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74 352-10 ローディア王祝福の儀 3接吻(2456)

 シャルル王子とリデリア王女は、侍従二人を伴って千鳥足のナスターシアを客間へと連れて行った。


 直接、寝室に行く。

 ナスターシアは、ベッドに倒れ込んでしまった。


 食事でお酒が入ったのと、旅の疲れからか、失礼にもそのまま寝息を立て始めてしまう。


「お兄様、どうしましょう?」


「うむ……。事を為してしまいたい衝動が抑えられそうにない」


「ですが……婚前交渉は禁忌ですし、ましてや……」


「お前達は下がれ」


 シャルル王子は、興奮気味に二人の侍従へ退室を命じた。いつものことではあるものの、相手が相手だけに困惑気味に侍従達は部屋を後にする。


「ナスターシア……」


 シャルル王子は、妹が見ているのも憚らず、ベッドに横たわり寝息をたてるナスターシアに覆い被さり、その唇に自分の唇を重ねる。

 すぐに理性が後退していくのを感じていた。


「お兄様!! お止めくださいっ!!」


 リデリア王女の制止も、聞こえないようだ。


 既に眠りに落ちていたナスターシアだったが、さすがに息苦しくなり覚醒してくる。

 薄暗がりの中、なぜか眼前に黒い影……。そして、唇を奪われ、口の中といわず、外といわず、果ては鼻の穴まで舐め尽くされた。

 紅もファンデーションも舐めとってしまう勢いで。


(犬に舐められてる?)


 口の中の唾液を吸い出され、代わりに誰かの唾液が流れ込んでくるのを感じる。

 口のまわりが、チクチクする……。


 これは、ヒゲだっ!!


「む、うぅ……」


 声を上げようにも、口を塞がれていて声を出せない。


 舌が絡みつき、歯茎の裏をこすり、舌同士がふれあう……。


(あっ、ぅん……、らめ……)


 さらに執拗に濃厚な口づけは続く。


(んぁ……気持ちいい……。もう……このまま……)


 王子の手が、服の上からナスターシアの胸をまさぐる。

 そして、優しくそっとその小振りな膨らみを揉み(しだ)く……。


「んっ……あっ」


 胸の突起に、王子のしなやかな指先があたると、王子はそれを弄んだ。

「……ぁんっ」


 肉体的快楽に溺れ、耽溺しようとしたとき、びくんっと体が反応し、イヤーフックの飾りが頬に当たる……。


(あぁ……、これは……ジョエル様の……)


「や……めて……」




 徐々に覚醒の度合が高まると、ナスターシアは神力を使って王子の体を引き剥がす。


 シャルル王子は、なんだか得体の知れない力で、無理矢理ナスターシアから離れさせられてしまった。


「なんだ! どういうことだっ!」


「シャ、シャルル王子っ!! 一体何を……っ」


 馬乗りになったシャルル王子は、狼狽を隠さない。


「いまさら、拒絶するというのか?!」


 ナスターシアは、ぐいぐいとそのまま王子をベッドの外へと押しやってしまう。そこには、リデリアの姿もあった。


 体を起こして手で支える。


「リデリア様まで! どうして……こんな……」


「お止めしようとしたんですが……つい。でも、割といい感じでしたよ?」


 ナスターシアは羞恥に頬を赤らめる。


(それは、酔った勢いってやつですよっ! 冷静になれば、ダメに決まってます!)


「お兄様。ナスターシア様が男性であることも、確認出来たでしょう?」


(なっ!!!)


「ああ、ドレスがあんなに膨らんでいればすぐわかるだろう。(にわか)に信じ難い事だが……。まあ、そんなことはどうでも良いのだ!」


(あああ……、死にたい……、穴があったら入りたい……)


「どうでもよくはありませんのよ。わたくし、初めてマキナス以外にときめいてしまいそうですもの……」


「えっ? もしかして?!」


(神力がダダ漏れだーっ!!)


 酔っ払って、変なことされて、動揺して意識から遠のいていたけど、明らかに神力漏れしてる。

 やってしまった……。

 後は、効果が一時的なものか、永続的なものかわからないが、なんとなく原因がわかった気がする。


「ナスターシア様、お兄様だけではずるいと思います。わたくしにも、口づけさせなさい。私はいずれ外国に嫁ぐ定め。不憫に思うなら、口づけなど、他愛もないこと。違いまして?」


 今度はリデリア王女が、ずかずかとベッドに押し入ってくる……。


「キ、キスだけですよ……」


(もう、キスしたら帰ってくれるなら……)


 二人の瞳と瞳が、薄明かりの中で視線を絡めあい、やがて意を決したようにリデリアがナスターシアににじり寄った。リデリアの金髪が、ナスターシアの白銀の髪の上にさざ波のように寄せる。

 王女の左手はナスターシアの指に絡みつき、しっかりと握りしめられた。


 リデリアとナスターシアの小さく柔らかな唇同士が、重なり合う。


 リデリアはまるで当然かのように、舌を入れていく。腕をナスターシアの背中に回し、抱き寄せ、後頭部をもって押しつける。


 激しく求めるリデリア王女だったが、次第に互いの鼻息を感じながら、呼吸が荒くなっていく。


 シャルル王子は、二人の濃厚なキスシーンを、まるでお預けを喰らう犬のように傍観するしかなかった。


 ……なかなか終わらない。


 一体何が足らないのか、リデリアはキスをやめようとしない。ナスターシアは、舌で反撃し、リデリア王女の歯茎の裏を攻めてみた。


「ぅん……ぁっ」


 リデリア王女の甘い吐息が漏れる。


(なんだろう……、可愛い。もっと攻めてやれ)


 酔っている所為なのか、嗜虐心に火がついてしまう……。


 ナスターシアもリデリア王女の背中に手を回し、キツく抱きしめながら、舌と唇で徹底的に攻める!

 勢いで、押し倒してしまった……。後に倒れ込むリデリア王女。


 徐々にリデリア王女の息づかいと吐息が荒くなっていく。


 やがて、リデリアの体が硬直し、足の先までピンと伸びたかと思うと、ひときわ大きな声をあげた。

「ぅん……ぁあああーんんんっ」

 抱きしめる腕にも一気に力が込められ、体は時折ピクピクと脈打つ。


 まさかのキスだけで最果てを迎えてしまったようだった……。




「はぁっ、はぁっ……」


 ナスターシアも、戦いを終えた戦士のように肩で息をし、そして手の甲で、口のまわりについた液体を拭く。


 リデリア王女は、放心状態でベッドに寝転がってしまった。




 結局、リデリア王女はナスターシアと同じベッドで朝まで寝ていた。

 シャルル王子は、仕方なく自室に戻って、ひとり悶々とすることに……。

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