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その9

「くっ、こいつ! でも、たましいって、それに、お姉ちゃん……? まさかっ! あんた、りりあの……」


 貝子みるこがひるんだすきに、彩乃が再び光の刃を出現させ、横なぎに払います。貝子みるこも弓を剣に変えて防ぎますが、威力を殺せず剣が吹き飛びます。


「しまった!」


 はじき飛ばされた剣に飛びつこうとする貝子みるこでしたが、前方を真空波がさえぎります。「キャッ!」と身をひるがえす貝子みるこでしたが、そのふわふわの金髪が、バサッと斬られて宙を舞ったのです。


「えっ……ミルちゃんの、髪……。てめぇっ! 許さねぇ、絶対に許さないから! くそっ、レイヴン!」


 貝子みるこがピィーッと口笛を吹きます。先ほどの、真っ黒なカラスが貝子みるこの肩に止まりました。どうやら貝子みるこのナビゲーターのようです。貝子みるこは乱暴な口調でレイヴンに命令しました。


「あれをやって! 早く!」

「いいのか? せっかく貯めたレーヴが無駄になるぞ」

「いいから早く!」


 レイヴンは羽をバサバサと動かして、ポンッとクレへと戻りました。


「あれはまさか……せりか、まずい、逃げられるよ!」


 ロップがさけびますが、すでに貝子みるこは、クレにくちびるをふれていたのです。そのとたん、貝子みるこのすがたがフッと闇に溶けて消えてしまいました。


「えっ、なに、どういうこと?」


 なにが起こったのかわからず、せりかが混乱したようにあたりを見ました。


「ここまで来て、逃げられるなんて……!」

「逃げるって、え、それって、夢の中から出たってこと?」


 せりかに聞かれて、彩乃はくやしそうにうなずきます。せりかはますます混乱した様子で、さらに聞きます。


「でも、一度夢に入ったら、その夢の主にさわって、夢を吸収しない限り、夢からは出られないんでしょう? でも、さっきの人、矢部君にはさわっていなかったはずよ」

「いや、夢から出る方法があるんだ。彼女はそれを使ったんだよ」


 ロップがふわふわとせりかの元へ飛んできながら、答えました。


「クレは吸収した夢を、レーヴとして貯めておける。それを現実世界で使うことで、他人の心を読んだりすることができるんだ。でも、このレーヴを大量に使うことで、夢から強制的に脱出することができるんだよ」

「そんな力があったなんて」


 ぼうぜんとするせりかに、彩乃が苦々しげにいいました。


「レーヴを大量に消費するから、そんな力は普通使わないし、知っているタピールも少ないわ。でも……せっかくここまできたのに」

「……ごめんなさい」


 せりかが肩を落としてうつむきます。彩乃は首を横にふりました。


「せりかがあやまることじゃないわ。これはわたし個人の問題だもの。……むしろ、あなたまで巻きこんでしまってごめんなさい」


 頭を下げる彩乃に、せりかもあわてていいました。


「そんな、彩乃さんこそあやまらないでよ。わたしはわたしのすべきことをしただけよ。だってあの女の人、楽しい夢ばかりを吸収するみたいなこといってたから、頭にきちゃって。……あっ、そうだわ、この夢、どうしよう!」


 けげんそうな顔をする彩乃に、せりかはぼうっと光る人影を指さしました。夢の主である矢部君です。先ほどよりも、だんだんと光が弱くなっているように見えます。


「もしこのまま夢を吸収したら、せっかく楽しい夢を見ていたのに、悪夢になってしまうわ。でも、吸収しないことには出られないし……。あ、そうだ、さっきあの女の人が使っていた技を使えば!」


 せりかがロップを見ましたが、ロップは赤い風船をゆらしながら、ふるふると首をふりました。


「残念ながらそれはできないよ。せりかの貯めたレーヴじゃ、夢から脱出するには足りなすぎる」

「そんなぁ……」


 がっかりするせりかでしたが、じっと矢部君を見つめていた彩乃が、ゆっくりとせりかに向きなおったのです。少し考えこんでいるようでしたが、やがて口を開きました。


「楽しい夢を見続けさせることはできないけれど、悪夢を見させない方法はあるわ」

「えっ?」


 驚くせりかに、彩乃は矢部君にすたすたと近づいたのです。


「あっ、ちょっと待って!」

「大丈夫、もちろんふれたりしないわ。ただ、あなたもすぐそばに来ておいてちょうだい。タイミングが大事なのよ」

「タイミング?」


 わけがわかりませんでしたが、それでもせりかは彩乃と矢部君のすぐそばにきます。彩乃は矢部君を指さし続けました。


「だんだんと光が弱くなってきているでしょう?」


 彩乃にいわれて、せりかはこくりとうなずきました。うすぼんやりとした光は、なんともはかなげで頼りなく見えます。


「これは、彼の夢が悪夢に変わっていこうとしている証拠なの。このまま待っていれば、光はなくなり、悪夢へと変わるわ」

「そんな、それじゃあ!」

「大丈夫よ、彼が悪夢を見ることはないわ。……悪夢に変わった瞬間に、この男の子にふれれば、悪夢の芽を摘むことができる」


 さらりといってのける彩乃を、せりかは口をパクパクさせながら見ていましたが、ようやく言葉が戻ったのでしょう。彩乃にたずねました。


「どうしてそんなことを知っているの?」

「わたしもタピールとして、それなりに夢の世界を経験しているのよ。だからわかるわ」

「そうなんだ……。ねぇ、彩乃さんはさっきの女の人、貝子みることかいってたけど、あの人をずっと追っていたんでしょう? いったいなにがあったの?」

「それは……」

その10は本日1/26の21時台に投稿予定です。

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