その17
せりかは口をぽかんと開けたまま、なにもいえませんでした。目の前にいる女性が、本当に自分たちの次元とは違う、まさに『リアリアン』という別の種族だと、いまさらながら気づいたのです。
「さて、わらわたちの次元は、そなたたちの貯めたレーヴにより、莫大な量のエネルギーを得ることができた。当初わらわが予測したエネルギーよりも、はるかに高いエネルギーだ。しかし、そなたたちのエネルギーをクレなどというちっぽけな装置で回収するより、いっそのことそなたたちの次元をのっとってしまえばいい。わらわはそう考えたのだ」
「のっとるだと?」
勇樹の槍が、再びリリアンナに向けられます。リリアンナはまったく気にする様子はなく、余裕の表情を浮かべています。
「そうだ。しかもそなたらの見る夢が、わらわたちにのっとるための兵器まで与えてくれたのだ。わらわたちリアリアンには到底考えつくこともないような、恐ろしい兵器を、そなたたちは夢の中で見ているのだ。あとはそれをわらわたちの科学力で現実に生み出してしまえば、ドリーミアンの次元だけではない、他に存在するあまたの次元を、全てわらわが支配することも可能となる」
「むちゃくちゃな考えだな。だが、そんなことおれたちが許すと思うのか?」
「くっくっく、そなた、りりあの恋人だといっておったな」
「だったらなんだ?」
勇樹の槍を見つめながら、リリアンナが笑い出しました。底冷えのするような笑い声でした。
「いや、まさにそなたらが知るりりあと彩乃が、同じことをわらわたちにいいだしたのだ。いいだすだけではなく、あの愚か者たちは、わらわたちを封印しようとしたのだ。ドリーミアンの次元に適したたましいだったがゆえに、あのものたちはわらわたちよりも、そなたたちに近い考え方をするようになった。つまり、『愛』などという理解しがたい感情を、この次元全体に対して持つようになったのだ」
「あの二人は、リリアンナ様とわたしを封印した。しかし、主人格であるわれらを封印した代償に、あの二人もリアリアンに関する一切の記憶を失い、そのままドリーミアンとして転生してしまったのだ」
アーヤの言葉に、リリアンナはうなずきました。
「封印されたまま、わらわたちはあの二人のたましいの片隅で、長い間待ち続けた。当然その間も、そなたらのように眠りにつくことは許されず、長い間、ずっと意識のみの状態であの二人のたましいの中に存在し続けた。そのおかげであろうが、クレのシステム自体は生き続けた。リアリアンの次元を救うだけではなく、そなたたちドリーミアンの次元を侵略し、のっとるほどのエネルギーを貯め続けてな」
リリアンナはくるりと貝子に向きなおりました。
「そなたにも感謝をせねばならぬな。直接的に封印を解いたのはそなたなのだから」
うずくまっていた貝子が、顔をあげました。
「そなたが彩乃の精神世界で、レーヴを解き放ったことが、封印を解くエネルギーをアーヤに与えたのだ。もともと封印自体が弱まっていたところに、エネルギーを吸収することもできたため、完全に封印を解くことができた。しかもそなたはりりあのたましいまで持っていてくれた。そのたましいの持つエネルギーで、わらわの封印も解くことができたということだ」
貝子はなにも答えませんでした。ただ、呆然とリリアンナを見つめるだけです。リリアンナは再びせりかと勇樹を見つめました。
「さあ、それでは答えを聞こうか。そなたらはなにを褒美として望む? 莫大な富か? 永遠の命か? わらわたちの持つレーヴを使えば、その程度の奇跡はいくらでも起こすことができるぞ。……わらわに服従し、ドリーミアンの次元侵攻に協力するならな」
「……お前、本気でいっているのか?」
勇樹の言葉に、リリアンナは首をかしげました。
「そうだが? そなたたちドリーミアンは、富や永遠の命といったものを最も好むだろう? それを与えるというのに、いったいなにが不満なのだ?」
「不満だらけよ! どうしてわたしたちが、自分たちの住む次元を侵略するのに力を貸すっていうの? それ以上に、彩乃さんと、彩乃さんが大事に思っていたりりあさんを消滅させるような人たちになんて、絶対協力なんてしないわ!」
せりかが剣を構えました。勇樹も槍をリリアンナに向けます。貝子はまだ座りこんだまま、じっとしています。
「ふむ、やはりドリーミアンとはよくわからぬ。だが、仕方がない。そなたたちには感謝しているが、わらわたちに逆らうのならば、処分せねばならぬな」
リリアンナがレイピアを取り出しました。刀身が冷たく銀色に輝いています。
「まあよい、すぐに心変わりするだろうからな」
ぽつりとつぶやき、リリアンナはおもむろに空中をレイピアで突きました。とたんに勇樹が悲鳴をあげたのです。
その18は本日1/28の19時台に投稿予定です。