表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

雪の降る夜に貴方の好きな物を


 時刻は深夜。深々と雪が降る夜に、私は彼の元へ来た。


「ごめんね。こんなに遅くなって。最近仕事が大変でさ」


 私は彼に差し入れを持ってくる。こんな寒い時には温かい何かがいいのだろうが、私は彼の大好物だった大福を買ってきた。


 私はそれを彼の前に置き、一つを自分で取り、開けて食べる。


 大福の仄かな甘みと、周囲のもちもちとした皮。その両方が私の何かを満たしてくれる。だから彼はこれが好きなんだろうか。5年も一緒にいたのに、なんとなくその事を聞くのが恥ずかしくて聞けなかったが、もっと前に聞けばよかったのだろうか。


「ねぇ、どうして大福が好きなの?」

「・・・」


 分かっていたけど、彼からの返答はない。それでも、私は彼といることをやめない。彼の側にいる時が一番落ち着くから。


 本当だったら今日も休みが欲しかったけれど、忙しいからと許しては貰えなかった。昔はこんなことを考えずにずっと一緒にいたのに、大人になったのに少し悲しい。


 私は一口大福を食べる。その味は変わらず、私の口の中で甘く、優しく拡がってくれる。


 私はそれをゆっくりゆっくりと噛んで食べきった。


 そしてまた一口、彼に何を話していいか分からない。ここに来る前は一杯言いたいことがあったはずなのに、色々話そうと決めていたハズなのに。いざ彼の前に来ると言葉が出てこない。


「・・・」

「・・・」


 私と彼の間に沈黙が降りる。


 私は思い切って一番いいづらかったことを切り出した。


「私ね。引っ越すことになったの。仕事の都合でね。ちょっと遠くに行って欲しいんだって」

「・・・」

「それも、すぐには帰ってこれない。貴方に会うのも。年に一回会えるかどうか・・・」


 私はそう言って俯いた。彼は怒るだろうか、悲しむだろうか。それとも・・・。


「・・・」


 彼は何も言わない。そう。やっぱり私がおかしいだけだったのかもしれない。


 私は大福の残りを全て食べきる。その大福は少ししょっぱい味がした。


「これ、良かったら食べて。それじゃあ。さよなら」


 私は彼に別れを告げて、その場を去る。その頃には雪は降り止んでいた。


 少しだけ、気持ちに整理がついたのかもしれない。そうだといいなと思いつつ、私は墓地を後にする。




Fin


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ