71 352-10 一難去って……(1873)
護衛の騎士達をつれて乗り込んできたものの、イーファに瞬殺されてしまい、味方であったはずの騎士達に反旗を翻され、修道院の外壁にある部屋に幽閉されてしまった修道院長の大司教ニコラ様。
「今日も元気だ、ご飯が美味い~♪」
イーファは、朝からあんなことがあったのに全く意に介していない……。トマを膝に乗せて、修道女達の食堂で、ぬくぬくと食事中であった。
「あの、シスター・イーファ。なにか欲しいものがあったら、仰ってください。出来る限り期待に添えるようにさせて頂きますので」
ほぼ、実権を握っていたのだった……。
その頃、ナスターシアは部屋で手紙を準備していた。
「なんだか、また大変なことになった気がするなぁ……」
「あんな豚に、ナスターシア様が辱められなくて、ホッとしていますよ!」
「……シスター・クレール、豚だなんて……、その通りだと思いますけど、ふふ」
クレールとクラリスは、かなり溜飲が下がったようだ。
「そうだ、クラリス。あの、私の破れた服なんだけど、袖と丈を詰めて、鎧を着たとき用につかえるようにできないかな?」
「お安い御用ですよ、ナスターシア様。膝上丈ぐらいにしたらよろしいんですよね?」
「そうです。袖も大きくて邪魔なので、短くしてください」
(さて、私は手紙手紙……と)
ナスターシアは、お爺様に手紙を書く。……日本語で。
年明けには、シャルル王子と婚約しそうなこと。大司教ニコラは、とても酷い人だったが、イーファの神力で廃人同然になりそうなこと。イーファを工房責任者にしたこと。お酒が飲みたいこと。
続いて、マリウス兄様宛。こちらは、普通に書く。
試作品の薔薇関連原料を送って欲しいこと。ガラス瓶が欲しいこと。
飲み過ぎに注意してね、と。
お母様にも書いておこう。
しばらく会えてないけど、元気にしてます。また、会いたいです、と。当たり障りのない内容になった。
(ああ、フェリアに帰りたいなぁ……)
「ナスターシア!」
クラリスに、服の採寸をしてもらっているとイーファとトマが来た。
トマは、イーファの後をトコトコとついてくる。
「なんだか、エロいな」
「エロくない!」
「あ、そうだ! 最近柔軟してないだろうと思ってな。どう?」
まあ、確かに……。
「そうだね。久し振りに、みっちりやってみようか!」
気分転換にいいかと思って、気楽に返事をしたが、激しく後悔することになった。
「ぐああああぁっ! いてててててて!」
声に驚いて駆けつけたクレールは、信じられないものを見た!
ナスターシアの足が、あり得ない角度で開かされている! ゆうに180度を超える角度である。
「だぁ――っ! 折れるっ!! 折れるぅー!! あ゛ー……」
しばらくすると、今度はのけぞり、足が顔の横まで達している状態のナスターシア……。
クレールの顔が蒼くなっていく。
「シスター・イーファ!! もう、それくらいで……」
「ん? 交代する?」
クレールは、全力で首を横に振る!!
「ちょっとだけ、やってみよ」
イーファの矛先が、クレールに変わる。
開脚のために、修道服のスカートをまくり上げるイーファ。
「おやめくださいませっ!!」
「審問ちゃん! やめてあげてっ!」
うっかり、あだ名で呼んでしまった。しかし、普通の女性は下に下着を着けていないので、モロ見えになってしまうのだ。いくらなんでも、良くない。
「そっか、ナスターシアはドロワーズはいてるもんね」
もう、敬意もなにもない。
「みんなにも作ってあげればいいのに」
「イーファは、穿いてるの?」
「何言ってるの? そんなの穿いてたら興ざめでしょ?」
(よく意味がわからない……)
「それよりさ、イーファ」
柔軟を終えて、立ち上がりつつナスターシアは念を押す。激しくやりすぎて、結構痛みが残っている……。
「私が王都に行っている間、留守番をよろしくね。アランとスカートめくり君は、置いていくから……」
「まさか、護衛もつけずに歩いて行く気?」
イーファは、しばらく思案し、改めて提案する。
「荷物だけ、馬車で送り届けて、あんたは飛んで行けば? その方が楽でしょ?」
「まあ……楽だけど……」
「ジョエルといちゃつきたいの?」
「遠慮ないね!」
まあ、確かにイーファの提案は、一考に値すると思われた。
しかし……。
「でも、やっぱり襲撃を受ける危険があるとわかっていて、囮みたいにするのは出来ないかな。今なら、私も戦力になるわけだし……」
王都まで、馬車なら五日。ちょうど、修道院長の件も片付いたので、のんびり向かうなら、明日にでも出立したい。
「やっぱり、明日、みんなと出発します。なので、よろしくね、イーファ」
「そう。気をつけてね。王子によろしく!」