77 352-10 のんびりだらだらさせて~(2259)
ローディア王祝福の儀の後、王宮では引き続き大宴会が始まっていたが、ナスターシアは敢えて参加しないでいた。
そんなの参加したときには、ナスターシア争奪戦が繰り広げられるのは目に見えていたから……。
ナスターシアは、客間にもどり、着替えてベッドでゴロゴロと寛いでいた。
部屋には、お菓子と水が用意され、いつでも食べられるように準備してあった。極楽極楽……。
「ナスターシア様、失礼します。ヘロン様とマルセル司祭がお越しです」
「はーい、どうぞ~」
二人が案内されて入室する。
「うわー、随分豪華な部屋だね。昨日はここで大変だったんでしょ?」
「そうだよ~。生きた心地がしなかったんだからっ!」
「何を言っておる! 生きた心地がせんかったのは、儂じゃっ!! あそこまでやり込める必要はなかったのにじゃ!」
今日は少し顔色がいいお爺様は、プリプリと怒っていた。
「そんなこと言って、今日はちょっと元気じゃない?」
「そうじゃな、お前さんの名演説が効いたかもの……ふぁっふぁっふぁっ」
「でも、ナスターシアはどうしてあんなこと考えられて、知ってるの? 凄いや……。私の方が長く生きてるのに……」
「お兄様こそ、今回のウォームは絶品でしたよ! 強すぎなくて~」
「相変わらず、加減が難しくてね。それより、ナスターシアに街で流れている噂を知っておいて欲しいんだけど……」
「噂? ああ、戦争したいやつ?」
「そうなんだよ、プロパガンダって言うか……そこまでじゃないのまで含めて、いろいろね」
「なになに?」
「気を悪くしないでね……」
「え?」
「まず一つ。ナスターシアはシャルル王子と相思相愛で、だけど王子は国のために一生懸命断っていると」
「はあ?」
「続きがあって、その恋を横から奪おうとする騎士がいるらしいです。名前はまだ挙がっていませんが……」
「ちょっと、逆じゃない! しかもそれ、ジョエル様よね?」
「まあ、わかる人にはわかる感じでしょうかね。これで、ジョエル様はナスターシアに近づけません。上手いこと考えますね」
「感心しないでよ!」
「二つ目。ナスターシアの強さは一騎当千。歩く要塞。だから、今ならどこと戦争になっても絶対勝つ。でも、ナスターシアは超絶怖いから、近寄らない方がいい、と。そんな馬鹿な……ねぇ」
「仮に本当に一騎当千だとしても、それで戦局がどうこうなることはないよ! 素人かっ!!!」
「ナスターシアだって素人でしょ?」
「そうでした……」
(少なくとも今は……)
「三つ目。ナスターシアは性豪で、そのテクニックはまさに神! 男と言わず女と言わず交われば口づけだけで絶頂に達させられる、と。しかも視線を交わすだけで惚れてしまうそうですよ。よくわからないんですが、誰がこんなの流しているんでしょうね?」
(ギクッ)
「今、ギクッとしたよね? 何かあったの?」
「いやー、シャルル王子には男ってわかっちゃって……、リデリア様とはキスをちょっと……」
「なにやってんのっ!!! それで、王子はナスターシアを諦めたの?」
「関係ないそうです。ま、解ってはいましたが……」
「でも、それでどうしたら、あの噂になるのか……?」
マルセルには、そんなに気持ちのいいキスあるということが、まったく想像の範囲外だからである。良かったのか悪かったのか……。
「神力漏れの所為で……その……うっかりリデリア様まで」
「わかったよ、今後の動向を注視しておくね」
(え? なんでそんなに冷静なの?)
その後もとりとめのない話を、飽きるまでして、お爺様とマルセルは帰っていく。
「そうじゃ、ナスターシア。帰してもらえんかもしれんから、甲冑が返ってきたら、どさくさ紛れにこっそり修道院まで飛んでしまえ」
「そうします。服をお願いしますね」
「あ、それと。これじゃ」
小型の方位磁針だった。ナイス!!
「だだいまー」
と言うわけで、王都から修道院までサクッと飛行して修道院に帰ってきた。甲冑とヘルムの性能は、飛行特化なだけあって、より快適な飛行が実現した。しかも、一時間もかからないのだ。服はまだ改良の余地があるというか、普段着だから仕方ないのだが……。
修道院のテラスに降り立ったナスターシアは、テラスのドアをノックして開けてもらう。一応、鍵はついているから……。
「お帰りなさいませ。随分早かったですね」
クラリスが迎えてくれた。
「疲れたよ、クラリス~。お腹すいた~」
バタリとドアを閉めると、そのままクラリスにとりついて甘える。
「だいぶ冷えていらっしゃいますので、暖かくして下さい。お食事も用意させましょう」
暖かい、修道院に帰ってきた。なんだか落ち着く。
「クレールは?」
「シスター・クレールは弓の練習中です。あの後、襲撃を受けまして……。次は私も参戦するとか言われて」
「被害は?」
「特にありません。アラン様指示のもと、門を閉ざして外壁から迎撃したら、退却したようです」
「そう、良かった。詳細はあとでアランに聞きます。でも、クレールに弓は引けないでしょう。クロスボウかな?」
クレールが頑張っていたのは、やはりクロスボウだった。大弓は力がないと引けない……。女性がいきなり挑戦しても難しい。
速射ができて、馬上で使えて、距離も出るといういいことずくめに思えるが、扱いには熟練を要すのだ。
祝福の儀のあと、一週間はのんびり過ごすことができたナスターシアだった。
特に投石機の試射は圧巻で、重たい石がいくつも信じられない距離まで飛んで行った。ただし、目標に当たりそうな感じはまるでなかったが……。
こうして、少しずつではあったが周辺の開墾と、軍事教練が進められていった。