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09 352-02 重い家族会議(1512)

 ロスティスから帰還すると家族会議だった。


 とはいえナセルは、部屋に引き籠もったままだ。



「お爺様、初めに伺っておきたいのですが、ウルサスという男とは?」

 長兄フェルナンドは、気になっていたことを祖父ヘロンに聞いてみた。


 沈痛で重苦しい空気の中、ヘロンが話し始める。

「ウルサスは、恐らく帝国最凶といわれるフェローチェ騎士団の者だろう。貧しい地域の出身者は、傭兵も請け負うと聞いている」


 そして、深いため息……。


 なにか思うところがあるのだろう。


「誰かが、奴に依頼したのだろう。冬場の襲撃は最近はあまりなかったが、今年は不作だったことも遠因としてあるかもしれん」


「リュシスは面識があるようでしたが……」

 マルセルが口を挟む。


「アレは、どうやら帝国から送り込まれたようじゃ。お前と一緒に行った王都の修道院から引き取ったが、あのときの司祭は事件の前に殺されておった。先手を打たれて手がかりが無くなってしまった……」



 ナセルの母マリーは、うつむき皆に見られないように涙をこらえている。


 だが、お爺様は声を掛ける。


「マリー、苦労かけるがフェルナンドとマリウスを支えてやってくれ。今後の店の経営はフェルナンドが主となろう。王都ではむしろフェルナンドの方が顔が売れてきているから心配なかろうが、既存の顧客のつなぎ止めがのぅ」


「ご心配には及びませんわ、お義父さま。この子達は優秀ですもの。ただ、経営に一生懸命なので護衛を強化しないといけないかもしれませんね」


 サイモンは出自が出自だけに、文武に優れ、商売も順調だったし、ひとたび剣をとれば右に出るものはいなかった。だが、子供達は違う。


「あと、これを機に酒造部門をマリウスに任せようと思う」


「好きは、ものの上手と申しますものね、うふふ」


「あー、酒の味ならしっかりわかるぜ」

 次男のマリウスは酒を(あお)っていた。香りを楽しみ、余韻を堪能する。まるで父との思い出を反芻するかのように……。

 誰も咎める者はいない。


 仕込みの計画やら、発酵の管理、原価管理、営業……とすることは多い。もちろん、従業員がこれまで通り手伝ってくれるので、直ちに困ることは無いかもしれないが、内容は知っておかなければならない。


「そう単純であってくれるといいのじゃが……」



「とにかく、今は悲嘆に暮れていられる暇はなくてな……。すまんが、事業の継続に引き続き尽力をお願いしたい」


 久し振りの家族勢揃いだが、こんなことでもなければ全員が顔を合わせることもないというのも、贅沢な悩みなのかも知れない。


「あとマリー、情報を集めたい。裏の方は頼む」


 フィーデス商会の情報網は広く、気象、作柄、価格がメインではあるが、様々な情報が集まる。その全貌を知るのは、お爺様ぐらいである。


「わかりました」


 マリーのあやしい店に来るのは、意外と堅い商売や立場の人が多いのだ。普段のお堅い態度と裏腹に、店で鬱憤を晴らすのだろう。


「ところで……」


 マルセルが切り出す。


「リュシスはどうなるのでしょう?」


「死罪は免れんかもしれぬな。マルセル達が逃げるために必要な時間は、アレのお陰で稼げたようじゃが……」


「襲撃そのものは、恐らく自分たちの食料や金目のものが目当てでしょう。それに乗じて巻き込まれたと見せかけたかったのかと……」


「マルセルの言うのが正しいだろうな」


 フェルナンドがさらに冷静に付け加える。


「だが、襲撃犯に通じていたのだ。共犯として処断されるだろう」


「襲撃した側から見れば、父上を取り逃がすならそれでもよかっただろうに、なまじ狼藉をはたらくものだから父上達に多くの仲間を屠られて、被害の方が大きかったのではないかな」


 長兄の冷徹な分析だった。今後の商会の命運は、この男に委ねられたのだ。

ご覧頂き、ありがとうございます。

明けない夜はありません。

よろしくお願いします。

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