その15
「えっ? どうして?」
ピンク色の光は、遺跡に描かれていたまぶたのない目に吸収されてしまったのです。貝子はもちろん、勇樹もなにが起きたのかわからないようです。そのとき、遺跡が強い揺れに襲われました。
「なに、いったいなにが起きているの?」
「わからないけど、ものすごいエネルギーを感じるよ! せりか、気をつけて!」
剣で地面を刺し、せりかは地震の揺れで倒れないようにふんばります。勇樹も同じようにたえていますが、貝子はしりもちをついています。
「あっ、あそこ!」
せりかが指さした先には、彩乃の銅像がありました。しかしさっきまでとは違い、銅像の全身が、赤い光に包まれています。銅像はパキパキとひび割れて、ついには砕けてしまいました。そしてその中から現れたのは――
「彩乃さん?」
そこに立っていたのは彩乃でした。しかし、せりかは近づくことができませんでした。黒だったはずの彩乃の目が、紫色になっていたからです。
「本当に、あなたは彩乃さんなの?」
彩乃らしき人影は、首をふりました。
「お前の知っている彩乃ではない。いや、わたしの名は、彩乃ではない。わが名はアーヤ。あの憎き彩乃とりりあに封印されていたものだ」
彩乃よりも抑揚のない、まるで機械のような口調でした。
「アーヤ? 封印? それっていったい、どういう」
せりかがいい終わらないうちに、アーヤは一瞬で貝子のとなりに移動し、貝子の腹を殴ったのです。グッとくぐもった声をあげる貝子から、アーヤは赤い光を奪い取りました。
「リリアンナ様のたましいは返してもらうぞ。さあ、それでは復活の舞台へ、お前たちも招待しよう」
目がくらむような光が、せりかたちを照らしました。せりかは思わず目を手でおおいます。さらに、からだが浮き上がるような、変な感じまでするのです。やがて、その感覚がだんだんとうすれてきたころに、せりかは目を開きました。
「えっ、ここは、どこ?」
さっきまでいた遺跡よりも、さらにたくさんの柱に囲まれていたのです。しかも、そのどれもが太く、あのまぶたのない目の模様もびっしりと彫りこまれています。
「彩乃さんの夢の中じゃない」
あたりを見わたすと、勇樹と貝子も近くにいました。貝子はまだおなかが痛むのでしょうか、うずくまっています。
「その通り。ここは先ほどまでの夢の世界ではない」
抑揚のない声が聞こえてきました。アーヤです。
「わが力で、あの夢の中からリリアンナ様の精神世界へと移動したのだ」
「リリアンナ?」
勇樹が聞き返しました。
「そうだ。お前たちがりりあと呼んでいたものの真のたましいだ」
「どういうことだ? りりあとは別に、もうひとりりりあがいるってことか?」
アーヤは答えずに、遺跡の奥へと進みました。そこにはりりしい表情の、女の人の銅像が立っていたのです。彩乃の部屋で見た、りりあさんにそっくりでした。
「これでついに、偽りのたましいは消去される。長かった封印のときが終わり、われらリアリアンの時代が幕を開けるのだ!」
アーヤは貝子から奪い取った、赤い光を銅像にささげました。銅像に赤い光が吸いこまれ、銅像が光り始めました。そして、またも強い揺れが襲ってきます。さっきよりも強い揺れに、せりかも立っていられません。彩乃の銅像と同じく、パキパキとひび割れていき、中からりりあの姿をしたものが現れました。
「いったい、どうなってるんだ?」
勇樹の問いかけに答えるように、りりあの姿をしたものが、ゆっくりと目を開きました。アーヤと同じく、紫色のひとみをしています。
「ようやく封印をとくことができたか。ずいぶんと長く眠っていたように思える。アーヤよ、レーヴは十分にたまっているのか?」
心が吸いこまれてしまいそうな、心地よい声でした。どこかで聞いたことがある、せりかはそう思いました。
「リリアンナ様、われらリアリアンの次元を維持する量はもちろんのこと、ドリーミアンの次元を侵略するだけの量まで貯蔵されているようでございます。」
「そうか。封印されている間も、レーヴがたまり続けていたのは幸運といえるな。ドリーミアンの次元に存在するエネルギーは、計り知れぬものがある。その次元をのっとることさえできれば、わらわの故郷の次元も永遠の繁栄を約束されることであろう」
リリアンナが笑い出しました。最初は押し殺すように、それがだんだんと高笑いに変わっていきます。その様子を見ていた勇樹が、槍をリリアンナに突きつけました。
「お前は、りりあじゃない! りりあを、おれの恋人をどうしたんだ?」
リリアンナは勇樹のほうを振り返りました。
「ああ、そうであった。そなたたちもわらわの復活に手を貸してくれたのであったな。ほめてつかわそう。褒美として、望むままの奇跡を起こしてやる」
槍を持つ勇樹の手がふるえています。勇樹はリリアンナをにらみつけました。
「質問に答えろよ! りりあはどうなったんだ」
リリアンナが真顔になりました。しばらく勇樹を見ていましたが、その視線が少しずつ哀れみの色を帯びていきました。
「なるほどな。そなたたちドリーミアンの精神構造には常に驚かされるが、特にその愛情というものは、われらリアリアンには理解しがたい。……だからこそ、この次元には計り知れぬエネルギーで満ちているのだがな。まぁよい、教えてやろう。そなたが知るりりあは消滅した。真のたましいであるわらわが目覚めたために、創られたたましいであるりりあは消えてなくなったのだ」
本日1/27の投稿はここまでとなります。
その16からその20までの5話はまた明日1/28に投稿する予定です。
明日もどうぞお楽しみに♪