雪の降る夜に貴方の好きな物を
時刻は深夜。深々と雪が降る夜に、私は彼の元へ来た。
「ごめんね。こんなに遅くなって。最近仕事が大変でさ」
私は彼に差し入れを持ってくる。こんな寒い時には温かい何かがいいのだろうが、私は彼の大好物だった大福を買ってきた。
私はそれを彼の前に置き、一つを自分で取り、開けて食べる。
大福の仄かな甘みと、周囲のもちもちとした皮。その両方が私の何かを満たしてくれる。だから彼はこれが好きなんだろうか。5年も一緒にいたのに、なんとなくその事を聞くのが恥ずかしくて聞けなかったが、もっと前に聞けばよかったのだろうか。
「ねぇ、どうして大福が好きなの?」
「・・・」
分かっていたけど、彼からの返答はない。それでも、私は彼といることをやめない。彼の側にいる時が一番落ち着くから。
本当だったら今日も休みが欲しかったけれど、忙しいからと許しては貰えなかった。昔はこんなことを考えずにずっと一緒にいたのに、大人になったのに少し悲しい。
私は一口大福を食べる。その味は変わらず、私の口の中で甘く、優しく拡がってくれる。
私はそれをゆっくりゆっくりと噛んで食べきった。
そしてまた一口、彼に何を話していいか分からない。ここに来る前は一杯言いたいことがあったはずなのに、色々話そうと決めていたハズなのに。いざ彼の前に来ると言葉が出てこない。
「・・・」
「・・・」
私と彼の間に沈黙が降りる。
私は思い切って一番いいづらかったことを切り出した。
「私ね。引っ越すことになったの。仕事の都合でね。ちょっと遠くに行って欲しいんだって」
「・・・」
「それも、すぐには帰ってこれない。貴方に会うのも。年に一回会えるかどうか・・・」
私はそう言って俯いた。彼は怒るだろうか、悲しむだろうか。それとも・・・。
「・・・」
彼は何も言わない。そう。やっぱり私がおかしいだけだったのかもしれない。
私は大福の残りを全て食べきる。その大福は少ししょっぱい味がした。
「これ、良かったら食べて。それじゃあ。さよなら」
私は彼に別れを告げて、その場を去る。その頃には雪は降り止んでいた。
少しだけ、気持ちに整理がついたのかもしれない。そうだといいなと思いつつ、私は墓地を後にする。
Fin