてます( ˶¯ ꒳¯˵)
読んでいて分かりにくいところなどあれば、教えていただけると嬉しいです。
ちなみに、「死んだのに冷静過ぎ!」とか「アリシアちゃんと菜那の言動が年齢不相応」とか、いろいろと思うところがあると思いますが(私も思います)これはファンタジーなのです。あしからず(`-ω-´)✧