その7
神経を逆なでするような、間延びしたしゃべりかたに、せりかは大声でどなりかえします。
「いったい誰? どうしてわたしを攻撃するの!」
砂煙の中から、ふらりと女の人が現れました。見た感じでは、せりかよりも少し年上の、高校生くらいに見えます。ピンクと白の、アイドルのようなミニスカートの衣装を着ています。ふわふわにカールした金髪に、真っ白な肌、それにぱっちりとした目はまるでモデルのようです。手には、色とりどりのジュエルで、きらびやかにデコレーションされた小さな弓がもたれています。
「うふふ、どうしてって、今いったじゃなぁい。ミルちゃんの獲物を横取りしようとするからよぉ」
「せりか、あそこ見て!」
女の人のとなりに、真っ白な光に包まれている男の子が座っています。色がついているのを見るに、この夢の主である矢部君でしょう。せりかが駆け寄ろうとしますが、足元に矢が放たれたのです。剣で矢をはじき、せりかは女の人をにらみつけました。
「だからぁ、だめだってぇ。この子の夢は、ミルちゃんのものなんだからぁ。この子の夢って、ストロベリーパフェみたいに甘くっておいしいのよぉ」
「なにいってるの! 楽しい夢を食べたら、その人はかわりに悪夢を見るのよ、それでもいいんですか」
返事のかわりに矢が飛んできます。剣ではじき返しますが、さっきよりも重く手がしびれます。女の人は地面にペッとつばをはき、せりかに矢じりを向けました。
「お説教は嫌いなのよ、生意気なガキね!」
甘ったるい響きなのに、不良のような言葉遣いで、せりかはびくっと固まってしまいました。女の人はふふんと勝気に笑います。
「この子の夢を味わうだけでぇ、おとなしく帰ろうと思ったけどやーめたぁ。あんたに焼き入れてから味わうわ」
女の人の弓から、矢が何発も放たれました。ものすごい早撃ちです。剣で矢をはじくうちに、どんどん刃こぼれしていきます。せりかは横っ飛びで矢をかわし、新しい剣を出現させました。左右に飛び動き、狙いをしぼらせないようにします。
「なっまいきぃ! ちょこまかとうっとおしいガキだわ! これでも食らえ!」
突然女の人が弓を空に向けたのです。そのすきを逃さず、剣に風をまとわせて、せりかが一閃します。しかし、女の人も踊るように身をひるがえし、真空波をかわしたのです。
「せりか、気をつけて!」
ロップの叫びが耳に入り、せりかはハッと上を見あげました。空に放たれた矢が、空中でパァンッとはじけました。そしてその矢の残骸が、いっせいに新たな矢に変わったのです。
「うそでしょ!」
空から何百もの矢の嵐が、いっせいにせりかにおそいかかってきます。
「アハハハハッ! そのままハリネズミになっちゃえ!」
女の人の勝ちほこったような笑い声が、一気に矢が風を切る音にかき消されました。せりかはぎゅっと剣の柄をにぎりしめて、そして視界がまぶしい光におおわれたのです。せりかは思わず目をつぶりました。
「キャッ!」
カカカカカンッと、小気味良い音が耳をくすぐります。まったく痛みもありませんでした。せりかは恐る恐る目を開け、ゆらゆらとゆれる光のカーテンを見あげました。何百もの矢の嵐を、その光のカーテンがはじいて砕いているのです。まるでそれは……。
「これって、バリア?」
「そうよ、わたしが作り出したわ」
いつの間にか、せりかのとなりに彩乃が立っていました。右手には分厚い本を持っています。
「彩乃さん!」
「おしゃべりはあとにしてちょうだい。剣を構えて!」
矢の嵐が収まると同時に、彩乃はぱたんと本を閉じました。二人をおおっていた光のカーテンが消えてなくなります。
「どういうことぉ? なんでミルちゃんの矢が、あんたをハリネズミにしてないわけぇ? ……って、誰よそいつ?」
女の人が目をぱちくりさせています。その肩に真っ黒なカラスが止まりました。
「あいつもどうやらタピールみたいだな。どうする、貝子?」
貝子と呼ばれた女の人は、ふふんと楽しげに笑いました。
「あらぁ、そんなの決まってるじゃなぁい。あのガキ生意気だしぃ、ちょっと焼き入れないとムカつくでしょ」
そういうと、貝子はせりかを余裕しゃくしゃくといった表情で見つめました。そして……。
「あらぁ、さっきもう一人いなかったかしらぁ?」
「わたしはこっちよ!」
彩乃のよく響く声とともに、青い稲妻が貝子めがけて放たれました。目にも止まらぬ速さで矢を放ち、貝子はなんとか稲妻を相殺しますが、それでも地面にしりもちつかずにはいられませんでした。
「いったぁっ! いったいなんなのよ!」
「ようやく見つけたわ、覚悟しなさい!」
その8は本日1/26の19時台に投稿予定です。




