その13
「ここが、彩乃さんの夢の中なの?」
そこはせりかの想像とはまったく違う世界でした。たとえるなら、テレビで見たエジプトの遺跡のようです。砂と石だらけの、殺風景な世界でした。夢の中なので、色もまったくなく、余計に不気味に思えます。クレを外し、せりかはロップを出現させます。
「油断しないでね、せりか。この世界はなにか変だ。なにが起こるかぼくも予想がつかないよ」
「わかってるわ。それに貝子もこの世界にいるんだし。それにしても、この目の模様はいったいなんなの?」
石で作られた柱には、まぶたのない、大きな目の模様がたくさん彫られていたのです。それが全部自分を見つめているようで、せりかは背筋が寒くなるのを感じました。
「でも、この模様、どこかで見たことがある気がするわ」
「せりか、この世界はなにかが変だよ。なんというか、夢の世界って感じじゃないんだ。それよりも、こう、人工的っていうか」
「人工的? 誰かに作られた物だっていうの?」
「ぼくもわからないよ。でも、とにかく人間の夢のような、うねりっていうか、そういうものが感じられないよ。とにかく気をつけてね。貝子もそうだけど、それ以上にこの世界が危険な気がするよ」
まぶたのない目の模様が、じろりとにらんだような気がします。せりかは思わずきょろきょろしました。
「大丈夫、今のところ貝子の気配はしないよ。でも、先のほうになにか強いエネルギーが感じられるよ」
「それって、貝子?」
「いや、違うと思う。というかぼくにも、なにかわからないんだ。ただ、普通の夢で感じる、夢の主の存在に近い気がするよ。こっちだ」
ロップがふわふわと進んでいきます。せりかも剣を構えたまま、慎重にあとを追いました。すると、柱で囲まれた円形の広場に出たのです。灰色の世界の中に、赤い光が見えます。いつでも盾を出現できるように身構えながら、せりかは赤い光に近づきました。
「これって、彩乃さん?」
そこにあったのは、彩乃の姿をした銅像でした。胸の部分が赤く光っていたのです。
「もしかしてこれって、彩乃さんの肉体に残った、たましいなんじゃないの」
「そうみたいねぇ。それじゃあ、ミルちゃんにそのたましいをわたしてもらうわよぉ」
バッとうしろをふりむくと、ふわふわの金髪をさわりながら、貝子がニヤニヤしてたっていました。すかさず矢のマシンガンが襲ってきます。せりかも剣の盾を出現させ、矢をはじき飛ばします。今度は矢が雨のように降りそそぎましたが、それも剣の屋根で防ぎます。
「でも、この矢は防げないわよねぇ」
貝子は弓をキリキリと張り詰めて、赤い矢を何本も撃ってきました。せりかは剣で衝撃波を放ち、矢を相殺していきます。
「けっこううでを上げたのねぇ。でも、いつまで持つかしらぁ」
余裕しゃくしゃくの貝子は赤い矢を空に放ちました。真っ赤な矢の嵐がせりかを襲います。
「せりか、まずい!」
「大丈夫!」
せりかは剣の屋根に魔力をこめ、思い切り空に解き放ったのです。巨大な剣が、爆風と矢の嵐を吹き飛ばします。
「なっ、そんなことが……」
呆然とする貝子に、せりかは剣を振りました。
「きゃっ!」
真空の刃が、一瞬で貝子の肩を切り裂いたのです。真っ赤な血が灰色の世界に飛び散ります。
「このガキ! ガキ、ガキ、生意気なガキ!」
姿勢を低くして、せりかは貝子との間合いをつめました。貝子は弓を剣に変形させ、せりかを迎え撃ちます。
「調子に乗りやがって、絶対許さないわ、切り刻んでやる!」
重くするどい斬撃ですが、せりかは最小限の動きで受け流し、すきを待ちます。横なぎの剣をはじかれ、貝子が振りかぶった瞬間に、せりかは貝子の腹を蹴り飛ばしました。
「ぐふっ!」
ひるむ貝子に、今度はせりかが切りつけます。右、左、突き、払い、貝子とせりかの間に、火花がいくつも飛び散ります。
「あぁもう、うざったいガキ! レイヴン!」
真っ黒なカラスが、せりかめがけて飛びかかってきました。するどいくちばしを剣ではじきますが、貝子はそのすきを逃しませんでした。
「もらったぁ!」
貝子の剣がせりかのわき腹に直撃……したかに見えましたが、刃が真っ黒な槍に阻まれています。
「なに、この槍?」
貝子に向かって、黒い槍が何本も飛んできます。転がるように貝子はよけて、槍の飛んできた方向に矢を放ちます。キンッと甲高い音がしました。
「誰よ! 出てきなさい!」
背の高い男の人が、すたすたと二人のところへ歩いてきました。手には両側に刃がついた、黒い槍を持っています。
「貝子、その子から離れろ」
貝子の顔から、サーッと血の気が引きました。弓を下ろし、か細い声でつぶやきます。
「どうしてユウ君が……?」
その14は本日1/27の20時台に投稿予定です。