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その10

 いいよどむ彩乃の手を、せりかがそっとつかみました。驚く彩乃に、せりかはにこりと笑いかけます。


「彩乃さん、お姉ちゃんがいるんでしょう? わたしには琴美ことみって妹がいるの。……わたしがタピールになったのは、琴美ことみが心配で、なにか力になれないかって思ったからなの。……わたし、新米タピールだし、なんにも手助けできないかもしれない。でも、なにか力になれるかもしれないわ。……なにがあったのか、話してくれない?」


 彩乃の切れ長の目が、わずかに大きくなりました。静かに息を吸いこむと、彩乃は静かにうなずきました。


「お姉ちゃんは、わたしより四つ年上で、りりあって名前なんだけど、わたしにとって本当に自慢の姉だった。勉強も、スポーツも、なんでもできて、それでいて自慢したりもせず、誰にでも優しかったわ。特にわたしには、いつも優しくしてくれた。だから、わたしもお姉ちゃんのことが大好きだった。……そして、お姉ちゃんはタピールだった」

「彩乃さんのお姉さんも?」

「うん。他の誰にもいっていなかったけど、お姉ちゃんはわたしにだけは教えてくれた。他人の夢を吸収する、魔法のような力を持っているって」

「そうだったんだ。だから、彩乃さんはタピールのことについても、詳しかったのね」

「うん。でも、本当はわたしは、ずっと昔から知っていたの」

「えっ、だって、さっきお姉ちゃんが教えてくれたっていってたじゃない」

「そう。でも知っていたの。だって、わたしもタピールだったから。……お姉ちゃんを心配させたくなかったから、いってなかったけど、わたしはタピールとして、物心ついたころにはすでに覚醒していたわ」


 彩乃はなぜかさびしそうに笑い、そして首をふりました。


「でも、なぜか知らないけれど、わたしにはタピールが持っているはずのクレがなかった。だからもちろんレーヴを貯めることもできなかったし、あなたの相棒のロップのような、ナビゲーターもいなかったわ」


 彩乃の言葉に、ロップが風船をゆらゆらゆらしてうつむきました。


「それだけじゃない。わたしはクレを持たなかった代わりに、なぜか人の心を読むことができたの」

「えっ、でも、それって」

「そう。あなたたちタピールが、クレを使って心を読むように、わたしも人の心を読むことができた。それも自然にね。でも、わたしにとってそんな力、ないほうがよかった。他人の気持ちが分かるってことは、知らなくてもいいことまで知ってしまうってこと。他の人が隠している秘密も、普段は表に出さない裏の顔も、全部わかってしまうのよ。幼い子どもにとって、それがどれだけ重荷になるかわかる?」


 彩乃の切れ長の目が、すっと細くなりました。


「わたしは他の子たちから、気味が悪い子っていうレッテルを貼られた。あとはお決まりのパターンよ。仲間外れにされて、いじめられた。でも、どれだけわたしが気味が悪い子でも、お姉ちゃんだけはわたしを助けてくれた。だからわたしも、お姉ちゃんの秘密だけは、読み取らないようにしたし、読み取ってしまっても絶対にいわなかった。そう、お姉ちゃんがわたしと同じタピールで、他人の夢にもぐることができると知っても」


 彩乃は言葉をきりました。


 ――そうか、わたしはただ漠然と、人の気持ちが知りたいって思ったけど、本当はそれって、とてもつらいことでもあったんだ。知りたくないことを知ってしまうって――


「きっとお姉ちゃんは知っていたと思う。わたしの力も、わたしがお姉ちゃんの秘密を読み取ってしまったってことも。でも、お姉ちゃんは決してわたしを責めなかったし、お姉ちゃんからわたしに秘密を明かしてくれた。それからわたしは、もっとお姉ちゃんのことを好きになったわ。それに、お姉ちゃんは決して白いもやには触れなかった。悪夢だけを吸収していたの。……せりかと同じように」

「あなたのお姉ちゃんも、そうだったんだ」

「うん。あなたはお姉ちゃんによく似てるわ。雰囲気もそうだし、他の人の悪夢だけを吸収するところも。でも、それがお姉ちゃんがたましいを奪われる原因にもなってしまったの」


 彩乃が強がるように顔をあげましたが、その横顔は、むしろ泣き顔よりもよほど悲しげに見えました。せりかは思わずたずねます。


「いったいどうして、たましいを奪われてしまったの?」

「タピールは自分のからだから幽体離脱するときに、からだの中にたましいを残しておくの。たましいが残っているからこそ、肉体とのつながりが保てるのよ。でも、その残っているたましいを奪われてしまうと、夢の主に触れても肉体には戻れなくなってしまうわ。つまり、永遠に夢の中に閉じこめられてしまうの」

「そんな……」


 せりかは言葉を失いました。


「あの日もお姉ちゃんは、きっと悪夢を吸収しようと戦ったんだわ。夢の主がトラウマに襲われているのを、ひとりで孤独に守っていたのよ。でも、あの女、貝子みるこは、それを利用して、お姉ちゃんのたましいを奪っていった。自分が好きな男の人と、お姉ちゃんが付き合っているっていうただそれだけの理由で」

「そんな理由で、たましいを奪ったっていうの?」

「そうよ。貝子みるこは、欲しいものはどんな手段を使ってでも奪い取る、最低な女よ。それが他人にとってどれほど大事なものであっても。貝子みるこはお姉ちゃんのたましいを奪うだけじゃなくて、お姉ちゃんの恋人まで奪ったのよ」


 静かな口調でしたが、彩乃の怒りはせりかにもひしひしと伝わってきました。くちびるをかんでうつむく彩乃に、せりかはえんりょがちにききました。


「でも、どうやってたましいを奪ったのがあの貝子みるこって人だとわかったの?」

「あの日の朝、いつも早起きのお姉ちゃんが起きてこないから、おかしいなって思って起こしにいったの。そうしたら、お姉ちゃんはベッドでお人形のように眠っていて。あわててお姉ちゃんの心を読んだら、あいつの、あいつのあざ笑う姿が見えて……!」

本日の投稿はこれで終了となります。

その11は明日1/27の17時台に投稿する予定です。

明日もどうぞお楽しみに♪

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