表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/25

その11

 それ以上は言葉になりませんでした。背中をふるわせる彩乃を見て、せりかはためらいがちに髪をなでてあげました。しばらくそうしていましたが、やがて彩乃は顔をあげました。


「だから、お姉ちゃんのたましいを取り返すために、ずっとあの女を捜していたの。そして、ようやく手がかりが見つかった。貝子みるこがこのあたりをテリトリーにしていることがわかったもの」

「でも、あの女の人も彩乃さんがこのあたりにいるって知ったから、もう来ないんじゃないの? だって、あっちだって彩乃さんには会いたくないわけでしょう。それならきっと避けるんじゃ」

「ううん、避けないわ。それどころか、あいつは必ず現れる。貝子みるこは傲慢で自信家だから、きっとわたしを避けるんじゃなくてわたしを倒そうと思うはずよ。そして、絶対に勝てるって思ってる。だって、お姉ちゃんのこともうまくだましたんだもん。それならわたしみたいな小娘は、もっと簡単に倒せるって思うわ。そこを狙うの」

「狙うっていっても、どうやって狙うの? だって、誰の夢に入るかもわからないのに。それに、もしかしたらもう夢に入らないかもしれないじゃない」

「それはないわ。だって、あいつはクレに貯まったレーヴを使って、夢から脱出したんだもん。そこで使った分をまた貯めようと考えるはず」

「でも、誰の夢に入るのかはわかるの?」

「ええ。あいつはきっと、わたしを直接狙ってくるはずよ」

「彩乃さんを?」


 心配そうなまなざしのせりかに、彩乃はなにかを考えているようでしたが、やがて軽くうなずきました。


「あいつのやり口は決まってる。わたしが幽体離脱しているときに、わたしのたましいを狙ってくるはずよ」

「ちょっと待って、まさか、彩乃さん、自分のたましいをおとりにするつもりなの?」

「そうよ」


 すました顔でうなずく彩乃に、せりかは口をパクパクさせていましたが、すぐに彩乃の肩をつかみました。


「だめよ、そんなの! 危険すぎるわ!」

「そうね。それに、あの女がわたしのからだに入ったら、わたしは自分のからだに戻れなくなるわ。だから、この作戦はわたしだけじゃどうにもならないの」

「じゃあいったい、どうするつもりなの? ……まさか」

「そうよ。せりか、お願い。わたしがおとりになるから、あの女を、貝子みるこを捕まえて」

「そんな、無理よ! もし失敗したら、あなたのたましいまで失われるのよ。そんなこと、わたしにはできないわ」

「お願い、これは最後のチャンスなの。お姉ちゃんのたましいを取り戻す、最後のチャンスなの。わたし一人じゃ、貝子みるこを捕まえることはできないわ。せりかの力が必要なの」

「けど」


 とまどうせりかの手を、彩乃がぎゅっとにぎりました。手の冷たさを感じて、せりかは思わずその手をにぎりかえしました。


「せりかには妹さんがいるでしょ。もしあなたが妹さんのたましいを奪われたらどうする? ずっと目覚めないで、たましいのない抜け殻になってしまったら。なにをしてでも、たましいを取り戻そうとするでしょ。わたしもそうしたいの。わたし一人じゃできないけど、でも、あなたがいればお姉ちゃんを助けられる。……お願い、わたしを、わたしたちを助けて」


 最後はしゃくりあげながら、彩乃はせりかの目を見つめました。自分のぬくもりが伝わるように、せりかは彩乃の手をしっかりと包みこみました。覚悟を決め、せりかはしっかりとうなずいたのです。


「わたしに倒せるかどうかはわからない。でも、持てる全ての力を使って、あなたのたましいを守るわ。それに、あなたのお姉ちゃんのたましいも、取り返してみせる! 信じて待っていてくれる?」

「……うん、ありがとう」


 目じりを指でぬぐってから、彩乃は矢部君へと視線を移しました。


「……さ、わたしの手をつかんで。そろそろ悪夢になるわ」


 もうほとんど光を失っていた矢部君のからだが、とうとう暗闇に溶けて消えそうになりました。せりかは優しく彩乃の手をにぎりしめます。彩乃はじりじりと手を矢部君に近づけていましたが、次の瞬間、手を矢部君だったかげに突っこんだのです。


「キャアッ!」


 なさけない悲鳴をあげて、せりかは自分のベッドで目を覚ましました。思わず彩乃の手をにぎっていた左手を見つめます。


 ――初めて手をつかんだときは冷たかったのに、さっきの彩乃さんの手は、温かかった――


 そのまませりかは、ぽふんっとまくらに顔をうずめて、今度は本当の眠りへと落ちていくのでした。

その12は本日1/27の18時台に投稿する予定です。本日はその15までの投稿を予定しております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ